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『黄金のタクトと、不格好なアップリケ』〜レアルの10番、下町でパパになる〜  作者: 筑紫隼人
第3章:指導者への道

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第92話 光のゴール

後半三十五分。


両チームが決定機を作り合っていた。


浦和のコーナーキック。


木村が頭で合わせる。


わずかに枠を外れた。


拓人は思わず天を仰いだ。


すぐに相手の反撃が始まる。


ルカが中盤でボールを持った。


十年前と変わらない。


しなやかな身のこなし。


拓人はベンチから、その姿を見つめていた。


かつて隣で見ていた技術。


今は、それをどう封じるかを考える立場だ。


立場が変わっても、憧れは消えていない。


浦和の守備陣が一気に囲みにいく。


だがルカは、その包囲を抜けた。


シュート。


キーパーが体を伸ばす。


ボールはコーナーキックへ。


拮抗した展開が続いていた。


ベンチの控え選手たちも声を上げる。


世界最高峰の選手たち。


その力を、目の前で見せつけられていた。


それでも、浦和の選手たちは足を止めない。


後半四十分。


スコアは、まだ動かなかった。


両チームとも足が重くなっている。


それでも誰も歩かなかった。


ルカが再び鋭いスルーパスを通す。


決定機。


木村が体を投げ出して防いだ。


スタジアムが一瞬、静まり返る。


拓人はベンチで拳を握った。


これが世界の強さだった。


観客席の一角から、日本人サポーターの声が響く。


その声援は、ベンチまで届いていた。


拓人は一瞬だけ、そちらを見る。


後半四十二分。


浦和がボールを持った。


木村から翔太へ。


翔太から光へ。


光が中盤でボールを受ける。


一人、かわす。


二人目もかわす。


疲労を感じさせない鋭い動きだった。


光の脳裏に、これまでの日々がよみがえる。


孤立していた自分に声をかけてくれた木村。


過去を語り合った公園のベンチ。


「お前だけじゃない」


拓人の言葉。


あの日々が、今につながっている。


ペナルティエリア手前。


相手の守備が一気に寄せてくる。


だが、光は止まらない。


もう一人、かわす。


キーパーと一対一。


スタジアム中の視線が、光に集まった。


拓人は思わず息を止める。


ベンチも静まり返った。


光がシュートモーションに入る。


一瞬だけ、時間が遅くなった。


これまでのすべてが、光の足に乗っている。


シュート。


ボールがゴール隅へ飛んでいく。


キーパーが指先で触れた。


だが、届かない。


ゴールネットが揺れた。


1-0。


後半四十三分。


決勝点だった。


スタジアムが爆発するような歓声に包まれた。


光が両手を広げ、ピッチを駆ける。


木村が飛びつく。


翔太も続いた。


若手選手たちが、その輪に加わっていく。


拓人はベンチで両手を突き上げた。


全身から力が抜けていく。


坂上が拓人の肩を叩く。


「監督、決めましたよ!」


「はい」


拓人の声は掠れていた。


それ以上、言葉が出てこない。


胸の奥だけが熱かった。


ピッチでは、選手たちが光を囲んでいる。


光は涙を拭い、ベンチを見る。


拓人は小さく拳を突き上げた。


それだけで十分だった。


翔太が光の肩に手を置く。


「よくやった」


「お前の読みがあったから、つながった」


短いやり取り。


それだけで、二人の間にあるものが伝わった。


木村も輪に加わる。


観客席では、日本人サポーターが日の丸を振っていた。


拓人は、その光景に頭を下げる。


木村がベンチへ向かって叫んだ。


「監督、まだ終わってませんよ!」


「わかってる。気を抜くな」


拓人の声にも力が戻った。


だが、試合はまだ終わっていない。


残り時間は二分。


ここからアディショナルタイムに入る。


相手が最後の力を振り絞り、攻め込んでくる。


拓人は選手たちへ声を飛ばした。


「集中を切らすな。まだだ!」


「最後まで走り抜け!」


選手たちが深く頷く。


翔太が最終ラインへ指示を飛ばす。


「まだ二分だ。集中切らすな!」


数ヶ月前には、想像もできなかった声だった。


拓人は、その声を聞いていた。


ここまで来た。


自分たちで戦えるチームになった。


相手が選手を前線へ送り込む。


浦和の陣形が押し込まれていく。


拓人はベンチから指示を続けた。


「間延びするな! 距離を保て!」


「一人で抱えるな! 周りを使え!」


選手たちは声に応える。


何度も繰り返してきた約束事が、ここでも生きていた。


コーナーキック。


相手の長身選手が高く跳ぶ。


木村がその前に体を割り込ませた。


ヘディングは、わずかにゴールの上。


スタジアムから、どよめきが起きる。


拓人は両手を握りしめた。


ルカがボールを持つ。


そのまま前線へ駆け上がった。


拓人の視線が、その背中を追う。


十年前。


隣で戦った男。


今は、目の前に立ちはだかっている。


あの頃、二人で未来の話をした。


「いつか、どこかで、また一緒に戦えたらいいな」


ルカは、そう言っていた。


まさか、こんな形になるとは。


共に喜びを分かち合った男がいる。


今は敵として、最後の一点を奪いにくる。


ルカが鋭いミドルシュートを放つ。


キーパーが渾身のセーブ。


ボールを弾き返した。


拓人は大きく息を吐く。


時計の針は進んでいる。


残された時間は、あとわずか。


浦和は、この一点を守り切れるのか。


その答えが出るまで、あと少しだった。


◆次回予告◆


アディショナルタイム。


緊迫した攻防が続く。


笛が鳴る、その瞬間を拓人は見届けられるのか。


そしてスタンドには、拓人が探し続けてきた「あの人」の姿があった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマークや評価をいただけると励みになります。


一つひとつの応援が、この物語を最後まで書き切る力になっています。


次話もお付き合いいただければ嬉しいです。

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