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『黄金のタクトと、不格好なアップリケ』〜レアルの10番、下町でパパになる〜  作者: 筑紫隼人
第3章:指導者への道

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85/93

第85話 ACLE決勝進出

ホテルのロビーは、翌朝から騒がしかった。


日本から来た記者たちが次々と拓人を囲む。


「決勝進出、おめでとうございます」


「ありがとうございます」


「浦和にとって何年ぶりの決勝か、ご存知ですか」


拓人は少し、考えた。


「詳しい年数は、正直わかりません」


「でも、選手たちがここまで来たことは、誇りに思います」


記者たちがその言葉を書き留めていく。


光も、別の記者に囲まれていた。


「篠田選手、決勝への意気込みは」


「勝つだけです」


短い答えだったが、記者たちは満足そうに頷いた。


坂上が拓人の隣に立った。


「クラブとして、久々の大舞台です」


「歴史を、また一つ積み重ねられる」


拓人は、その言葉に頷いた。


部屋に戻ると、スマートフォンが震え続けていた。


佐藤から。


節子からも。


木村家族から。


フェニックスの子供たちからも次々とメッセージが届く。


拓人は一つずつ目を通した。


蓮からの動画を、再生する。


フェニックスの練習グラウンド。


子供たちが、また横一列に並んでいた。


「拓人コーチ、決勝もいけます!」


声は、前より揃っている。


蓮が最後に、こう付け加えていた。


「俺たちも、負けないくらい練習してます」


拓人は、その一言に目を細めた。


木村もその動画を横から覗き込んでいた。


「監督、これ見て、泣きそうです」


「泣くのは、勝ってからにしろ」


木村は苦笑いしながら頷いた。


光が、部屋にやってきた。


「監督、決勝の相手、発表されましたよ」


映像資料を開く。


サウジアラビアの、絶対王者。


アジア最多優勝を誇る、名門クラブだった。


「化け物ですね、これ」


光が率直に、言った。


「化け物だな」


拓人もその通り答えた。


「でも」


拓人は続けた。


「俺たちも、ここまで来た」


光は、しばらく黙っていたが、やがて頷いた。


翔太も、映像を見つめたまま口を開いた。


「監督、この相手のFW、研究します」


「頼む」


翔太の目に、静かな闘志が宿る。


「勝ちましょう」


その夜、拓人は家族とビデオ通話をつないだ。


画面に、家族全員の顔が並ぶ。


「パパ、決勝、頑張って」


葵が真っ先に言った。


「ありがとう」


誠が少し身を乗り出した。


「相手、強いんだろう」


「かなり」


「それでも、お前らなら」


誠はそれ以上言わなかった。


言わなくても、伝わるものがあった。


結衣が画面に顔を近づけた。


「ぱぱ、また、かって」


「頑張るよ」


通話を切った後、拓人はしばらく画面を見つめていた。


決勝まで、あと数日。


これまでの、すべてが試される舞台が近づいていた。


坂上から最後にメッセージが届いていた。


「明日から、ここジッダで、最終調整に入ります」


「決勝まで、あと三日」


拓人はその文面を、静かに読み返した。


窓の外、ジッダの街に、夜の明かりが灯り始めていた。


◆次回予告◆


すべてを賭けた一戦が、いよいよ幕を開ける。


アジア最多優勝を誇る絶対王者を前に、拓人が下す最後の采配とは。


積み重ねてきたすべてが、ジッダの夜に試される。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマークや評価をいただけると励みになります。


一つひとつの応援が、この物語を最後まで書き切る力になっています。


次話もお付き合いいただければ嬉しいです。

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