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『黄金のタクトと、不格好なアップリケ』〜レアルの10番、下町でパパになる〜  作者: 筑紫隼人
第3章:指導者への道

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84/92

第84話 準決勝

試合当日。


キング・アブドゥッラー・スポーツシティ・スタジアム。


拓人はロッカールームで選手たちを見渡した。


「今日勝てば、決勝だ」


短い言葉だった。


光が頷いた。


「行きましょう」


キックオフ。


カタールの強豪は、パスワークの精度が際立つ。


浦和はその圧力に、序盤から押し込まれる。


前半十分、崩された。


0-1。


拓人はベンチで拳を握った。


慌てるな。


自分に、そう言い聞かせた。


前半三十分、光が一人突破を仕掛ける。


シュート。


同点。


1-1。


スタジアムの一角、日本人サポーターの声が大きくなった。


前半は、そのまま終了した。


ロッカールームで拓人は、選手たちに伝えた。


「相手のパス回し、後半はもっと絞れる」


「翔太、そこを、頼む」


翔太が頷いた。


木村も翔太の肩を叩いた。


「お前の読み、決勝行けるかどうかの鍵だぞ」


「わかってます」


後半、翔太の読みが機能し始めた。


相手のパスコースを、次々と読み切っていく。


後半二十分、木村が奪ったボールを光へ。


光のシュートが、ゴールを割った。


逆転。


2-1。


拓人は思わず両手を、突き上げた。


だが相手も簡単には、引かない。


後半三十五分、再び同点に追いつかれる。


2-2。


拮抗が続いた。


九十分、終了。


延長戦に、突入した。


拓人は選手たちを集めた。


「ここまで来た。あと三十分だ」


光が拓人を見た。


「監督、俺また決めます」


「頼む」


延長前半、両チームとも、決定機を作り合う。


だが、決着はつかなかった。


延長後半、残り十分。


木村が中盤でボールを拾った。


前を見る。


光が走り出していた。


パス。


光がドリブルで一人、二人とかわす。


ペナルティエリア、手前。


シュート。


ゴールネットが揺れた。


決勝点。


3-2。


拓人はベンチで崩れ落ちるように座り込んだ。


選手たちが光のもとへ駆け寄る。


試合終了の笛。


浦和レッズ、準決勝、突破。


決勝進出。


坂上が拓人のもとへ来た。


「監督、決勝ですよ」


「はい」


拓人の声は、掠れていた。


疲労と安堵が、同時に押し寄せていた。


木村が隣に座り込んだ。


「監督、次で、最後ですね」


「ああ、最後だ」


二人はそれ以上、何も言わず夜空を見上げていた。


光が涙を拭きながら駆け寄ってきた。


「監督、約束守りました!」


拓人は深く、頷く。


「見てた」


その夜、ホテルの部屋で拓人はスマートフォンを開いた。


節子から動画が届いていた。


再生する。


映っていたのは、リビングだった。


葵、航太、結衣。


三人が画面に向かって拍手をしていた。


結衣の熱は、すっかり下がっていた。


「ぱぱ、けっしょういくの?」


「行くぞ」


拓人は画面にそう答えた。


誠の声も後ろから聞こえた。


「よくやった。あとは、決勝だけだな」


拓人は、その一言に、何度も頷いた。


節子が画面の端で小さく手を振った。


「無事に、帰ってきてね」


「はい。決勝が終わったら」


短いやり取りだったが、拓人の胸に確かな力を与えていた。


決勝の相手は、まだ決まっていない。


だが確かなことが一つあった。


浦和レッズは、決勝の舞台に立つ。


窓の外、ジッダの夜空に星が瞬いていた。


◆次回予告◆


すべてを賭けた一戦が、いよいよ幕を開ける。


決勝の相手は、アジア最多優勝を誇る、絶対王者。


拓人と選手たちが積み重ねてきたものが、今、試される。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


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一つひとつの応援が、この物語を最後まで書き切る力になっています。


次話もお付き合いいただければ嬉しいです。

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