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『黄金のタクトと、不格好なアップリケ』〜レアルの10番、下町でパパになる〜  作者: 筑紫隼人
第3章:指導者への道

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80/85

第80話 ラウンド16

蔚山HD。


過去に二度、アジアを制した名門だった。


映像を見るだけで格の違いが、伝わってくる。


拓人はノートを開いた。


これまでの、どの相手とも違う分析が必要だった。


「規律だけじゃ、足りないかもしれない」


拓人はコーチ陣に率直に、伝えた。


「個の強さも、要求される相手だ」


木村が映像を見ながら呟いた。


「うちに、これを止められる選手、いますかね」


「いる」


拓人は即答した。


「翔太の読み。光の突破力。お前らの走力」


「一人一人が、少しずつ上回れば、十分だ」


翔太が、映像の一場面で手を止めた。


「このFW、切り替え、遅いですね」


「そこだ」


「そこを、突けば」


「ああ。数字だけじゃ、測れない部分だ」


練習が、いつも以上に張り詰める。


光が、誰よりも早く、グラウンドに来ていた。


「監督、俺、この試合のために、ここまで来た気がします」


その言葉に、拓人は深く頷く。


木村がその隣で、静かに荷物をまとめていた。


「監督、俺も、同じです」


多くを語らない一言だった。


それで、十分だった。


第1戦、アウェイ。


蔚山文殊競技場、異国の大声援に包まれていた。


前半、光のゴールで浦和が先制する。


だが後半、蔚山が同点に追いつく。


1-1。


そのまま、第1戦は終了した。


アウェイでの、貴重な勝ち点だった。


だが決着は、まだつかない。


すべては、ホームでの、第2戦に持ち越された。




そして、第2戦当日。


埼玉スタジアムは、これまでで最大の熱気に包まれていた。


蔚山のサポーターも、大挙して詰めかけていた。


異国の応援歌が、スタンドに響く。


拓人はロッカールームで選手たちを、見渡した。


「今日、格の違いを、見せつけられるかもしれない」


「それでも」


拓人は一度言葉を、止めた。


「お前らなら、通用する」


キックオフ。


蔚山の圧力は、想像以上だった。


個の突破力が次々と、浦和の守備を切り裂いてくる。


前半十分、あっさりと失点した。


0-1。


スタジアムが、静まり返る。


拓人は動じなかった。


光が、ベンチに向かって拳を握って見せた。


まだ、崩れていない。


そのメッセージが、はっきりと、伝わってきた。


「まだ、時間はある」


前半三十分、光が一人突破を仕掛けた。


二人、かわす。


シュート。


同点。


1-1。


スタジアムが揺れた。


前半は、そのまま終了した。


後半、蔚山がさらに圧力を強めてくる。


木村が体を張って防ぐ場面が続いた。


後半二十分、再び失点。


1-2。


だが浦和も、諦めなかった。


後半三十五分、翔太の読みが光る。


奪ったボールを、木村へ。


木村が、これを決めきった。


2-2。


試合は、振り出しに戻った。


第2戦、2-2。


アグリゲート、3-3。


残り時間、五分。


両チームとも、決定機を作り合う。


だが、決着はつかなかった。


九十分、終了。


2-2。


試合は、延長戦へと突入した。


拓人は選手たちをベンチ前に、集めた。


「ここまで、来た」


「あと、三十分だ」


選手たちの顔に、疲労の色が濃い。


それでも目の輝きは消えていなかった。


光が拓人を見た。


「監督、まだ、いけます」


「わかってる」


延長前半、両チームとも足が、止まり始める。


それでも、ゴールへの執念だけは、衰えなかった。


蔚山が決定機を作る。


キーパーが体を張って防ぐ。


浦和も反撃を、試みる。


だが疲労が、精度を鈍らせていた。


延長前半終了。


スコアは、動かなかった。


延長後半。


残り時間、十五分。


拓人はベンチで拳を、握りしめた。


これが、ラウンド16の重さだった。


一つのミス、一つの奇跡。


そのどちらかが、勝敗を分ける。


坂上が拓人の隣で、腕を組んでいた。


「監督、賭けますか」


「賭けません。信じるだけです」


その一言に、坂上は何も返さなかった。


光が中盤で、ボールを拾った。


疲れ切った足を、それでも前に、運ぶ。


ペナルティエリアへ向かって走り出す。


木村が、その動きに気づいた。


裏へのスペースへ走り込む。


光の視界に、木村が入った。


これまで、何度も繰り返してきた、あの連携だった。


スタンドの一角、誠が身を乗り出していた。


隣で節子が、その腕を強く握りしめている。


二人の視線の先に、光と木村の姿があった。


その先に、待っているものが、何なのか。


拓人にも、まだわからなかった。


◆次回予告◆


延長後半、光と木村の連携が、ゴールへと向かっていく。


スタンドには、誠の姿があった。


死闘の結末を、家族もまた、見届けようとしていた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


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一つひとつの応援が、この物語を最後まで書き切る力になっています。


次話もお付き合いいただければ嬉しいです。

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