第79話 光の覚醒
リーグステージ最終節。
相手は、全北現代モータース。
東地区で最も、技術に優れたクラブだった。
パスワークが、精密。
個の突破力も、際立っている。
これまでの相手とは、質が違った。
ロッカールームで、光が拓人の前に立った。
「任せてください」
「わかってる」
拓人はそれだけ答えた。
多くを語る必要は、なかった。
木村が、その様子を、少し離れた場所から見ていた。
「監督、篠田さん、目つき、変わりましたね」
「そうだな」
「頼りにしてるってことですか」
「ああ」
木村は、それ以上、聞かなかった。
代わりに、光の背中を、軽く、押した。
キックオフ。
相手のボール保持率が、序盤から高かった。
浦和は、耐える展開を強いられた。
前半、決定機を二度、作られる。
木村が、体を張って防いだ。
「まだ、いける」
拓人はベンチから、声を飛ばした。
前半終了、0-0。
ロッカールームは、静かだった。
拓人は選手たちを、見渡した。
「後半、光を中心に動く」
「光、好きにやれ」
光が顔を上げた。
「本当に、いいんですか」
「お前が決めろ」
その一言に、光は深く頷いた。
後半、開始早々。
光が中盤で、ボールを受けた。
一人、かわす。
二人目も、かわす。
これまでの光にはなかった、迷いのない突破だった。
ペナルティエリア、手前。
シュート。
キーパーが弾く。
こぼれ球に、木村が詰めた。
先制。
スタジアムが揺れた。
光が拳を、突き上げる。
だが喜びも、束の間だった。
相手が、すぐに反撃してくる。
同点。
1-1。
拮抗は崩れなかった。
後半三十分、相手が猛攻を仕掛ける。
浦和の守備陣が、押し込まれる。
拓人はベンチで腕を組んだ。
このまま引き分けでも、ノックアウトステージ進出は見えている。
守り切るという選択肢も、あった。
だが拓人は、動かなかった。
「攻めろ。取りに行け」
その指示に、選手たちが応えた。
後半四十分、光が再び、ボールを持つ。
今度は、一人ではなかった。
木村が走る。
翔太が走る。
三人の連動が、相手の守備を切り裂いた。
最後は、光。
ゴールネットが揺れた。
決勝点。
スタジアムが割れんばかりの、歓声に包まれた。
光は天を仰いだ。
これまで誰にも見せたことのない、表情だった。
試合終了。
2-1。
浦和レッズ、リーグステージ最終節を、勝利で締めくくった。
東地区、順位表。
浦和は、四位で確定した。
ノックアウトステージ、進出。
選手たちが抱き合う。
光が真っ先に、拓人に駆け寄ってきた。
「監督、見てましたか、俺のプレー」
「見てた」
「どうでした」
拓人は少し、考えてから答えた。
「お前は、もう、あの頃のお前じゃない」
光の目に、涙が浮かんだ。
拭おうともせず、光はそのまま立っていた。
木村が、その肩を叩いた。
「やったな」
翔太も駆け寄ってきて、光を囲んだ。
若手選手たちも、次々と輪に加わる。
数ヶ月前には、想像もできなかった光景だった。
佐藤から、拓人の携帯に、短いメッセージが、届いていた。
「快進撃だな。楽しみにしてる」
拓人は、その文面に、目を、細めた。
坂上が、拓人のもとへやってきた。
「見事な、リーグステージでした」
「選手たちが成長しました」
拓人はそう答えた。
「特に、篠田は」
坂上が続けた。
「今日の彼、まったく別人でしたね」
拓人は頷いた。
言葉にすれば、簡単すぎる。
だが、その通りだった。
孤立していた男が、今、チームの中心にいる。
その事実だけで、十分だった。
その夜、拓人は自宅で、家族に、勝利を報告した。
葵が、飛び跳ねて喜んだ。
誠は、静かに頷いただけだった。
それでも、その目には確かな、満足の色がある。
拓人の携帯に、通知が届いたのは、その直後だった。
ノックアウトステージ、組み合わせ決定。
拓人は、その画面をしばらく見つめた。
対戦相手の名前。
蔚山HD。
旧ACL二度の優勝実績を持つ、東地区の名門だった。
これまでとは、比較にならない強豪だった。
死闘が待っている。
拓人は静かに、画面を閉じた。
窓の外、街の灯りが、遠くまで続いていた。
これまで、何度も壁にぶつかってきた。
そのたびに、選手たちと一つずつ、越えてきた。
次の壁も越えられると、まだ断言はできない。
それでも拓人は、静かな確信を抱いていた。
◆次回予告◆
ノックアウトステージ、初戦の相手が決まった。
これまでの、どの相手よりも厳しい戦いになる。
浦和レッズの本当の戦いは、ここから始まる。
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