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『黄金のタクトと、不格好なアップリケ』〜レアルの10番、下町でパパになる〜  作者: 筑紫隼人
第3章:指導者への道

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第79話 光の覚醒

リーグステージ最終節。


相手は、全北現代モータース。


東地区で最も、技術に優れたクラブだった。


パスワークが、精密。


個の突破力も、際立っている。


これまでの相手とは、質が違った。


ロッカールームで、光が拓人の前に立った。


「任せてください」


「わかってる」


拓人はそれだけ答えた。


多くを語る必要は、なかった。


木村が、その様子を、少し離れた場所から見ていた。


「監督、篠田さん、目つき、変わりましたね」


「そうだな」


「頼りにしてるってことですか」


「ああ」


木村は、それ以上、聞かなかった。


代わりに、光の背中を、軽く、押した。


キックオフ。


相手のボール保持率が、序盤から高かった。


浦和は、耐える展開を強いられた。


前半、決定機を二度、作られる。


木村が、体を張って防いだ。


「まだ、いける」


拓人はベンチから、声を飛ばした。


前半終了、0-0。


ロッカールームは、静かだった。


拓人は選手たちを、見渡した。


「後半、光を中心に動く」


「光、好きにやれ」


光が顔を上げた。


「本当に、いいんですか」


「お前が決めろ」


その一言に、光は深く頷いた。


後半、開始早々。


光が中盤で、ボールを受けた。


一人、かわす。


二人目も、かわす。


これまでの光にはなかった、迷いのない突破だった。


ペナルティエリア、手前。


シュート。


キーパーが弾く。


こぼれ球に、木村が詰めた。


先制。


スタジアムが揺れた。


光が拳を、突き上げる。


だが喜びも、束の間だった。


相手が、すぐに反撃してくる。


同点。


1-1。


拮抗は崩れなかった。


後半三十分、相手が猛攻を仕掛ける。


浦和の守備陣が、押し込まれる。


拓人はベンチで腕を組んだ。


このまま引き分けでも、ノックアウトステージ進出は見えている。


守り切るという選択肢も、あった。


だが拓人は、動かなかった。


「攻めろ。取りに行け」


その指示に、選手たちが応えた。


後半四十分、光が再び、ボールを持つ。


今度は、一人ではなかった。


木村が走る。


翔太が走る。


三人の連動が、相手の守備を切り裂いた。


最後は、光。


ゴールネットが揺れた。


決勝点。


スタジアムが割れんばかりの、歓声に包まれた。


光は天を仰いだ。


これまで誰にも見せたことのない、表情だった。


試合終了。


2-1。


浦和レッズ、リーグステージ最終節を、勝利で締めくくった。


東地区、順位表。


浦和は、四位で確定した。


ノックアウトステージ、進出。


選手たちが抱き合う。


光が真っ先に、拓人に駆け寄ってきた。


「監督、見てましたか、俺のプレー」


「見てた」


「どうでした」


拓人は少し、考えてから答えた。


「お前は、もう、あの頃のお前じゃない」


光の目に、涙が浮かんだ。


拭おうともせず、光はそのまま立っていた。


木村が、その肩を叩いた。


「やったな」


翔太も駆け寄ってきて、光を囲んだ。


若手選手たちも、次々と輪に加わる。


数ヶ月前には、想像もできなかった光景だった。


佐藤から、拓人の携帯に、短いメッセージが、届いていた。


「快進撃だな。楽しみにしてる」


拓人は、その文面に、目を、細めた。


坂上が、拓人のもとへやってきた。


「見事な、リーグステージでした」


「選手たちが成長しました」


拓人はそう答えた。


「特に、篠田は」


坂上が続けた。


「今日の彼、まったく別人でしたね」


拓人は頷いた。


言葉にすれば、簡単すぎる。


だが、その通りだった。


孤立していた男が、今、チームの中心にいる。


その事実だけで、十分だった。


その夜、拓人は自宅で、家族に、勝利を報告した。


葵が、飛び跳ねて喜んだ。


誠は、静かに頷いただけだった。


それでも、その目には確かな、満足の色がある。


拓人の携帯に、通知が届いたのは、その直後だった。


ノックアウトステージ、組み合わせ決定。


拓人は、その画面をしばらく見つめた。


対戦相手の名前。


蔚山HD。


旧ACL二度の優勝実績を持つ、東地区の名門だった。


これまでとは、比較にならない強豪だった。


死闘が待っている。


拓人は静かに、画面を閉じた。


窓の外、街の灯りが、遠くまで続いていた。


これまで、何度も壁にぶつかってきた。


そのたびに、選手たちと一つずつ、越えてきた。


次の壁も越えられると、まだ断言はできない。


それでも拓人は、静かな確信を抱いていた。


◆次回予告◆


ノックアウトステージ、初戦の相手が決まった。


これまでの、どの相手よりも厳しい戦いになる。


浦和レッズの本当の戦いは、ここから始まる。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


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一つひとつの応援が、この物語を最後まで書き切る力になっています。


次話もお付き合いいただければ嬉しいです。

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