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『黄金のタクトと、不格好なアップリケ』〜レアルの10番、下町でパパになる〜  作者: 筑紫隼人
第3章:指導者への道

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第78話 文化の壁

リーグステージ、二戦目。


相手は、中国のクラブだ。


補強に、巨額の資金を投じているという噂だった。


「個人の技術、すごいらしいですよ」


木村が、資料を見ながら言う。


「聞いた話だと、代表クラスが、何人もいるとか」


「厄介だな」


拓人は、資料に、目を落とした。


試合は、アウェイ。


現地の空気は、これまでとはまったく違う。


ピッチサイドまで、太鼓の音が響いてくる。


審判の基準も、Jリーグとは違っていた。


接触プレーへの、ホイッスルが少ない。


前半、光が倒されても、笛は鳴らなかった。


「これが、普通なんだ」


拓人はベンチから選手たちに、声をかけた。


「不満、顔に出すな。切り替えろ」


選手たちが、順応していく。


光が、審判に、詰め寄りかけた。


木村が、その肩を掴んだ。


「ここじゃ、それも、ファウルになるぞ」


光は舌打ちして、下がった。


後半、木村のゴールで先制。


だが終了間際、痛恨の同点弾を許した。


一対一、ドロー。


勝ち点は伸びたが、完全な勝利ではない。


「悔しいです」


光がロッカールームで拳を握った。


「これも、経験だ」


拓人はそう答えた。


三戦目は、オーストラリアのクラブ。


ホームゲーム。


体格差は、これまでで最も大きかった。


だが走行距離では、浦和が上回っていた。


「デカいけど、動きは単調だ」


拓人が選手たちに伝える。


「スペースを作って、走らせろ」


前半、翔太の鋭い出足が光った。


相手のロングボールを、ことごとく読み切る。


「翔太、完璧だな」


木村が感心したように言った。


2-0。


浦和の勝利だった。


四戦目、五戦目と、対戦国は変わり続けた。


タイのクラブ。


香港のクラブ。


ある試合では、通訳が急病で来られなかった。


拓人は、身振り手振りで相手のスタッフとやり取りをした。


意外と伝わるものだと、後で木村に話した。


それぞれに、違うリズム、違う間合いがあった。


拓人は毎試合、新しいノートを開いた。


相手の癖、審判の傾向、ピッチの状態。


書き溜めた情報が、次第に分厚くなっていく。


木村が、そのノートを覗き込んだ。


「監督、これ、もう一冊分ですよ」


「まだ足りない」


「足りないんですか、これで」


「アジアは、広い」


拓人は、それだけ答えた。


坂上がある日、練習場を訪れた。


ノートの束を見て少し、驚いた顔をする。


「監督、ずいぶん勉強熱心ですね」


「日本の常識が、通用しない場所ばかりで」


「それでも」


坂上が続きを促した。


「それでも、面白いです」


その言葉に、拓人自身、少し驚いていた。


かつて、欧州で戦った日々を思い出す。


あの時も、言葉が通じない中、必死に適応してきた。


今、また同じことを、繰り返している。


だが、あの頃とは違う感覚があった。


一人で戦うのではなく、選手たちと共に、壁を越えている。


光が、その変化を誰よりも体現していた。


かつて孤立していた男が、今は審判に食ってかかる仲間を止める側にいる。


その姿を見るたび、拓人は胸の内で小さく頷いていた。


五戦を終えて、二勝二分一敗。


東地区の順位表で、浦和は上位につけていた。


残り三試合。


そのうち二試合を終えれば、ノックアウトステージ進出の可能性が見えてくる。


光が順位表を、覗き込んだ。


「監督、いけますよね、これ」


「まだ、わからない」


「でも、いけますよね」


拓人は少し、笑った。


「お前次第だ」


光はその一言に、目を細めた。


しばらく、順位表を見つめたまま動かなかった。


次戦、リーグステージ最終節。


相手は、これまでで最も、技術に優れたクラブだった。


この一戦の結果次第で、進出の可能性が大きく変わる。


拓人は、日程表にその日の日付を、丸で囲んだ。


光が、その様子を横から覗き込んだ。


「監督、その日、俺に、任せてください」


拓人は少し、光を見た。


「頼む」


短い、やり取りだった。


だが、そこには、これまでの積み重ねが詰まっていた。


すべてが、この試合に懸かっていた。


◆次回予告◆


リーグステージ最終節、運命の一戦が迫る。


技術に優れた相手を前に、光の中で何かが目覚めようとしていた。


これまで積み重ねてきたすべてが、試される夜になる。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマークや評価をいただけると励みになります。


一つひとつの応援が、この物語を最後まで書き切る力になっています。


次話もお付き合いいただければ嬉しいです。

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