第77話 ACLE開幕
ACLE、リーグステージの組み合わせが、発表された。
東地区、十六クラブ。
抽選で選ばれた、八つの相手と、それぞれ一度ずつ、対戦する。
ホーム、四試合。
アウェイ、四試合。
同じ国のクラブとは、当たらない。
拓人は、その一覧を、画面越しに、確認した。
「Jリーグの他のクラブとは、対戦しないんですね」
木村が、隣で、呟いた。
「そういう仕組みらしい」
「だからこそ、面白い」
拓人は、そう答えた。
初戦の相手は、韓国のクラブだった。
Jリーグとは、異なるフィジカルの強さで知られている。
練習が、始まった。
これまでとは、違う準備が必要だった。
拓人は映像分析に、多くの時間を費やした。
「当たりが強い。でも、切り替えは、少し遅い」
「そこを、突く」
コーチ陣に拓人が、説明する。
光が映像を、覗き込んだ。
「これ、圧倒されそうな相手ですね」
「圧倒されないための、準備をしてる」
拓人の声には、迷いがなかった。
木村が映像を、もう一度確認した。
「これ、身体、当ててくる相手ですね」
「受け止めるんじゃない。かわす」
「かわす?」
「ぶつかる前に、動く。それだけだ」
木村は少し、考えてから頷いた。
試合当日。
埼玉スタジアムは、いつもと違う熱気に包まれていた。
アジア各国からの、取材陣。
見慣れないユニフォームの、サポーター席。
アナウンスが、英語と日本語で、繰り返される。
いつものホームゲームとは、明らかに違う空気だった。
拓人はロッカールームで、選手たちを見渡した。
「今日から、舞台が、変わる」
「日本一を、目指してきた」
「今日からは、アジア一を、目指す」
選手たちの表情が、引き締まった。
「和のポジショナルプレー、通用させてこい」
光が拳を、突き上げた。
「行くぞ!」
キックオフ。
相手のフィジカルの強さは、噂通りだった。
接触プレーで、何度も押し込まれる。
だが、拓人が読んだ通り、切り替えの速さでは、浦和が上回っていた。
前半十五分、光が相手のミスを、逃さなかった。
奪ったボールを、木村へ。
木村から、翔太へ。
翔太のシュートが、ゴールを割った。
先制。
スタンドが揺れた。
相手の監督が大声で、指示を飛ばしていた。
言葉はわからない。
それでも、焦りだけは、伝わってきた。
後半、相手のフィジカルが、勝り始めた。
一対一。
拮抗した展開が続いた。
拓人はベンチで腕を組んだ。
これまでのJリーグとは、違う重さの拮抗だった。
一つのミスが、そのまま致命傷になる。
後半三十五分、光が中盤で、ボールを奪い返した。
そのまま、ドリブルで二人を剥がす。
ペナルティエリア手前。
シュート。
ゴールネットが揺れた。
決勝点。
スタジアムが割れんばかりの歓声に包まれた。
拓人は拳を、握りしめた。
これが、アジアの舞台の重さだった。
試合終了の笛。
二対一。
浦和レッズ、リーグステージ初戦、勝利。
選手たちが、駆け寄ってきた。
光が真っ先に、拓人に抱きついた。
「監督、勝ちましたよ」
「ああ」
木村も翔太も、輪の中に加わった。
坂上が拓人のもとへ、歩み寄ってきた。
「素晴らしい、船出です」
「まだ、始まったばかりです」
拓人はそう返した。
その言葉には、確かな実感がこもっていた。
試合後、拓人は、相手の監督と、握手を交わした。
通訳を介して、相手監督が一言だけ伝えてきた。
「良いチームだ。特に、あの守備の連動」
拓人は深く、頭を下げた。
ロッカールームに戻ると、選手たちがすでに次節の話をしていた。
「次は、中国のクラブでしたよね」
「その後は、オーストラリアのクラブとも、当たるみたいです」
「全然、スタイルが違いそうです」
拓人は、その会話を聞きながら思った。
八試合、八通りの相手。
同じ東地区でも、国が違えば、サッカーの色も、まったく違う。
これまでの経験だけでは、通用しないことも出てくるだろう。
「監督、次の相手、どんなチームですか」
翔太が聞いてきた。
拓人は少し、考えてから答えた。
「わからない。でも、それを、知ることから、始める」
グラウンドの照明が、消え始めていた。
アジアという新しい舞台の、扉が開いた夜だった。
その先に、どんな壁が待っているのか。
拓人にも、まだ見えていなかった。
◆次回予告◆
リーグステージ第二戦、相手は、中国の資金力あるクラブ。
第三戦以降には、東地区の別の強豪も控えている。
言葉も、文化も、サッカーの哲学すらも異なる相手たち。
浦和レッズが、次に向き合う壁とは。
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