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『黄金のタクトと、不格好なアップリケ』〜レアルの10番、下町でパパになる〜  作者: 筑紫隼人
第2章:父になる(子育て専念編)

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第46話 大会初日

大会当日、朝から、空は晴れ渡っていた。


会場となった市営グラウンドには、すでに多くの保護者が集まっていた。


拓人がベンチに向かうと、子供たちが、緊張した面持ちで、すでに集合していた。


「おはようございます」


蓮の声にも、いつもより硬さがあった。


「おはよう」


拓人は、子供たち一人一人の顔を見渡した。


初戦の相手は、地区で常に上位に入る強豪チームだった。体格も、経験も、明らかに上だった。


拓人は、スタメンを発表するため、ホワイトボードを取り出した。


子供たちが、一斉に、そのボードを覗き込んだ。


書かれたフォーメーションを見て、何人かが、驚いた声を上げた。


「翔太が、先発?」


「え、俺?」


翔太自身が、一番驚いていた。


拓人は、頷いた。


「今日は、お前の武器を、思いきり使う」


「でも、俺、まだドリブルとか」


「ドリブルは、今日は求めてない」


拓人は、翔太の目を見た。


「お前の仕事は、走ることだ。相手のボールを、誰よりも早く追いかけろ」


翔太は、少し戸惑いながらも、頷いた。


「はい」


ベンチの隅で、佐藤が、拓人に近づいてきた。


「なあ、拓人」


「なんですか」


「本当に、あの子を先発で使うのか」


拓人は、静かに答えた。


「はい」


「相手は、格上だぞ。攻撃力もある。守備、大丈夫か」


拓人は、フォーメーション図を、もう一度確認した。


「翔太を、前線の守備に置きます。相手のビルドアップを、追い回させる」


佐藤は、少し考えるような顔をした。


「それで、機能するのか」


「してみないと、わかりません」


拓人の答えに、佐藤は、少し不安げな表情を見せた。


それ以上は、何も言わなかった。


キックオフの笛が鳴った。


前半、相手チームは、予想通り、圧倒的な個の力で攻めてきた。


蓮とは違う種類の、体格を活かしたパワフルなプレー。ボールを持たれると、簡単には奪い返せない。


拓人が組み込んだ狙いが、少しずつ、機能し始めた。


翔太は、指示通り、相手のビルドアップの起点となる選手に、執拗に食らいついていった。


一度や二度、簡単には奪えない。それでも、翔太は、諦めずに追い続けた。


相手のパスが、少しずつ、乱れ始めた。


前半15分、翔太が、ついにボールを奪った。


奪った瞬間、迷わず、前線にいる蓮にパスを送った。


蓮は、そのボールを受けると、一気に加速した。


相手のディフェンスラインが、対応しきれない。


そのまま、蓮が、ゴールへ流し込んだ。


ベンチが、一斉に沸いた。


「よし!」


拓人も、思わず、拳を握った。


佐藤が、隣で、大声を上げていた。


「翔太、ナイス!」


その声に、翔太が、少し照れくさそうな顔で振り返った。


前半は、そのまま1対0で終わった。


ハーフタイム、拓人は、ベンチに集まった子供たちに、簡潔に伝えた。


「今の流れ、崩すな。翔太の守備が、全部の起点になってる」


翔太は、少し誇らしげな顔をしていた。


「もっと走れます」


「無理するな。休める時に、休め」


翔太は、頷いた。


後半、相手チームは、前半以上に、激しく攻めてきた。


体格差を活かした、力強いドリブル。何度も、ゴール前まで攻め込まれた。


フェニックスの守備陣も、粘り強く対応した。


翔太は、後半も、変わらず走り続けた。


拓人は、その動きを、ベンチから、じっと見つめていた。


一週間前、コーンドリブルさえまともにできなかった子供が、今、格上のチームを相手に、堂々と戦っている。


翔太の走力が、チーム全体の守備を、支えていた。


後半20分、相手チームの猛攻を、フェニックスのゴールキーパーが、なんとか防いだ。


そのカウンターから、再び、蓮にボールが渡った。


蓮は、一人でドリブルし、相手を二人抜いた。


そのままシュートを打つこともできた。でも、蓮は、フリーになっていた別の味方に、パスを出した。


その子が、確実にゴールを決めた。


2対0。


拓人は、思わず、両手を突き上げた。


試合終了の笛が鳴った瞬間、子供たちが、一斉に抱き合った。


翔太も、蓮に抱きつかれて、照れくさそうに笑っていた。


拓人は、ベンチから、その様子を見つめた。


一週間前には想像もしなかった景色が、今、目の前に広がっていた。


試合後、佐藤が、拓人の肩を強く叩いた。


「すごいな、拓人。まさか、あんな采配、当たるとは」


「翔太の力です」


「いや、お前が見つけたんだろ、あの力」


拓人は、少し笑った。


「見つけただけです。走ったのは、翔太自身です」


佐藤は、深く頷いた。


「お前、本当に、指導者、向いてるよ」


拓人は、その言葉に、素直に頷いた。


子供たちが、拓人の周りに集まってきた。


「監督、次も、勝てますよね」


一人が、聞いてきた。


拓人は、少し考えてから答えた。


「次は、もっと強い相手だ。今日以上に、頭を使う必要がある」


子供たちは、少し不安げな顔をした。


でも、その不安の中に、確かな期待も見えた。


グラウンドを後にする頃、拓人はふと、スタンドの方に目を向けた。


そこに、見慣れた顔があった。


節子と誠。そして、葵と航太。結衣は、節子が抱いていた。


拓人は、少し驚いた。


今日、家族が来ることは、聞いていなかった。


その驚きよりも先に、胸の奥に、温かいものが広がった。


拓人は、手を振った。


葵が、大きく手を振り返してきた。


その隣で、航太も、小さく手を挙げていた。


拓人は、その光景を、しばらく見つめていた。


◆次回予告◆


試合後、駆け寄ってきた葵が、体操着袋を胸に抱えたまま、拓人に飛びついてくる。


「パパ、監督してるとこ、初めて見た!」


その言葉に、拓人は、思わず立ち止まる。


スタンドで、ずっとこの試合を見守っていた葵の視線に、拓人は、まだ気づいていなかった。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマークや評価をいただけると励みになります。


一つひとつの応援が、この物語を最後まで書き切る力になっています。


次話もお付き合いいただければ嬉しいです。

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