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『黄金のタクトと、不格好なアップリケ』〜レアルの10番、下町でパパになる〜  作者: 筑紫隼人
第2章:父になる(子育て専念編)

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第45話 蓮の覚醒

大会まで、あと三日となった。


一週間という短い期間の中で、拓人の指導は、着実に子供たちに変化をもたらしていた。


中でも、蓮の成長は、目を見張るものがあった。


もともと持っていたタッチの柔らかさ、視野の広さに、拓人が加えた要素は、シンプルだった。


「味方を使え」


拓人は、練習のたびに、蓮にそう言い続けた。


「お前は、一人で抜ける。でも、それだけじゃ、チームは強くならない」


蓮は、最初、その言葉に戸惑っていた。


「でも、抜いた方が、点取れるじゃないですか」


「抜いた後、どうする。パスコースは、見えてるか」


蓮は、答えられなかった。


拓人は、練習中、何度も同じ場面を作り出した。


蓮がドリブルで相手を抜く。その瞬間、周りに、必ず動いている味方がいる。


「今、誰が空いてた」


拓人が聞くと、蓮は、最初、答えられなかった。


でも、練習を重ねるうちに、少しずつ、答えられるようになっていった。


「翔太が、右で空いてました」


「なら、そこに出せ」


蓮は、次のプレーで、それを実践しようとした。


うまくいかないことも、多かった。パスが繋がらず、チャンスを逃すこともあった。


それでも、蓮は、諦めなかった。


三日目の練習で、変化が、はっきりと表れた。


蓮が、相手役の子供を一人抜いた。


そのまま、シュートを打てる位置にいた。


でも、蓮は、打たなかった。


一瞬、視線を動かし、フリーになっていた別の子供に、パスを出した。


その子が、そのままゴールを決めた。


拓人は、思わず、大きな声を上げた。


「今のだ!」


蓮が、拓人の方を振り返った。


少し照れくさそうな顔をしていた。


「今の、良かったですか」


「最高だった」


蓮は、その言葉に、満面の笑みを浮かべた。


練習の休憩中、佐藤が、拓人の隣に座った。


「見たか、今の」


「見ました」


佐藤は、少し興奮した様子で言った。


「あいつ、こんなプレーできるようになるとは、思わなかった」


拓人は、水を飲みながら答えた。


「もともと、持ってたものです。俺は、少し方向を変えただけです」


佐藤は、しばらく黙って、練習を続ける蓮を見つめていた。


「なあ、拓人」


「はい」


「本当のところ、どうなんだ」


「何がですか」


佐藤は、少し声を落とした。


「あいつ、俺の息子、本当にうまいのか」


その質問には、これまでとは違う重みがあった。


拓人は、佐藤の顔を、まっすぐに見た。


「本物です」


短い、迷いのない答えだった。


佐藤は、しばらく、何も言わなかった。


グラウンドで、蓮が、また別のプレーを見せていた。相手を引きつけ、味方を使い、チャンスを作り出している。


佐藤は、その様子を、黙って見つめ続けた。


拓人は、佐藤の横顔を見た。


いつもの豪快さが、少し違う表情に変わっていた。


やがて、佐藤は、顔を背けるようにして、指で目元を拭った。


「兄貴」


拓人が声をかけると、佐藤は、少し慌てた様子で答えた。


「なんでもない。目にゴミが入っただけだ」


「そうですか」


拓人は、それ以上、何も言わなかった。


佐藤は、鼻を軽くすすってから、続けた。


「あいつ、本当に、上を目指せるのか」


「今のままの努力を続ければ」


「上って、どこまでだ」


拓人は、少し考えてから、答えた。


「それは、蓮くん次第です。でも、今日見た限りでは、限界は、まだ全然見えません」


佐藤は、深く息を吐いた。


「工務店の息子が、そんなところまで行けるのか」


「工務店の息子でも、有名選手の息子でも、関係ないです」


拓人は、真っ直ぐに佐藤を見た。


「持って生まれたものは、育つ場所を選びません」


佐藤は、拓人の言葉を、しばらく噛み締めているようだった。


「お前が、そう言うなら」


「信じてください」


佐藤は、頷いた。


練習が再開された。


蓮は、さらに集中した表情で、練習に取り組んでいた。


拓人は、その様子を見ながら、25話で初めて蓮のプレーを見た日のことを思い出していた。


あの時感じた予感は、間違っていなかった。


でも、才能があるだけでは、まだ足りない。


その才能を、正しい方向に伸ばすこと。それが、指導者の仕事だった。


練習の終わりに、拓人は子供たち全員を集めた。


「大会まで、あと三日だ」


子供たちが、真剣な顔で、拓人を見つめた。


「今日の練習、みんな、本当に良くなってる。特に、味方を使うプレー、格段に上手くなった」


蓮が、少し誇らしげな顔をした。


拓人は、続けた。


「大会では、俺が、みんなの力を、最大限引き出すスタメンを組む」


「誰が出るんですか」


一人の子供が、聞いてきた。


拓人は、少し笑った。


「それは、当日まで、内緒だ」


子供たちから、ブーイングのような声が上がった。


拓人は、その反応を見ながら、頭の中で、すでに一つの決断を固めていた。


蓮を中心に置くのは、当然だった。


でも、それだけでは、勝てない相手が、初戦から待っている。


拓人の頭の中には、もう一つの、まだ誰にも話していない作戦があった。


グラウンドを後にする頃、拓人は、佐藤と並んで歩いていた。


「明日から、二日間、実戦形式の練習をやります」


「わかった。準備しとく」


「それと、翔太のポジション、変えます」


佐藤は、少し驚いた顔をした。


「翔太を?」


「あいつの武器、活かせる場所があります」


佐藤は、拓人の顔を、じっと見た。


「お前、なんか考えてるな」


拓人は、少し笑って、答えなかった。


夕日が、荒川を染めていた。


明日からの二日間で、この作戦を、どこまで仕上げられるか。


拓人は、そのことだけを、静かに考えていた。


◆次回予告◆


大会初日。


拓人が発表したスタメンに、佐藤が驚きの声を上げる。


「え、翔太を、先発で使うのか」


その意図が明かされる前に、笛が鳴る。


格上との初戦が、始まろうとしていた。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマークや評価をいただけると励みになります。


一つひとつの応援が、この物語を最後まで書き切る力になっています。


次話もお付き合いいただければ嬉しいです。

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