第2話:青き月の昇天
第一部:連邦本部
アフレイド王国、首都ニュー・リオン。「ロレットの顎」の森。
十五の聖なる鐘の音が轟き、ロレットの森を揺らした。それは新たなサイクルの始まりを告げる合図だ。「シエルト連邦アカデミー」が、第三期生のためにその門を開いたのである。北の巨神大陸全土から集まった家族たちが本部の前にひしめき合い、増殖する悪魔の災厄に立ち向かえるエリートへと育て上げるという約束と引き換えに、我が子を差し出そうと色めき立っていた。
本部長室では、千年の知恵を持つドライアド、創設者ヒカミカ・トシが第二期生の肖像画を見つめていた。
「皮肉なものですね、母上」連邦員の一人が呟く。「彼らを連邦の子として守り、教育しながら、結局は魂を喰らう異形を狩るために送り出すのですから」
「あの子たちが安全であれと願っていますよ」創設者は憂いを含んだ微笑みを浮かべた。「ですが、王国と悪魔の間の平和など、もはや砕け散った硝子に過ぎないのです」
第二部:二つの月を持つ子
アカデミーの外の大気は、息苦しいほどに濃密に変化した。群衆が割れ、二人のフードを被った影が前へ進み出る。彼女たちが放つ魔力はあまりに純粋で、大地を震わせるほどだった。
「止まれ!」衛兵が命じた。「正体を明かせ」
女たちが外套を脱ぎ捨てると、そこには人間離れした瞳があった。一人は「黄金の月」の紋章を宿し、もう一人は「水晶の太陽」を宿している。彼女たちはボルニエート家の侍女、リンネルトとクルスであった。
「私はリンネルト。火の月の直系、エドガー・ボルニエート卿の侍女です」彼女は誇らしげに宣言した。「卿の長男、ウィスタート(Wistert)の入学を世話しに参りました」
リンネルトが腕に抱いた子供の覆いを取ると、広場にどよめきが走った。少年の左目は、強烈なコバルトブルーの光を放っていた。
「青き月だ……」見守る人々が囁き合う。それはこの世界で三千年の間、一度も姿を現さなかった血統だった。
数分前まで入学を嫌がっていたヴァルギエール帝国の皇女ですら、その光景に目を奪われた。「アルバート、考えを変えたわ」彼女は執事に告げた。「あの子のそばにいたいの。伝説では、青き月は虚無の巨神を創り出したというわ。天使よりも強力な存在だと」
しかし、創設者室の扉の向こう側の現実は、より暗いものだった。幼きウィスタートを診察したヒカミカは、恐怖に顔を引き攣らせた。少年の右腕には、まるで壊れた磁器のように黒い亀裂が走り、肉体が内側から崩壊しかけていたのだ。
「この子に、一体何を……?」
「父親が、禁忌に触れたのです」リンネルトは涙ながらに説明した。「ウィスタートは青き月の血を継ぎましたが、同時に『赤き月』の血をも継いでしまった。かつて神と魔王を滅ぼしかけた、あの存在です。主人は赤き月を封印しようとしましたが、エネルギーが融合してしまった。この子は今、相反する二つの力が混ざり合った、生きた実験体なのです」
ヒカミカは三歳の少年を悲しげに見つめた。大人たちがその運命を議論している間、小さなウィスタートは沈黙の中で机の上の複雑な回路を動かし、賢者たちが一生をかけて解くような「ポータル工学」の問題を、わずか数秒で解決していた。
――カチッ、カチカチッ(精密な機械音)
第三部:絶望の契約
カルボレスの森、シジョコ村。
アカデミーで青き月の光が産声を上げていたその時、シジョコ村は深紅の炎に包まれていた。反乱軍の悪魔たちが、森を虐殺の場へと変えていたのだ。瓦礫と無惨な亡骸の中で、一人の修道女が幼い妹を庇っていた。
彼女の前で、高位の悪魔が爪についた血を拭いながら嘲笑う。
「惨めだな。聞き届けもしない神に祈るとは」
「聞いたことがあるわ……」修道女は顔を上げた。その瞳は憎しみと病に濁っている。「悪魔は人間を『眷属』に変えることができると」
悪魔は動きを止めた。信仰の女から溢れ出す闇に興味を惹かれたのだ。
「病を治したいのか」悪魔は見抜いた。「悪魔の血が人間の病を駆逐することを知っているな」
「私たちを変えて」彼女は懇願した。「私と、この子を。代償は、何だって払う」
悪魔は鋭い牙を剥き出しにして笑った。
「純粋な信仰ほど、死の恐怖に屈する。いいだろう、小さき者たちよ。魔王妃の王国へようこそ」




