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第1話:蒸気の残響と夜間飛行の日

第一部:始まりの図書室

シエルトの「虚無の教会」において、絶望こそが唯一の日々の糧であった。腐敗した山々の北側、空気は重く、命の気配を失った大気が朽ちゆく木々の間を這い回っている。そこは、目に見える「呪い」によってのたうつような光景が広がり、魂の鳴き声が絶え間ない囁きとなって肌を粟立たせていた。


ウィスタート(Wistert)は、ひとり「過去の聖図書室」の廊下を歩いていた。アルゴス・ヴィエルプの教義と「蒸気の女神」に捧げられたその聖域で、彼の足音だけが響く。


――コツーン、コツーン。


一歩踏み出すごとに、天井から小さな石屑と埃が舞い落ちる。まるで建物自体が、積み重なった歴史の重みに耐えかねて崩壊し始めているかのようだった。


「ひどく湿っぽい匂いだ。気をつけろ」

ファスモートの声が暗がりに反響した。

「ああ、お前もな」

ウィスタートは足を止めずに答えた。


彼の心臓は激しく鼓動していた。死に絶えた図書室の中で、唯一の生の脈動。屋根の上で鳴く鳥の声は、もはや自分のものではなくなった外の世界からの遠い追憶のように聞こえる。ウィスタートは半狂乱で本を棚に投げつけ、苛立ちをぶつけた。


「違う、これじゃない! ここには何もないのか!」

彼は叫んだ。

「女帝の年代記も、サキュバスの起源も……。誰も、彼女たちについて書こうとはしなかったのか?」


「おい、落ち着けよウィスタート。リラックスしろって」

ファスモートが近づき、痛みで歪んだ友の顔を覗き込んだ。「この埃の山の中で、一体何を探しているんだ?」


ウィスタートは広々とした空間で立ち止まり、血も凍るような苦い笑みを浮かべて振り返った。

「俺たちの『答え』だよ、ファスモート。この地獄から抜け出す唯一の道だ」


ファスモートは、ウィスタートが抱えている本に目を落とした。数千年の時を経て擦り切れた表紙には、帝国時代の「蒸気の紋章」が鈍く光っていた。


「ウィスタート、俺を見ろ」ファスモートは重々しく言った。「その本が、お前に何の役に立つって言うんだ?」


ウィスタートは冷たい床に座り込み、相棒にも座るよう促した。「まず、他の連中のように俺を見捨てなかったことに感謝するよ」ウィスタートは囁いた。「俺たちがなぜここにいるか知っているだろう。俺は死せる巨神の世界に、魔力を持たずに生まれた子供だ。連邦にとって、俺は虚無に追放されるべき『ゴミ』に過ぎない。……だが、俺は読んだんだ。人間が魔力を必要としなかった時代を。彼らは機械を、兵器を、そして知恵を使った。教会がこれを隠すのは、その時代を恐れているからだ」


ウィスタートは本の表紙に手を置いた。「真実を知る準備はいいか?」

「ああ、やってくれ」ファスモートが応じる。


彼が表紙を開いた瞬間、ページから影が立ち上がり、闇そのものから生まれたような古の囁きが響いた。


――シュウゥゥ……(蒸気の漏れる音)


『自由を求める者よ……この死にゆく世界は、境界を知らぬ敵を種蒔いた。失ったものを求め、憎しみを得るか……あるいは栄光を掴むか……』


第二部:禁じられた奇跡(五千年前)

オルカウェスト帝国の首都、チルコポリス。「赤き瞳の日」。死の恐怖から、通りには人っ子一人いない。空は深紅に燃え、新生児たちの命を奪い去る。人口の15%を死滅させる恐怖の一週間だ。

しかし、その静寂を切り裂く産声が病院に響き渡った。


「ヴォレルト様、奇跡です」看護師は驚嘆して言った。「お子様は、この『砂漠の瞳の日』に健やかに生まれました。誇りになさってください」


ロビーに座っていたヴォレルトは、ようやく魂が身体に戻る心地がした。しかし、ゆっくりと近づいてくる医師の表情に喜びの色はなかった。彼はヴォレルトの肩に手を置いた。

「ヴォレルト殿……ご存知の通り、我々の世界では魔力を持たぬ者は奴隷となるか、処刑される運命にあります」


ヴォレルトの顔から血の気が引いた。

「息子さんは……無魔力ノー・マジックで生まれました」医師が宣告した。


ヴォレルトはふらつく足取りで病院を後にした。数時間後、彼は酒場「スウィート・オイスター」で、ワインに溺れていた。

「もう一杯だ、早くしろ!」

「ヴォレルト伯爵、今日はずいぶんとお疲れのようですね……」

店員が怯えながら酒を注ぐ。

「喋るために金を払ってるんじゃない、このクズめ!」

伯爵は怒りと悲しみに酔い痴れ、怒鳴り散らした。


その隣で、酒場の影から一人の女が姿を現した。彼女の眼は奇妙だった。片方は灰色、もう片方は赤。彼女はグラスを掲げた。


「誰もが何かの痛みのために飲むのでしょう? 伯爵。それとも、失われた栄光のためかしら?」


ヴォレルトは驚いて彼女を見た。「両親は侵略で死に、妻は盲目だ。そして今、一人息子が魔力なしで生まれた。役立たずだ。誰が俺の称号を継ぐ? 誰が俺の名を覚えているというんだ?」


「その子は生きるべきだと私は思うわ」女は超自然的な落ち着き払った声で言った。「私たちには皆、役割がある。おそらくその子の宿命は、この世界に痛みの足跡を残すことよ」


女は小さなインク壺を差し出した。「これを持って行って。私の父は、額にインクの印をつければ明るい未来が約束されると言っていたわ。幸運の印を刻むのよ」


ヴォレルトはそれが永遠の運命を封印するものだとは知らず、贈り物を受け取った。彼は病院に戻り、新生児室へ入った。「名前はアルゴス・ヴィエルプ(Argos Vierp)だ。かつての征服者の名をつける」


ゆりかごの中で、幼きアルゴスから灰色の蒸気が立ち上り始めた。


――プシューーー……。


他の赤ん坊が泣き叫ぶ中、彼は静寂の中にいた。その瞳は白と灰色の光を帯び、額のインクの印が脈打っている。部屋の隅で影が微笑み、そして虚空へと消えた。


遥か遠く、聖ボルヘス礼拝堂。屋根の上で一人の女が休息し、口から蒸気を吐き出していた。彼女の青と赤の瞳には、間もなく新たな主に出会うことになる民衆の絶望が映っていた。


「私は蒸気と操作の女神」彼女は世界が燃え始めるのを見つめながら囁いた。「そしてこの子の命は、私の火を焚きつける『風』となるのよ」

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