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『弟・異聞 』〜素に戻った五郎様と、時空を越えた共犯者たち〜  作者: 滝丸


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8/17

【打ち上げ編:聖母の三つの願い —— 作者に突きつけられた「究極の脚本」】

「弟」オールアップ後の打ち上げ会場。正信の司会によって幕を開けたビンゴ大会で、会場は異様な熱気に包まれていた。


「さあ、見事ビンゴした優勝者への賞品は……『作者・滝丸監督に、自分が演じたいシーンを三つ書かせる権利』だぁぁ!!」

司会の正信が珍しく声を張り上げて叫ぶと、会場のボルテージは最高潮に達した。


五郎:「お愛と豪華温泉一泊二日の混浴旅行! もちろん腰痛なしのフルパワー全開シーンだ!!」

忠勝:「今度こそ! 本編でカットされた『影なくして光なし』の2ページ見開き無双シーンを!」

秀忠:「天井裏の忍びを口説き落とす、官能の45分ノーカット版を希望します!」

三成(天海):(水を飲んで平静を保ちながら)「……五郎殿と二人、静かに薬草を煎じながら、老後の資産運用について語り明かすシリアスな3時間を」


誰もが「自分の欲望」を叫び、リーチをかける中……。


「——ビンゴです」


凛とした声が響いた。

壇上に上がったのは、控えめに座っていたお愛だった。


「お、お愛様……! さあ、監督に書かせる三つのシーン、何をご所望か!」

お愛は静かに微笑み、青ざめ始める監督の目を見つめて、こう告げた。

「一つ。……『三方ヶ原の戦いが起こらず、家康様(お兄様)が亡くならなかった世界』をお願いします」

会場が静まり返る。

家康(兄)が壇上に現れ、お愛の慈愛に触れて「……すまぬ、すまぬお愛……!」と、これまでの不摂生を悔いて号泣し始める。


「二つ。……『五郎様と、影武者としてではなく、正式な夫婦として祝言を挙げるシーン』をお願いします」

今度は五郎が崩れ落ちた。

「俺……影じゃなくて……五郎として、お愛と……っ!」と、鼻水を垂らして子供のように号泣する。


「三つ。……『五郎様が旅立つ時、わたくしも一緒に、手を繋いで死んでいくシーン』をお願いします」


会場中から、嗚咽が漏れた。

忠勝は槍を置いて咽び泣き、数正は顔を覆い、三成は「……非合理的だが……美しい」と涙を拭う。出演者全員が、お愛様の「究極の愛」にひれ伏した。

「素晴らしい! 奇跡のラストシーンだ!!」

拍手喝采で幕を閉じようとする打ち上げ会場。

だが、その中心で、滝丸監督だけが幽霊のように真っ白な顔で立ち尽くしていた。


(……待って。一つ目の願いで『家康生存』にしたら、物語の前提が全部消える……。二つ目で祝言あげたら、五郎さんの悲哀が台無し……。三つ目で一緒に死なれたら、私の書いた江戸開拓の孤独な五郎さんのシーンが全部ボツになるじゃない……!!)


「監督! 早く執筆を!」「期待してますぞ!」「コメディになるかシリアスになるか、楽しみですなぁ!」

湧き上がる出演者たちの声。

監督は、手に持っていたビールを震わせながら、遠い目をして呟いた。

「……これ、三本とも『シリアス』に決まってるじゃない。……私の魂、削り取られるわよ……」

「弟」の打ち上げは、作者にとっての「地獄の執筆合宿」の始まりを告げる合図となる……はずだった。


「——ちょっと待ったぁぁっ!!」


突如、会場に五郎の必死な大声が響き渡った。

「一位だけではつまらぬ! 司会の正信、二位も決めたらどうだ!?」

壇上を指差す五郎の血走った目(おそらく混浴旅行を諦めきれない)に、正信はニヤリと底意地の悪い笑みを浮かべた。

「……ほう? 己の欲望を諦めきれぬ往生際の悪い男が約一名いるようですな。よろしいでしょう。では急遽、第二位の抽選も再開いたしますぞ!」

五郎の悪あがきにより、ビンゴ大会はさらなるカオスへと突入していく。

つづく

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