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『弟・異聞 』〜素に戻った五郎様と、時空を越えた共犯者たち〜  作者: 滝丸


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7/17

【打ち上げ編:プロローグ —— 四十余年の嘘、からのカオスな夜】

「はい、五郎さん! 全編オールアップです! 本当にお疲れ様でした!」

監督の声が響き渡ると同時に、スタジオは割れんばかりの拍手と歓声に包まれた。

四十四年という途方もない歳月、「徳川家康」という重すぎる鎧を着続けた男・五郎の腕に、色鮮やかな巨大な花束が贈られる。


「……終わった。やっと、終わったんだな」

ずしりと重い花束を抱え、ようやく肩の荷が下りたことを実感する五郎。

隣では、お愛が「本当にお疲れ様でした、五郎様」と、月のように優しく微笑んでくれている。

数正が静かに頷き、兄上が満面の笑みで手を振る。感動のフィナーレ。涙と笑顔のクランクアップ。



……しかし、五郎の平穏はそこまでだった。

舞台は移り、都内某ホテルの豪華な大宴会場。

『「弟」オールアップ記念大打ち上げ』

と書かれた金屏風の前で、主役であるはずの五郎は、本編の戦場以上に疲弊しきっていた。


「だぁーかぁーらぁ! なんで徳川陣営ばっかりあんなに絆が深いの!? こっちは関ヶ原で計算が狂いまくって、ずっと胃が爆発しそうだったのに! 五郎! あんた影武者のくせにスペック高すぎなんだよ! ずるい! 私の出番もっと増やしてよおおお!」


「……三成。頼むから、俺の袴で涙と鼻水を拭くのはやめてくれ」

泥酔した石田三成が、空の盃を片手に五郎にべったりと張り付いている。シラフの時はあんなに理屈っぽく澄ましている男が、酒に入るとただの面倒くさい親戚のおじさんと化していた。



「ええい、やかましいわ正信! 貴様のような日陰者が『本多』を名乗るなど片腹痛い! 徳川の武の象徴たるこの平八郎こそが、真の『本多』である!!」

「……ククク。脳みそまで筋肉でできている男は声が大きくて困りますな。私の描く『知略の盤面』の上で踊るだけの駒が。算盤を弾くまでもなく、私こそが『真・本多』に相応しい」

「なんだと!? 貴様、表へ出ろ! 腕相撲で決着をつけてくれるわ!」

「なぜ知略の証を腕力で競わねばならんのです。しりとりでもしましょうか。ククク」


会場の中央では、本多忠勝と本多正信による「どっちが真の本多か」を巡る、不毛すぎる本多対決が勃発している。

なだめようとした数正は早々に胃を抱えて隅に避難し、兄上(本物の家康)は瀬名と楽しそうにカボチャの天ぷらを食べている。


「……おかしい。俺は四十四年分の重責から解放されたはずなのに、なぜ本編より忙しいんだ……?」

五郎は遠い目をしながら、足元の三成を引き剥がそうとため息をついた。その横で、お愛は「うふふ、皆様お元気ですね」と、ニコニコしながら白檀の扇子を扇いでいる。



その時だった。

会場の照明が不意に落ち、ピンスポットがステージの中央をパッと照らし出した。

けたたましいドラムロールが鳴り響き、マイクを持ったスタッフの声が宴会場に響き渡る。

『皆様、大変長らくお待たせいたしました! 本日の打ち上げのメインイベント! 豪華賞品・なんでも願いが叶う(?)権利争奪、超絶怒涛のビンゴ大会を開催いたしまーす!!』

『そして、栄えある司会進行を務めますのは……徳川の頭脳こと、本多正信さん! どうぞ壇上へ!』


そのアナウンスを聞くや否や、正信は忠勝に向けてニヤリと底意地の悪い笑みを浮かべた。

「……おっと。どうやら『真の本多』たる私の出番のようですな。腕相撲などという野蛮な遊びは、またの機会にしていただきましょう。ククク……」

「なっ、逃げる気か正信! 待て!」


怒り狂う忠勝を置き去りにし、正信はさっそうとステージへ上がり、恭しくマイクを受け取った。

ステージを呆然と見上げる五郎をよそに、マイク越しに正信の声が響き渡る。

「さあ、知略と運の交差点、ビンゴ大会の幕開けです!」

正信の宣言と共に、会場の熱気は一気に最高潮に達した。

このカオスな夜は、まだ始まったばかりである——。

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