わたしのしあわせ 85
学校に着いたのが2時半位、学校の受付で入校証受け取って、剣道場に行ったの。
山本さんが来てて、面の下に巻く手ぬぐいを取り込んでたの。
私「こんにちは、手伝うよ」
山本さん「あっ美佳さん、こんにちは、平日に来るの初めてですよね」
私「うん、先週の土曜日仕事で来れなかったから、山本さん達どうなったかなって見に来たの」
山本さん「って、美佳さん、恥ずかしいですよ」
私「今日は古賀君、一緒じゃないの?」
山本さん「今日はクラスの掃除当番です」
私「なるほど、こうちゃんも来てないのかな」
山本さん「さっき来ましたよ、着替えてるんじゃないかな」
一緒に手ぬぐいをたたんでたら、加藤君と佐藤さんも一緒に来たの。
佐藤さん「あー美佳さんこんにちは、平日ってめずらしいですね」
私「こんにちは、2人も一緒に来てるの?」
佐藤さん「いや、いつもは別なんですよ、さっきそこで一緒になったんです」
私「ほんとかなあ」
佐藤さん「ホントですって」
なんて言ってたら、こうちゃんが着替えて出てきたの。
こうちゃん「あれ、いつ来たの?」
私「ついさっきだよ、着替え遅かったね」
こうちゃん「竹刀の手入れしてたんだよ、少し緩んでたから」
おしゃべりしてたら古賀君も来て、山本さんと手を振りあってたよ。
私「おっ、山本さんのナイト様が来た」
古賀君「美佳さんこんにちは」
私「聞いたよ、ラブラブだって」
古賀君「そうですよ、なんたって自慢の彼女ですから」
私「この前はあんなに照れてたのに、すごい変わりようじゃない」
古賀君「堂々としてれば言い寄って来るヤツもいないでしょう」
私「さすがは山本さんの守護神だ」
鈴木さん「ずっとこんなですよ、リア充め爆発してしまえ」
みんなで笑ってる所に見慣れないおじさんが来たの。
みんな真面目な顔になって「こんにちは!」
「はい、こんにちは」
こうちゃんに「誰?」
古賀君「俺の上段の先生」
私「優しそうな感じだね」
こうちゃん「うん、優しいよ」
こうちゃんが紹介してくれたの。
こうちゃん「こちらが名誉マネージャーの井上さんです」
私「初めまして、井上です」
横から佐藤さんが「森田のコレです」って小指立てたの、先生になにしてんの!
先生「ははは、初めまして高橋です、顧問の高橋の叔父です、よろしく」
私「森田君が上段を教えて頂いてるそうですね、とても丁寧に教えて頂いてるそうで、ありがとうございます」
先生「いやあ、とてもしっかりしたお嬢さんだ、社会人ですよね?」
私「はい、自動車販売の会社で事務の仕事をしてます」
先生「姪の言ってた通り若く見えますね、制服着たら高校生でも通りますよ」
私「よく言われます、ここに来始めた頃は同級生に見られましたから」
先生「そうでしょうね、子供には見分けつかないでしょう」
私「見ておわかりになりましたか?」
先生「ええ、職業柄おおよその年齢はわかりますよ」
私「さすがです」
先生「恐縮です、森田君」
こうちゃん「はい」
先生「今日からは少しハードにしようか」
こうちゃん「はい、お願いします」
こうちゃん、頑張って。
稽古が始まって、他の子達の指導もしてくれてたの、加藤君が片手面のアドバイスしてもらってた。
先生も防具付けて、こうちゃんの相手を始めたの。
地稽古、他の子達は笛で交代するんだけど、こうちゃんはずっと先生と。
この前高橋先生が言ってた胴も突きもむき出しの意味が分かった気がするよ。
こうちゃんは必死に面を打とうとするんだけど、先生がとにかく突きまくるの。あごの所だけじゃなくて胸も突くんだけど、こうちゃんが構えると同時に突く、こうちゃんが後ろによろける、試合ならこれで1本。構えると突く、よろける、構える、突く、これがずっと続くの。たまに面を打つんだけど、かわして胴、ちょっと止まると突き、こうちゃんの竹刀、全く先生に当たらない、いや触れない。面はわざと隙を作ってるみたい、待ち構えてたみたいに受けて、体当たりでよろけさせて小手とか面とか打ちまくられてる。壁まで押されて叩きつけられる。その勢いに押されて構えたまま下がろうとすると「上段が後ろに下がるなー!」って怒鳴られる。
やっと先生の意図が分かった気がするよ。要は絶対に下がるな、逃げるな、気持ちで負けるな、そういう上段ならではの厳しさを教えてるんだ。
こうちゃんが剣道始めた時に剣道の本を何冊か読んだけど、上段は「火の位」とも言うらしいの、闘争心で中段に負ける事が有ってはいけないって書いてあった、それを教えようとしてるんじゃないかな。
確かに今日はハードだよ。
稽古が終わってみんなが掃除してた時に、先生の所に行ってさっきの考えを聞いてみたの。
先生「いやあ、剣道の経験が無いのによくわかりましたね、大したものです。おっしゃる通り上段は、どんなに突かれても打たれても気持ちで負けてはいけない、それを覚えるにはやられまくって、そこから前に出る経験が必要なんですよ、頭で理解するよりも体で覚える必要が有るんです。彼は優しい性格のようだし、今までは人にゆずる事も有ったでしょうが、上段で構えてる間は天上天下唯我独尊でなければいけないんです、この言葉ご存じですか?」
私「たしか仏教の用語でしたよね、要約すれば俺が最強って意味だったと思います」
先生「良い要約です、そう思えるほど稽古して地獄を見て、俺が最強と思えるだけの事をしなければいけない。そうは言っても簡単じゃ有りません、それに近づく気持ちが必要です、その為のメンタルトレーニングと言えますね」
私「よくわかりました、ありがとうございます」
先生「彼は強くなりたいという気持ちが強い、体格にも恵まれて理解も早い、期待してるんですよ」
私「ありがとうございます、これからもよろしくお願いします」
先生「はい、任せて下さい」
こうちゃん、大変な事になってるよ。




