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湖面に刺す  作者: 京宏
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第十三話 戦の正

 伝達の兵が急ぎ駆けつけてきたのは、先の襲撃の後、山の奥深くで一息ついている時であった。


「至急帰還せよ、と長が仰っております」

「さようですか。では行きましょう」


 半ば駆けながらそう応えた。

 とうに私のそういう行動には、部下も十分に慣らされており。彼らも速やかに後ろに続く。


「詳細はテムから聞けばよいのですね?」

「はい、自ら伝えると仰っておりました」

「わかりました」


 山を尋常ならざる速度で駆け上る。

 テムと守鬼と共に鬼熊の里で指揮を執っている。

 休まずに駆け続ければ3刻ほどで到着できるだろう。


 と、その時、伝達に来ていた部下も同行していることに気づいた。血の気を失って、それでも懸命についてきている。


「よい働きです。あとは任されましたから、ゆっくりと休んで、それから来てください」

「はい……。必ず、事が起こる際には、私もそこに」


 そう言って離れていく部下が述べたこと。それは私も考えていたことであった。


 緊急の帰還命令が出る原因は幾つも考えられる、最も可能性の高いものとすれば、在真シウミのことだろう。

 いよいよあの至美貴が鬼熊の里に迫れば、それを迎え撃つため、私と私の部下を緊急に呼び戻すのは決まっていたことだ。

 テムと私、十五名の部下、そして守鬼と鬼熊。在真シウミに刃を届かせるとするならば、山の最高戦力を一手に集めるより他はない。


 現在、テムと守鬼は来るべき時に備え、自らは前線で出ずに後方での指揮に集中している。

 私と旗下の騎狼隊は敵後方での攪乱を行っていたが、一人の脱落者も出していない。

 気になるのは、敵本軍への遅滞作戦のため最前線に配置されたという、二十数名の鬼熊たちはどうなったか。


 鬼熊の里で見たあの巨大さは、まさに岩石や大木。そこいらの雑兵に負けることはないと思うが、敵の本軍には至美貴在真シウミと、幾人かの大美貴がいる。

 一般的に、守鬼は至美貴に及ばず、大美貴と同等の強さを持つと言われている。それでも朝廷の化者に対する評価の中では破格だ。

 鬼熊は非常に厳しい戦いを強いられていることだろう。


「元より、正面から戦っても勝ち目なき故の、遅滞。

 ただ、敵もまた自ら一か所に留まり続けていたと聞きましたが、動きだしたのでしょうか」


 思考は決してたどり着けぬ正解を探して回転する。一周するごとに疲労を齎すだけの無駄な行為である。

 どれだけ騎白狼の足が速かろうと、この急く気持ちに追いつけることはない。


「前方に敵を確認! どうしますか?」

「やむを得ません。回り道をしましょう」


 山の中腹に入ると、上るにつれ、敵とすれ違うことが増えた。

 それは一体何を意味しているのかは考えず、極力頭から無駄な思考は省き、急くことに集中する。


 そうして、巨大な洞が各処に空いている鬼熊の里に到着したのは、五刻ほど経ってからであった。


 待機していた化者の兵に案内された洞穴に急ぐと、中では守鬼が腕を組み黙考しており、テムは濁酒を片手に目を四方八方にぎらつかせていた。


「来たな、ミシュ」


 テムは私を認めると、凄惨な笑みを浮かべて、そう言った。


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