回想 【GET!】
「さて、じゃあこの【葉切の斧】貰っていくわね!」
あの試合の後、私達の試合に触発された武闘家たちが私に試合を挑んできたがことごとく蹴散らしてやった。
まぁ、そのほとんどを代わりに相手してくれたのが、僧の横で微笑んでいる壱場さんだったのだが……。
「いやぁ、こんな時間になっちまってすまねぇ~なぁ!俺に勝利した時点で、武器の授与があってしかるべきなのに、あの強い奴と戦いたがりの馬鹿共のせいで……」
壱場の視線の先には、先ほどの観客でもあった武闘家たちがボロボロの状態で横たわっていた。
皆が満足そうな表情を浮かべており、豪快にいびきを掻いている者までいた。
「まぁ、強い奴と戦いたいって気持ちが俺には分かっちまうから、敢えて止めなかったけど、嬢ちゃんには時間取らせちまった。本当にすまねぇ!」
「別にいいわよ。最後には、こうして斧をいただけたんだもの」
私は、2対になっている細長い赤銅色の斧を眺めた。
斧というより鎌に近い造形のそれは、見ただけで一般の武器とは違う雰囲気を纏っていた。
夕日に彩られ、更に美しく赤く輝く斧。
「綺麗……」
私は、素直にその斧を見た感想を漏らした。
「ふぉっふぉっふぉっふぉ。お嬢ちゃんは、その斧を気に入ってくださったようじゃな。結構、結構」
たっぷりと蓄えた白髭をいじりながら、僧のおじいちゃんが愉快そうに笑う。
「はい、とても!……でも、いいんですか?」
「うぬ?」
「こんな大会ごときで、せっかく集めた重要な武器を賞品にしてしまって……。少し、もったいない様な気がしているのですけど……」
先ほどの壱場の説明では、この大会は毎週開かれていて3位以内に入れば、この寺院にある好きな武器を一つ持って行っても良いとのこと。
毎回のように優勝している壱場の分を抜いたとしても、毎週2つほど武器が出ていく計算になる。
この斧を取りに行った時に、武器が収まっている寺の中を案内してもらったが、どれも一筋縄ではいかない特殊な武器ばかりだった。
そんな重要な物をこんなに簡単に受け取っていいのか?と、ふと疑問がわいたのだ。
「ふぉっふぉっふぉ。ギフト様は、その斧を手に持てている。それだけで、十二分に持っていく権利がありますわい」
私の疑問に対して、よく分からない説明で応える僧に私は小首を傾げた。
「ああ、それじゃ分かんねーよな……。つまり、この寺院にある武器ってのは、特別なものが多いんだ。大抵が、一癖どころか三癖も四癖もあるようなものばかりだ。んで、この武器たちの特徴が、使い手を選ぶってところにある」
そう言って、壱場は私の手の中の斧を指差した。
「ギフト、お前、その斧重く感じねーか?」
「えっ?……まぁ、確かに少し重いかな?」
空高く掲げた斧は、私が【自己強化再生】を掛けた状態でようやく掲げられるくらいの重さだった。
「普通の奴じゃ、そんな重い物は武器になんねーわ。観賞用だったら、まぁ持ってくかもしれねーけどな……」
「ふぉっふぉっふぉ、観賞で持ち出した武器なんざ、1週間以内に勝手に寺院に戻ってくるわい。武器は、使われてなんぼじゃ。武器たちも、次の使い手を待っておる。武器が自分を使うに値しない使い手と感じたら、使い手に力を貸さんただの重りになるだけじゃし、どうやってか知らんが、勝手に寺に帰って来おる。そういう類の武器しか、この寺には無いのじゃよ」
「ほえ~……」
僧と壱場の不思議な話を聞いて、感心してしまった。
つまり、この寺院の武器には意思があり、使い手を選ぶというのだ。
そして、武器に選ばれなかった者には重りにしかならないし、所有者の知らないうちに寺院へ戻ってしまうらしい。
確かに、それならば武器は本当の使い手の手に永住するし、先ほどの僧の言葉「武器は使われてなんぼ」の通り、武器自身も良い使い手に出会える可能性が高くなる。
それにしても、意思を持つ武器ってなんか不思議に感じた。
「私が持っている【葉切の斧】は、どうなんだろう?」
夕日に照らされて赤く輝く斧は、私が武器として扱うにしては重すぎる。
しかし、心なしか、武器に嫌われているような感じは何故かしなかった。
「ふ……む……」
僧のおじいちゃんがジロジロと斧を見る。
そして、何か納得いったように頷くと口を開いた。
「どうやら、この斧は期待しているようですなぁ……。この斧、ギフト様がお使いになるわけではありますまい?」
「あ、はい。一応、むす……友人へのプレゼントです!」
「ふむふむ、この斧はその友人を期待しておるようですじゃ……。じゃから、ギフト様には扱いづらいが持てる重さを維持しとる。そんなところじゃろうなぁ……」
「へー、さっすが、この寺院の僧侶だな!武器仙人なんて呼ばれてるだけのことはあるわ!」
「儂にとって可愛い子供達みたいなものですからの~。ま、彼らの方が明らかに年上じゃがの」
私は、斧を見て微笑んだ。
待ってろよー!最高の使い手の所へ、届けてやるからなー!!
「さてと、それじゃ、私は失礼するよ!」
「おう、また来いよ!今度は、お前の武器を探しによ!!」
壱場の言葉に笑顔で頷いた。
そういえば、私的に少し気になった武器が一品だけあったんだった。
まぁ、今回は【葉切の斧】が目的だったから、触れる事すらしなかったんだけども……。
「またのお越しをお待ちしております。貴方の武才に祝福を!」
私は、二人に頭を下げると【転送】で【サルト】に戻ったのだった。
<以下、卵が帰った後の2人の会話>
「それにしても、貴方様が参加されてから初めてではないですか?貴方様に勝利して、武器を持っていった挑戦者は……」
「そうだなー。いやー、魔女の服着てたから、そこそこ強いと思ったんだけど油断したなぁ。ま、こんなこともあるだろう」
「ふぉっふぉっふぉ、負けず嫌いの貴方様にしては珍しいですな。てっきり、悔しいものかと……」
「これ付けた上に、決められたルール内での敗北だからな。悔しくないって言えば嘘になるけど、そこまでじゃなーなぁ」
そう言って壱場が僧に見せたのは、重厚な飾りのついた数珠だった。
「それに、負けた相手がよかった。小賢しいような奴だったら、本気出しちゃおうかとも思ったけど、負けても気持ちのいい相手は久しぶりだ。師匠ぶりかな?」
「そこまでお気になられたのだったら、今度は【変化】を解いてお会いになられたらどうですかな?その時は、本名で挨拶すれば知り合いになれましょう」
「はは!ま、次会った時な!それよりも、【葉切の斧】がまた寺に戻ってこないことを祈るぜ!あそこまでやって、帰ってくるなんて肩透かしもいいところだからな!」
「違いありませんな」
そう言って二人は笑いあった。
「あ、そうそう、双葉様が先ほどお見えになられましたよ。久しぶりに、ケーキの新作を持ってこられたようです」
「馬鹿!そういうのは、早く言えよ!!」
そう言うと、壱場は誰も見ていない寺の裏へ回って【変化】を解いた。
「今日は、妹と遊ぶから邪魔すんじゃねーぞ!」
「心得ておりますじゃ、一葉様……」
そう言って【転送】で移動した一葉に、僧は頭を下げたままでいたのだった。




