回想 【武舞台の決闘】
「まずは、小手調べだ!」
まるでボクサーのファイティングポーズのような構えで、壱場は私に向かってきた。
軽いジャブが私に降り注ぐ。
「へぇ……」
私はそれを【自己強化再生】を掛けた状態で躱した。
見たところ一発一発の威力は大したことなさそうだったが、その繰り出される拳の数に少し驚く。
まるで土砂降りの雨と言ったところだろうか?
身長のある彼女から、連続で拳の雨が降り続ける。
普通ならば何発かもらう覚悟で相手に突っ込んでいくだろうが、私はそんなことはしない。
威力が大したことが無い攻撃ほど、恐ろしい事を私は経験で知っているからだ。
例えば、ヌメっちの毒攻撃。
あれは、触れただけで対象を死に至らしめるほどの効果がある。
私の使用する能力拳法に関しても同じだ。
確実に防御の型で受けないと、一撃ノックアウトすらありえる。
この木草界には、これだけの年月を生きてきた私でさえ知らない未知の攻撃方法が山ほどある。
だから、例え小手調べだろうが油断はしない!
「ほっ、はっ、よっ!」
私は全ての拳を躱して、一気に距離を取った。
「うおおおおおおおおおおお!!!!すげーぜ、嬢ちゃん!!」
「大抵の戦士は、あれで身動きが出来ないほど撃たれ続けるってのに!」
外野からの称賛の声に笑みを浮かべつつ、私は目の前で手を叩いた。
「!?」
その瞬間、壱場も後ろへ下がって距離を取った。
「ほ~う」
「へぇへぇ、ただ者じゃないと思ったけど、能力拳法の使い手だとはな!」
私がさっき使用したのは、能力拳法【勝底密御】。
ご存知の通り、距離を取って戦いたい相手に最適な無限の間合いを持つ拳法だ。
私は、手を舞うように動かし続けた。
「おっと、やるねぇ~」
密度の操作により発生する見えない攻撃を壱場は躱し続けた。
こいつ、戦い慣れしすぎてるな……。
「今度は、ちょっと強くいくぜ?」
そう言うと、彼女は思いっきり上空へ跳び上がった。
身動きの取れない空中は【勝底密御】の恰好の餌食だ。
本来ならば問答無用で【勝底密御】を叩き込んでいる所なのだが、それよりも私の直感が嫌な予感を警告してきたのだ。
私は直感に従い、その場から離脱するとほぼ同時に、彼女は私が今まで立っていた場所へ拳を振り下ろした。
「中衝撃!」
ボゴン!!!!
今更だが武舞台の大きさは、一辺が50mほどの大きさの正方形だ。
そのほぼ4分の3が吹っ飛んだ。
私は吹っ飛んだ武舞台の大きめの破片の上で、自分自身の直感に従ったことを素直に褒めた。
「まったく、偉いぞ私……」
大部分の武舞台が無くなり、残っているのは私から見て左上部分のみだ。
そこに彼女は悠々な感じで立っていた。
私と目が合うと、くいくいと指を動かして、こっちへこいという仕草をしてきた。
「あの威力で中衝撃の相手とあの狭い範囲でやりあうのはきついなぁ……。くそ、本当に小手調べだったなぁ~。あいつ、パワー型だ……」
その仕草を無視して、私は破片の上でどうやって彼女とやりあおうか考えていた。
パワー型であのスピードって、相当の手練れだ。
あんなのがひょっこりいるんだから、木草界は侮れない。
「おーい、早く来いよー!待ちくたびれるぞ!!」
彼女は中々来ない私に痺れを切らして、大きな声を上げた。
ふむ、素直で真っすぐな良い武闘家だ。
正々堂々と真正面からぶつかって決着をつけたいタイプとみたね。
「お!」
その時、私の頭に良いアイデアが閃いた。
その性格を利用させてもらおう。
私は立ち上がると、大きく腰を落として右手を後ろへ引いた。
「私の最大の必殺技だ!あんたに受けられるかな?」
私が大声で彼女にそう言うと、彼女はその顔にものすごい笑みを浮かべた。
「おっもしれぇ!!!!!!」
彼女も私と同じように腰を落として、右手を後ろへ引いた。
よし、乗ってくれた!
この距離では、確実に彼女の素早さなら避けられてしまうだろう。
だけど、受けたのならば威力ならば決して負けない。
その必殺技の名前は……。
「木草砲!!!!!!!」
「大衝撃!!!!!!!」
私の右手から放たれた木草砲と、彼女の右手から放たれた拳圧の衝撃波がお互いの中間地点でぶつかったのだった!!!




