回想 【紫陽花との出会い】
「卵、今度、こいつを南の守護者にするのを儂が手伝う事になった!」
そう言ってヌメっちに紹介されたのは、彼の半分ほどの背丈しかない女の子だった。
彼の後ろに隠れた少女は、おずおずとこちらの様子を伺っていたが、私の顔を見たとたんに驚いた表情をした。
「あ、あぁあぁあああああ!!!!」
少女の突然の大声に、ビクっとする私。
「え?なになに?」
「母様!!」
先ほどまでヌメっちに隠れていた少女が、突然私に抱き着いてきた。
少女は、愛嬌のある笑顔で私に頬ずりをしてくる。
「ねぇ、どういうこと、ヌメっち?」
ヌメっちは泣きそうというか、絶望したような顔で私を見ていた。
「卵、お前……子持ちだったんか?」
「んなわけあるかい!」
スパーンと気持ちのいいツッコミ音が入った。
「一体、この子は何なの?どういう経緯で手伝う事になったのかとか、詳しく説明してちょうだい!!」
私はニコニコして私に抱き着いたままの少女を放っておいて、ヌメっちに説明を求めたのだった。
ヌメっちの説明だと、こういった経緯らしい。
・木草樹から呼び出しがかかる。
・呼び出しに応じて行ってみると、そこに女の子がいた。
・木草樹の説明によると、今から数年前に【サルト】南に意思を持つ植物が突然現れて成長を始めた。
・その植物が南の植物の養分までも吸い付くし、南の森が枯れ始めてしまった。
・原因を突き止めた南の守護蟹が、その植物を取り除こうと斬りかかるも、無限の再生能力に敗北して、逆にその植物の栄養に変えられてしまった。
・木草樹は守護蟹よりも貪欲で強い植物を気に入り、強制進化させた。
・その結果、人型の植物【植物少女】へと種族を変えた。
・同じ植物としても木草樹は、大変彼女を気に入り、そのまま南の守護者へと任命しようとしたが、守護蟹の部下であり子供達が納得しなかった。
・ゴリ押すことも出来たが、それでは反感を持つ者を近くに置くことになる為、とりあえず息子であり、彼の右腕でもあった蟹を新たな守護者に任命した。
・木草樹としてはこの少女を南の守護者にしたいため、ヌメールに武術の修行と【サルト】の知識を学ばせるように命令をした。
・ヌメールのお墨付きが出た時点で、南の守護蟹と対決させて勝たせると木草樹は考えている。
「ってなわけでな、儂は、そのガキンチョのことちぃ~っとも知らんわけよ」
「…………」
「どないした、卵。そないに、顔を引きつらせて……」
私には、思い当るふしが一つあったのだ。
【自己強化再生】を掛けて、【サルト】へ思いっきりぶん投げた植物【チャヌ】……。
確か、あれは【サルト】南の方の出来事だ。
時代的にもほぼほぼ一致する……。
私は、未だに私に頬ずりする少女に声を掛けた。
「ねぇ、貴方、もしかして元は【チャヌ】だったりする?」
少女は、私を見上げてきょとんとした表情を浮かべた。
「母様、私は母様に御意思を頂いた木です。それ以上でも、それ以下でもありません」
「ああ、そう……。ちなみに、それってどこで上げたっけ?」
「……母様、お忘れですか?私は、【サルト】より離れた地で生まれました。そして、母様は私の……その……実を……美味しいと……お食べになって……」
もじもじして顔を赤らめて、そんなことを言う少女と私を交互に見るヌメっち。
そのキマシタカー?って顔止めなさい!!
何も、きていないから!!
「ああ、分かったわ……。確かに、そういう意味なら私は貴方のお母さんかもしれないわね……」
ヌメっちのキラキラした視線がうっとおしかったんで、そうそうに話を切り上げて、ヌメっちに彼女についての経緯を説明した。
ヌメっちはほっとしたような、少し残念なような表情を浮かべていた。
「というわけよ、分かった?百合好きドスケベ蛙ちゃん」
「誰が、百合好きドスケベ蛙やねん!!まぁ、否定はせえへんけど……」
「しないんですね」
「まぁ、ええわ。そんなら、卵の事は好きに呼んだらええ。儂の事も好きに呼べや!んで、お前って名前なんて言うねん?」
ヌメっちは上手い事自分の話題を打ち切り、彼女に新たな話題を振った。
ふむ、そう言えば、まだ自己紹介済んでなかったね。
どうやら、ヌメっちとも済んでないようだし、本当にさっき木草樹の元から連れてきたばかりのようだ。
「私の名前ですか?では、母様お願いします」
「へ?私?」
「ええ、子の名前は、母親が決めるものだと木草樹様がおっしゃっておりました。ですので、母様から名前を頂けたら、私は嬉しいです」
ニコニコとした笑顔で、淡々とこちらにとって嬉しい言葉を並べてくれる。
ああ、なんだ、この子!!
めちゃくちゃいい子じゃないのよ!!
「よしよ~し、今から、おかあたんが、ぴったりに名前付けてあげますからね~!!」
「いきなり、だだ甘やん……」
彼女をぎゅっと抱きしめて、頭を高速で撫でる。
私の中の母性が溢れて止まりそうもなかった。
一番印象に残っているのは、真っすぐで美しい彼女の紫色の瞳だった。
そう、まるで花のように美しい瞳……って植物だし、当たり前なのかな?
「よし、じゃあ【紫陽花】って名前はどうかな?紫色の瞳が、私の好きな花の色にそっくりなのよね」
「まぁ、卵にしてはまともな方やな……。儂なんて、ヌメヌメしてるからヌメールやし……」
「ありがとうございます、母様。私は、本日から【紫陽花】を名乗ります!」
ボソボソ何か言っているヌメっちを無視して、私達は盛り上がった。
「とりあえず自己紹介は終わったし、これからどうするの?」
「ま、とりあえずは、知識を教えることになるんかな?進化すれば、ある程度の知識は手に入るんやけど、詳しい事ってのは、勉強していかなあかんねん」
「へー、そうなんだ」
「そや。んで、同時に武術の稽古もつけたろ思っとる。相手が蟹やから、素手はしんどいんちゃうかなー?ハサミ相手になんか武器を持った武術を教えられたらええなーって。紫陽花は、使いたい武器みたいなのあるん?」
「あー、私、斧を使ってみたいです。昔、周りの同級生が、それで次々に殺されていくのを見ましたので、あの武器が私の中で最強のイメージが強いんですよ」
可愛い顔して結構怖いことを淡々と話すところは、やっぱり元植物って感じがする。
確かにあそこらへんの森は、村人の重要な木材として利用される木が沢山あった。
【チャヌピ】を実らせる【チャヌ】は、神聖な植物として伐採されることは無かったけど、そのせいで自分の周りで伐採されていく植物を彼女は見続けていたんだろう。
それなら、斧に畏怖のような感情を持っても不思議ではない。
「よしよし、じゃあお母さんが、特別強い斧をプレゼントしてあげよう!……ヌメっち~、何か有名な斧って知らない?」
「【サルト】から出られない儂が知るはずないやろ!そやな~、北の竜のおっちゃんなら知ってるかもしれんけど……」
「ああ、じゃあ聞いてみよう!」
私は、【歩み】を思い出した。
エンシェントドラゴンの【歩み】を今の時代にセットして、斧の情報を探る。
「ふむ……。【グランディア】にある【葉切の斧】ってのが面白そうね。突然変異で生まれた超巨大葉切蟻の化物の牙から造られた逸品のようよ。2つでセットの大咢型。左右斧。……いいじゃない!」
私はにやっと笑うと、【グランディア】の方向を向いた。
「待ってなさい、紫陽花。お母さんが、最高のお誕生日プレゼントを用意してあげるわ!」
「はい、待ってます」
「いや、紫陽花は、待っている間、お勉強な!……きぃつけていけや、卵」
「応とも!」
私は威勢の良い掛け声を上げるとともに、【転送】で【グランディア】へ向かったのだった。




