初めての……
「……という訳で、犯人は貴方だ!アネックス君!」
びしっと指差した男性の先にいた青年がガクリと崩れ落ちた。
「そんな、まさか……犯人がアネックス君だったなんて……」
「だって……仕方がないじゃないか……。主役が欲しかったんだよー!!」
ひょんなことから、マジリック劇団連続殺人事件に巻き込まれてしまっていた私。
それにしても生まれてきて初めて、名探偵というものを見た。
舞台の芝居に連続殺人事件に名探偵の登場という役満なこの状況を、まるでドラマを見るような感覚で不謹慎ながら思いっきり楽しんでしまった。
この肉体の持ち主が毒殺されたってのに、つい全力でその人を演じてしまっていた。
結局、私の後にも2人ほど死んだ。
一人は、私の飲み物に毒物を入れるところを見ていたガーネットさん。
まぁ、彼女はそれを理由にアネックス君を強請ろうとしていたらしいし、殺されても文句は言えないと思う……。
そして、最後の殺人は、彼の勘違いから脚本のネタリアさんが殺された。
……それにしても、本当にすごい経験をさせてもらった。
戦闘や魔法合戦みたいなのとは違う緊張感を味わった。
……とと、やばい、いつの間にか、そろそろ転生する時間が来たようだ。
私は、名探偵の推理によって逮捕されたアネックス君が出ていく中、自室へ戻ろうとした。
「ジョージアさん!」
そんな私を引き留めたのは、探偵の先生だった。
「ああ、探偵の先生か……、お疲れさんだな」
もうすっかり口調もこの肉体のものになっていた。
意外と私ってば演技の才能があるのかもしれない。
「ありがとうございます!貴方のヒントのおかげで犯人に辿り着きました!」
「ケッ!よしてくれ!俺は、あいつに恨まれて当然の態度を取り続けていた……。あいつが思い詰めて、殺人なんて計画したのも俺の態度が原因だ……。俺のせいだったんだ……」
「……気づいたのならば、改めればよいだけです。それに気が付けたのならば、貴方も変われるはずです!」
「ふん……、そうだな……。まぁ、来世があったら考えてみることにするよ……」
「え?」
「せんせーい!何をしているんですか!香取警部が呼んでますよー!!」
私と探偵の先生の会話に、可愛らしい女の子が割って入ってきた。
なんでも、彼の助手らしい。
「あ、ああ、すぐに行くよ……」
「も~ぅ!あ、ジョージアさん!明日の舞台、楽しみにしていますからねー!!」
助手に背中を押される様にして、慌ただしく外へ駆けていく探偵の先生。
それを無言で手を振りながら送り出した。
「……さて」
眠気も頂点だし、そろそろ出発しますか。
私は自室に戻り、部屋の鍵を掛けると横になった。
そして、意識を手放したのだった。
…………そんな気が無かったのに、密室殺人事件が完成してしまった。
パチリ
激しい激痛で飛び起きた。
「がはっ!イタタ……自己強化再生!」
慌てて自分の傷を治す。
やはり、何度味わっても傷が原因で死んだ肉体への転生は慣れないものだ。
無事に【自己強化再生】を終わらせて、キョロキョロと周りを見ると彼女と目が合った。
「ん?」
おお、そこにいるのは、もしかして私かな?
それにしても、やけに初々しい……。
なんか口に手を当て、目をまん丸くして驚いていた。
その反応につい頬が緩んでしまった。
「おおっ!私じゃん!!ってことは……うわっ!私、あのストーカー野郎の体かよ!!」
彼女に元気よく声を掛けながら、自分の【歩み】を確認していた。
そして、途中で私の転生先があのストーカー男の肉体だと気が付いたのだった。
うわ~、まじ気色悪いんだけど……。
私が生きてきた中で10位以内に入るほど気持ちの悪い男である。
ま、今は、それよりも久しぶりに帝国以外で卵に会えたことが嬉しかった。
「なんだよ、ハトが豆鉄砲くらったような顔して……。久しぶりに会ったんだ、色々語ろうぜ!」
老婆心と思いたくないが、こう【変身】すら覚えていない若々しい私に出会うと、ついお節介を焼きたくなってしまう。
それにしてもと、ついつい周りを何度も確認してしまう。
この風景と相手の転生先の姿、そして今確認したばかりの【歩み】でようやく確信が持てた。
私が来たこの場所は、私が初めて私自身と出会ったあの起点とも呼べる場所だったのだ。
「……私、よね?」
震える声で、ぶるぶると私を指差す女の子。
中身は私なのだが、その初々しい感じが非常に可愛らしい!
先ほどから、懐かしさと相手の雰囲気につい頬が緩みっぱなしだった。
「あぁ、正真正銘の卵ちゃんだぜ?……あー、そういえば、ストーカーの時が、私との初対面だったな。まっ、あんま驚くなって、これからも何度か会うんだからさ」
今更、気が付いたのだけど、前回までの芝居の口調を引きずっているなぁ……。
ここで、いきなり口調を直すのも、何か負けた気がする。
というか、大先輩としての威厳に関わる気がする!!
「とりあえず、シャワーでも浴びて着替えて来いよ。生臭くて、敵わんからな……」
余裕を見せてる私カッケー状態!
心の中は、ドヤってますぜ!
本当に久しぶりの【アダモグランディス】以外の世界に若干テンションがおかしい。
鈴ちゃんとのお別れは寂しかったけど、素直にあの国を出れたことが嬉しいのだ。
世界は、こんなにも広く大きく、驚きと興奮に満ち溢れている。
そして、こんなにも素晴らしい世界を創ったのが、あの鈴ちゃんなんだ……。
……でも、周りを見渡して反省をした。
うん、ストーカー殺人事件の現場で思う事じゃなかったね……。
本当にごめんなさい……。
混乱している若い卵をお風呂に押し入れて、私は血だらけの部屋に頭を下げた。
「鎮魂歌:【安らかなれ】」
私は、魔力を込めて歌を歌った。
昔、シスターさんに転生した時に得た技術の一つだ。
怒り暴れまわる魂を落ち着かせる効果がある。
こうすることで、木草樹に取り残されて自縛化しないようになるらしい。
早い話が、転生しやすくさせる歌だ。
木草樹から逃れた魂は、やがてMPを消費しつくして消滅してしまう。
そうなる魂は、ひどい死に方をしたものが多いらしい。
あの少女の魂もきっとそうなんだろう。
私は、部屋を飛び回って暴れていた魂が歌で落ち着いたのを確認して、なんとか【魂糸】で捕まえた。
そして、その魂を霊界へ無理やり押し込んだのだった。
「よし、これで彼女も無事転生できるでしょ……」
残念だけど、【蘇命神奇】が間に合わないほど時間が経過していた。
そして、もう一つの魂は放置した。
あれは、助ける理由がない。
「さてと……」
あの卵には伝えなければいけないこと、やってもらわなくちゃいけないことが山ほどある。
私は【変身】でいつもの姿になると、【転送】で別荘から服を調達してきた。
「風呂場に服を置いて、外でスタンバっておくかな~♪」
第一印象は、非常に肝心だと言う……。
私は小屋の外に出ると、かっこいいポーズで彼女が出てくるのを待ったのだった。
<今回の転生先で覚えたこと>
・演技
・マジリック劇団連続殺人事件の真相




