能力の正体
「ぐっ!」
左胸部分を背中側から、剣で貫かれる。
肺に穴が開いたらしく、あまりの苦しさで溺れそうだった。
私は、頭を足で抑え込んでいる幹彦へ、真横から【勝底密御】を仕掛ける。
しかし、空気圧が幹彦を吹き飛ばす直前に、彼は私から距離を取って、その攻撃から避けることに成功してしまった。
でも、これで私を拘束している物は無くなった。
ズキズキと痛む頭を【自己強化再生】で治す。
左胸の傷は、このままでいい。
というのも、相手の意味不明な攻撃はまだ続いているからだ。
痛みが意識を覚醒させてくれる。
頭痛が止まらず、意識がぼーっとする。
【自己強化再生】で、胸の傷以外は、完全に治っているはずだ。
それなのに、健康なのに、頭がちっとも働かない……。
「くっくっく、どうかしましたかな?魔女よぉ~!」
焦点の定まらない目で、幹彦を捉える。
彼は、剣を片手にゆっくりとこちらへ歩いてきていた。
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
自然と、瞼が下がろうとする。
ああ、くっそ!眠い……。
「……あ」
私は、ようやく気が付いた。
どんな健康な人間にでも平等に訪れる、人が意識を失う時間。
それは、睡眠。
そうか、私は、眠かったんだ。
あまりの眠気の為に、倒れそうだったんだ。
睡眠不足からの頭痛に、意識の混濁……。
なるほどねぇ……、これは防ぎようがない……。
「あんた、やるねぇ……」
ズキズキと左胸が痛みを訴える。
そのおかげで、眠らずに済んでいるが、こいつはヤバイ!!
「ん?何がですかな?」
「とぼけるんじゃないわよ……。あんた、生物の三大欲求の一つ【睡眠欲】を操れるな!!」
私の言葉に、幹彦はニヤリと笑う。
「さてさて、なんのことやら?皆目見当がつきませんなぁ~!!」
それはそれは、とても楽しそうな声だった。
しかし、それが答えでもあると私は感じた。
「ふん、胸糞悪い……」
思わず、舌打ちをしてしまう。
はっきり言って、かなり不利な状況だ。
だって、この睡眠欲、防ぎようのない攻撃なのだ!!
生物は、必ず睡眠を取らなくてはならず、睡眠中は、誰もが無防備になる。
眠気が溜まったこの状態でさえ、思考や行動に制限がかかっているようなものだ。
一体、どうやって私に睡眠欲を与えているのだろうか?
もし、近くにいるだけで発動するような能力ならば、もうお手上げだ。
距離を開けて戦うしか方法が無い。
でも、もし、何かしらの物理的な手段で、睡眠欲を与えているのならば、それに気を付けて戦えば……。
ふっと、意識が遠のきかける。
私は、慌てて左胸の傷口に指を突っ込み、かき回す。
「があっ!いたたた!!」
涙が滲むほど痛いけど、おかげで意識が覚醒した。
改めて、相手の様子を観察する。
「さてさて、意識を失わんと抗い続ける哀れな少女よ!そろそろ、おねむの時間ですよ?」
幹彦の振るってくる剣を、強化した肉体で避ける事のみに集中して、相手の様子を注意深く観察し続けた。
「……やれやれね」
残念ながら、彼の動きには、何一つ変わったところが無かった。
それに加えて、彼の剣の腕前は見事なもので、眠気で鈍っているとはいえ【自己強化再生】を掛けた状態でも完璧には避けられず、あちこち斬り傷だらけになってしまっていた。
ガクンと、膝が落ちる。
「あ……あれ?」
そして、そのまま体は倒れこみ、動けなくなってしまった。
未来の私から貰った手紙の内容が、頭の中を掠めていく。
『貴方も知っているでしょうけど、5つの帝国の参謀長と、5つの帝国を纏め上げる大総統閣下だけは、別格なのです。
はっきり言って、【ZERO】ちゃんや私でも持て余すほどの強者だと思います。』
「……あ」
瞼が一気に重くなる。
もう、体を起き上がらせることすら、出来そうも無かった。
「だ……めだ。……ここで……寝たら…………里が……」
地面にくっついた耳から、こちらへゆっくりと歩いてくる足音が聞こえた。
既に、左胸の痛みすらマヒするほどの眠気が体を襲っている。
もう、どうしようもなかった。
「ふむ、魔女とやらも大したことないようだな……。しかし、この都市の被害を考えると、【サナルアダモ】の様子が心配だ。早く【木草の里】を滅ぼして、助けに向かわなくては……」
辛うじて薄く開けている目には、私に向かって剣を担ぎ上げるように持つ幹彦の姿が見えていた。
そして、その剣を私の首目掛けて思いっきり振り下ろそうとした時、私と幹彦の間に飛び込むように入ってきた人がいた。
残念ながら私の意識は、ここで一旦途切れたのだった……。




