表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
指切り  作者: 直井 倖之進
17/24

第四章 『警部・真中優一郞の推理』⑥

 エレベーターが開き、優一郎と小山は一階の待合所に着いた。

「被疑者は久保真澄で決まりですね。首にアンクレットをつけた人形のことを問い詰めれば、何か出てきますよ、絶対」

 鼻息を荒くする小山に対し、優一郎は冷静に言った。

「城崎小百合の証言、変だったと思わないか?」

「どこがですか?」

「彼女の怪我は野犬に咬まれたもので、久保真澄に傷つけられたわけではなかった。それなのに、彼女の話しぶりは、久保真澄が犯人であると確信したものになっていたんだ」

「それはそうでしょう。城崎小百合は、自分の婚約者を殺したのは久保真澄だと推理しているんですから」

「それだけじゃない。彼女は、森の中で指を咬まれたと話した。だが、森からこの病院までは車で四十分近くかかるんだ。怪我をして血を流しながら、果たして、それだけの距離を運転できるだろうか?」

「必死だったんでしょう」

「そうかもな。だが、どうしても引っ掛かるんだ。城崎小百合は、嘘をついている気がしてならない」

「だから、アンクレットの件も、チョーカーだと言う彼女に話を合わせて、詳しくお話しされなかったんですね」

「あぁ」

「さて、どうします? これから」

「俺は、城崎小百合の怪我について、担当医に話を聞いてみようと思う」

「では、自分はどうすれば」

 小山は指示を仰いだ。

「森へ行って、人形を探してみてくれ。話の具体性から判断するに、首にアンクレットをつけた人形が森にあるのは恐らく本当だ。タクシー会社に連絡すれば、場所も特定できるだろうからな」

「分かりました」

 小山が病院を出るのを見送ると、優一郎は、小百合の指を処置した医師の(もと)へと向かった。


「え? 欠損?」

 そこまでの大怪我だとは思っていなかった優一郎は、医師の言葉を繰り返した。

「えぇ。右手の小指が、第一関節から欠損していました。詳しいお話は何もしてくださいませんでしたが……」

 小百合のカルテを見ながら医師はそう答えた。

「その怪我、本人は、森で野犬に咬まれたと話しているんですが」

 優一郎は核心に触れる質問をした。

「野犬だとは断言できませんが、傷口が荒いため、刃物によるものではないでしょう。動物に咬まれたのは、間違いないと思います」

「そうですか」

「あ、そうだ。昨日も同じ怪我をされた患者さんがいらっしゃいましたよ」

「ほ、本当ですか?」

 思わぬ医師の言葉に、優一郎の声は上擦った。

「はい。森で野犬に咬まれた、と。警察にも連絡差し上げたのですけど、ご存じありませんでしたか?」

 連絡を受けたのは、恐らく所轄の地域課だ。優一郎のいる県警本部の捜査一課にそんな話がくるはずがない。

 だが、いちいち説明するのも面倒な優一郎は、

「はい」

 と、返事をしておいた。

「ありました。これです」

 医師は昨日の患者のカルテを探し出すと、優一郎に渡した。

「あ!」

 カルテの氏名欄を見た優一郎は、思わず大声を上げた。

 久保真澄。確かにそう書いてあったのである。

「怪我をしたのは、この人で間違いないですか?」

「はい。指の左右は別ですが、森で怪我されたということだけでなく、その傷口までが同じです。多分、同一の動物に咬まれたのでしょう」

 優一郎は、カルテに記載してある真澄の住所をメモに取った。

「診療中にお邪魔しまして、ご迷惑をかけました」

 医師に頭を下げると、優一郎は総合病院を出た。


 見つからない指紋。放置された凶器。掻き混ぜられた血溜まり。密室。

 そして、足袋の跡や髪の毛、小百合の証言など、事件の端々でその影は見せながらも、(いま)だ実物を確認できていない首にアンクレットをつけた日本人形。

 全てが点のまま、事件は推移していた。

 だが、医師の証言により明らかとなった咬み切られた指。

 「久保真澄と城崎小百合に共通するその怪我が、この事件を解決する糸口になる」そう考えた優一郎は、真澄のマンションへと向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ