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指切り  作者: 直井 倖之進
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第四章 『警部・真中優一郞の推理』④

 駅の近くのパーキングに車を停めた二人は、雄介がアンクレットを購入した店へときていた。

「随分と年季が入っていますね」

 店舗を正面から眺めて、小山が言う。

「いいか? ここからは一般市民。ただの客だ」

 優一郎は、そっと小山に告げた。

 犯人がアンクレットから足が付くのを恐れてそれを持ち去ったのならば、この店の店員や知人が犯人であるという推理もできる。そこで、警察の身分を明かして話を聞くことは避けた方がよいだろうと彼は判断したのだ。

 気を引き締め、二人は店内へと入った。

「いらっしゃいませ」

 中年の女性店員が微笑み、会釈をする。だが、この店には不釣り合いな二人組であることに気づいたのか、すぐに怪訝そうな顔つきになった。

「やっぱり女物ばかりじゃないですか。一刻も早く探して、店を出ましょう」

 こういった店が苦手な小山は泣きそうな顔で優一郎に耳打ちすると、闘牛のような勢いで店内を物色し始めた。

 そして、あっと言う間に店の隅にそれを見つけた。

「ありましたよ。アンクレットって書いてありました」

「もう見つけたのか。随分と手際がいいな」

「早く店を出たい一心でした」

 小山は、アンクレットを優一郎に手渡した。

 それを持ち、優一郎は店員に話しかけた。

「珍しいですね、これ。和装にアンクレットなんて、売れないでしょう?」

 店員は、「随分失礼な物言いだ」と気を悪くしながらも、そんなことはおくびにも出さずに答えた。

「そうですね。着物は丈が長いので、足下のお洒落は気づいてもらえないことが多いですから。でも、昨日お買い求めいただいたお客様がいらしたんですよ」

「へぇ、どんな方です?」

「貴方様と同年代で、男性の方でした」

「これとまったく同じものを?」

「はい」

「昨日売れたのは、ひとつだけですか?」

「えぇ、そうです」

 その瞬間、優一郎の目が輝いた。

「これ、買います」

「はい? あ、えっと、……ありがとうございます」

 「変な客だ」そう思いつつも店員は、代金を受け取るとアンクレットを包み、優一郎に渡した。

「ありがとうございました」

 丁寧に頭を下げる店員に見送られ、二人は店をあとにした。


「被害者が買ったアンクレットはこれだ」

 駅近くのパーキングまで戻った優一郎は、声を弾ませた。

「はい。それと、何の警戒もなくそのことを教えてくれたのですから、あの店は今回の事件とは無関係だということも分かりました。次は、関係者の中から同じアンクレットを持っている者か、それを知っている者を探せばいいんですね」

 小山も興奮気味だ。

「あぁ、そのとおりだ。そいつが犯人だとは言えなくても、事件に関わりを持っていることは確実だからな」

「急ぎましょう! 先ず、誰のところに行きます?」

「遺体の第一発見者で婚約者の、城崎小百合だ」

「え? 彼女は容疑者ではないはずです」

 小山が困惑した顔つきになる。

 優一郎は言った。

「確かにそうだ。だが、今回の事件に関わりのある者で、着物を着るのは城崎小百合だけだ。それに、このアンクレットは、被害者が城崎小百合のために買った物だと考えて間違いない。そのことについて、彼女が何か知っている可能性もあるからな」

「了解しました」

 車に乗り込むと、二人は小百合の自宅へと向かった。


 城崎邸に小山の車が停まった。車から降りると、二人は門の前までやってきた。

「でかい家ですね」

 見たままの感想を小山が口にする。

「さぁ、行くぞ」

 優一郎がインタホンを押すと、程なく女性の声が聞こえた。

「マスコミの方たちですか? 今、取り込んでいまして、お話はできません」

 何事だろうか。口調から判断するに、かなり切羽詰まった様子だ。

 訪ねたのはひとりかも知れないのに、「マスコミの“方たち”」と言ったということは、室内から監視カメラで門の様子を見ているのだろう。そう考えた優一郎は、それを探した。

 門の左上部に小さな赤いランプが見えた。恐らく、監視カメラはあそこだ。

 優一郎は、カメラに向かって縦開きの警察手帳を提示した。

「県警本部の真中です。どうされたんですか?」

「け、警察の方?」

 女性の声色が変わった。

「どうぞ、入ってください」

 暗い返事とともに、大きな門がゆっくりと開いた。

 門構えを見た時から想像はしていたが、邸内の庭はそれ以上に広かった。玄関に向かうまでの石畳が、三十メートルは続いている。

「急ごう」

 優一郎の言葉を合図に、二人は玄関へと走り出した。

 石畳の半分をすぎた時、玄関の扉が開いて女性が姿を現した。小百合ではない。年齢や服装から、「多分、小百合の母親の雅子だろう」そう優一郎は判断した。

 女性も二人へと駆け寄ってくる。

 会話ができるほどまでに近づくと、優一郎はたずねた。

「城崎小百合さんのお母さんですか?」

「はい。城崎雅子です」

「何かあったんですか?」

「実は、つい五分ほど前に病院から連絡を受けたのですが、小百合が怪我を」

「え?」

 朝霧雄介に続いて、城崎小百合も襲われたのだろうか。優一郎は確かめずにはいられなかった。

「誰かに危害を加えられたのですか?」

「分からないんです。お医者様が聞いても、何があったのか話してくれないそうで」

「それで、小百合さんは、今どちらに?」

「総合病院です。私も、着替えなどを準備してから向かおうと」

「そうですか」

「雄介さんがあんなことになって、小百合は心底傷心していたんです。それなのに、今度は小百合まで……」

 そう言うと、雅子はその場に泣き崩れてしまった。これ以上、話を聞くのは無理なようだ。

「胸中、拝察いたします。我々警察官、一丸となって犯人検挙に全力を尽くします」

「お願い、……します」

 途切れながらもしっかりと伝えられた雅子の言葉に応えるように優一郎が深く頭を下げる。小山もそれに倣った。

 城崎邸を出た二人は、総合病院へと急行した。

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