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その五十一
モンブランの皇帝はこののち違法カードゲームでの悪行が明るみに出て失脚していた。
「え? おニャン子カードゲームって、べつに違法じゃないですよね?」
「軍師、新聞よく見てください。これほら、小さい〝ャ〟が抜けていて、そして〝ニ〟のところが伏せ字になってるでしょ」
「ああ、ホントだ」
つまりモンブランの皇帝は新聞の表記を引用すると「お○ン子カードゲーム」にからんだなにかで皇帝の座を追われたのである。
モンブラン皇帝による離間の計にはまっていたガトーショコラとピーチタルトの両皇帝はほどなく和解した。
ガトーショコラより肉の供給も再開してもらう。
しかし牛肉をみんなで味わうようになっても范礼一さんだけはどことなく淋しそうにしていた。恋人だった西施子さんがモンブラン帝国のスパイだったのだから、無理もないだろう。
ちなみに西施子さんスパイ説を最初にいいだしたのは、菊池さんである。
お甘粉の件で確信に至ったぼくは、菊池さんと相談したすえに「お焚き上げ引っ掛け大作戦」を敢行することにしたのだ。
ところで、やり手の藤吉郎さんは一週間以上もぶっつづけで家臣団たちと宴会をしている。全財産を使い切るつもりのようである。
これはピーチタルト帝国がしばらくすると滅亡してしまうからである。
失脚したモンブランの前皇帝はその腹いせに「虎Jシン&フビライチャン連合」という宇宙のあらくれものの軍団を雇ったのだ。
そのあらくれものの軍団がもうひと月もすると、強奪先からもどってきて、いよいよピーチタルトに奇襲を仕掛けてくる。
この情報を最初によこしてきたのは沼口隊長である。
隊長は船倉荘のおもてのベンチで〈出不精屋〉のキッチンカーを待っていたスーマリ氏に先の情報を伝えると、またぞろ仰向けにぶっ倒れてピクついた。
スーマリ氏より連絡を受けたぼくは、すぐ范礼一さんに報告する。しばらくすると、
「その情報は本当ですね」
とミニスターは裏を取ってきた。
ぼくは、いくらあらくれものといってもそんな三十人程度の騎馬隊くらいで国がやっつけられるはずがない、と最初は高をくくっていた。
しかしぼくの以前の要請を全面的に聞き入れていた范礼一さんは国防費のほぼすべてをマイケル・ジャクソンのスリラーダンスの稽古に費やしてしまっていたのだ。万事休すである。
いよいよ諦めたミニスターはやけに清々しくしていた。
「はまぐりっちの着ぐるみも、一回稼働したら、そのあと半年充電しないと使えないですしね」
「あのモビルスーツはどっちみち、152センチ以上の人は着られないし……」
「でもあとひと月は大丈夫です。おのおの好きなことをしてましょう。ね、軍師」
ぼくはK市にもどっていた。マコンドーレの古株幕臣の葬儀に出るためである。
その義理を済ませて船倉荘に帰った晩は、
「好きなことしておくか」
と中西さんと好きなことをし、翌朝も、
「好きなこと、しとくか」
と昨晩とおなじことをおこなった。
さすがにくたくたへろへろになってしまう。
ぼくは風呂に入ったのちにまたぞろうとうとしてしまった。うとうと中、夢もみる。
夢のなかでは、夢の世界にだけ存在する例の古書店にまたぞろ立ち寄っていた。
「好きなことするか」
このあいだのティナ・ウェイマスのヌード写真を鑑賞する。
「あれ?」
しかしその写真集は赤木さんがいつのまにか手に取っていた。夢だからである。
夢なので場所もKの森総合公園に変わる。
赤木さんは走りながら、いつものように近況をきいてきた。
ぼくはふと思いつく。
「今度の新作に出てきた〝虎Jシン&フビライチャン連合〟の弱点って、何ですか?」
「弱点かぁ……それはまだかんがえてなかったなぁ」
「たまには、ぼくのアイデアを採用してくださいよ」
赤木さんは走るのをやめて、ポケットからケータイを取り出した。
「どうぞ」
「虎Jシン氏はマイケル・ジャクソン恐怖症で、フビライチャンはピエロ恐怖症で、その軍団の騎馬隊長はマクドナルドのドナルドの恐怖症で、あと事務長みたいな野郎はドムドムバーガー恐怖症にしてくれませんか?」
スマホでメモを取っていた赤木さんは、この陳情をすんなり聞き入れてくれた。
その夢からひと月後、奇襲を仕掛けてきた虎Jシン&フビライチャン連合は、ピーチタルトの国民総出のスリラーダンスに衝撃を受ける。腰が抜けて誰も動けないほど、ビビッちゃったのである。
そんな連中にピーチタルトのほうからきんぺいばいの湯漬けを振る舞ってあげる。
あらくれものの連中は、
「ありがとう。ピーチタルトの人たちって、やさしいな……」
とお目目をうるうるさせていた。改心した連中は、范礼一さんが出した取引を受け入れる。
やがて連中はシュークリーム帝国とシューアイス帝国のいくさの仲裁をするために旅立って行った。めでたしめでたしである。
「パイドンさん、ひとみちゃんからメール来たんですよ。久しぶりに行きませんか? あの店」
「あんまり好きじゃないんですよ。ああいう店」
「でもひとみちゃんが『小柄な子、新しく入ったから、パイドンさんも誘って』って、送ってきてるんですよ」
「どれくらい小柄なんだろ?」
「一四七センチだって」
「一四七センチ……藤吉郎さん、ぼくお供します」
(完)




