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その三十一
ギフト用のすき焼きセットには作り方の説明書も入っていた。
ぼくはその手順に沿って、すき焼きをつくってあげる。
説明書に「2~3人前」と記されているのを見出したスーマリさんは、
「これ、ボクひとりじゃ食べきれないなぁ……大家さん、いっしょに食べませんか?」
と誘ってくれた。
「おいしそうだから、お言葉に甘えちゃおうかな」
ぼくは、ガスコンロからIHクッキングヒーターに鍋を移したのちに階下に降りて日本酒をもってくる。
先ほどまでエロ関連の出処進退について悩んでいたぼくは、コンピューター関係のお仕事をされているスーマリさんに、
「一種の機密文書をですね、確実に漏洩させない方法は……」
という感じでおききしてみた。
「いやあ、コンピューター関係といってもボクの場合、ファミリーコンピューター関係ですからね」
「ファミリーコンピューター?」
「ファミコンですよ。修理をやったり転売したり買い付けを頼まれたり、お客様はほとんど異国の方ですけどね。ゲームウォッチ知ってますか?」
「はい」
「あれもあつかってるんです。あと古くてめずらしい電化製品の修理もちょっとやってるかな――IT系とか、そういうのではぜんぜんないんです」
スーマリ邸の三部屋のうちの一部屋はなるほど確かにゲーム類の保管庫のような趣になっていた。
ぼくはざっとその部屋をのぞかせてもらったのちに、
「スーマリさん、あのう『ピーピーねえねの冒険島』っていうカセットもってませんか?」
とともかくきいてみる。
「あれは、すぐ出ちゃうんで在庫ないんですよ」
「そうですか……」
それでも裏技をもちいればスーパーマリオのカセットとファミスタ87のカセットで、ピーピーねえねの冒険島に相当するゲームをプレイすることはできるらしい。引き出しから資料のようなものを出してくると、
「あったあった。これだ」
とその裏技の手順をコピーしてくれた。互換機も先のカセット二つも貸してくれるという。
「はい、どうぞ」
「すみません、助かります。兄貴も持ってるかもしれないけど、ゲームのこととなると、やたら高飛車になるんですよ」
携帯が振動した。藤吉郎さんからのメールだった。
「すいません、ちょっとケータイ見ます」
「どうぞどうぞ」
「ふむふむ、この名曲なら知ってる」
おかげさまでこれからは〈うなぎ食堂〉でピーチパイを注文したのちにコシミハルの「シュガー・ミー」を一回うたえば、時空交換手の方があちらの国にお繋ぎしてくれるようである。
「だいぶ楽になるぞ」
ぼくはお礼のメールを返信した。




