第二十五話 雪原を紅く染めて
食糧の保管地点の北にある、なだらかな丘へ登る。
目を凝らすまでもなく、その先に雪煙を上げる巨大な影を捉えた。
「正面に三! あと二頭いるはずだ、左右を警戒しろ! 三頭は俺がやる! 通信圏内から出るなよ!」
「はい!」
「ナトラ、大型と一対一になったら倒そうと思うな。俺かルフスを待て」
「はい!」
レグナは真っ直ぐにこちらへ向かってくる三頭を睨む。
報告通り、大型の走竜だ。両腕に外骨格を備えた厄介な種だった。
先頭を走る真ん中の竜に連弩の照準を合わせる。
まだ射程の外だ。
引きつけて、確実に仕留める。
先頭の竜が射程に入る正にその直前、尾を振り、雪を巻き上げて停止した。
高々と巻き上げられた雪が、日光を反射しながら落下する。
「なっ……!」
完全に予想外の動きにレグナは虚を突かれる。
視線を振ると、両翼の竜は弧を描く軌道でこちらへ全速力で向かって来ていた。
即座に狙いを切り替え、右の竜へ向けて矢を放つ。
しかしその矢は僅かに軌道を変えながら迫る竜の右脇を掠めた。
射線を修正し、二射、三射目がその肩を捉え、再装填してからの四射目は右腕の外骨格に防がれた。
矢は鱗を穿ち、肉を貫いたが竜を止めるには至らない。
竜は純白の雪原に赤々と血痕を残しながら咆哮を上げる。
このまま左右から接近され、そこへ中央で立ち止まった個体も加わるとこの騎体の武装では捌ききれない。
レグナは即座に、操縦桿の裏に秘匿された引き鉄を引いた。
騎体の内部骨格が変形し、脚部は逆関節へ、さらに背に格納された尾を展開する。
右翼の竜に、さらに矢を放つ。
二本の矢は正確にその脚を射抜き、さしもの巨竜もその速度の大半を喪失した。
すかさず、レグナは騎体を反転させて尾を振る。
ヒュッ。
尾は空気を切り裂き、背後から迫っていた左翼の竜の頭部を鞭の如く薙いだ。
竜はもんどり打って地面に叩きつけられ、すかさずその背に追撃の矢を放つ。
「きゃあッ!!」
「ナトラ!!」
後方に目をやると、ナトラとルフスがそれぞれ竜と交戦している。
最初から五頭でレグナたちを包囲する動きをしていたということだ。
明らかに、ただの走竜の動きではない。
「こっちはなんとかするので先生は正面の敵を!!」
小型騎で、——しかも新人が、見上げるほど体格差のある大型竜と一対一で近接戦闘を演じるなど、本来なら無謀でしかない。
だが、ナトラは渓谷で大型走竜と戦えていた。
今はあれがまぐれではなかったことを祈る他ない。
レグナの騎体へ向け、右翼の竜が外骨格で固められた右腕を振るう。
巨岩をぶつけられたような衝撃で視界が揺れる。
咄嗟に左腕でそれを防ぐが、装甲が歪み、騎体がバランスを崩した。
「くっ……! 仕留めようなどと思うな、時間を稼げ! ルフス! そいつを仕留めたらナトラを頼む!」
「あいよ!」
崩れたバランスに任せて回転し、振り下ろした尾が竜の頭を地面へと叩きつけた。
右腕に折り畳まれたブレードを展開する。
泡を吹いて動かなくなった竜に向けて、ブレードを突き出した——次の瞬間、凄まじい衝撃を受けてレグナの騎体は後方へ吹き飛ばされた。
「……いつの間にッ!!」
尾で姿勢を制御し、倒れることなく着地する。
目の前に立つのは、中央の竜だった。
ガアァァァァア!!
咆哮が大気を震わせる。それを聞いた両翼の竜が雪を踏み締めて立ち上がる。
「やはりお前が群れの長か」
逆関節の脚が地を蹴り、ブレードで首を狙う。
竜はそれを皮一枚で躱すと、大きく口を開いた。
人の腕ほどもある牙が並ぶそれを、辛うじて左腕で防ぐ。
牙が装甲を貫通し、人工筋肉に到達するその直前、
『左腕装甲をパージします』
バシュッ。
マイアの声とほぼ同時に装甲が切り離され、その衝撃で竜がよろめいた。
「いい仕事だ」
竜穿杭は装甲と一緒に切り離されてしまった。
このサイズの竜を仕留められる武器はもう、ブレードしかない。
その口を目掛けてブレードを突き出す。
ふと、竜の背に視線が吸い込まれた。
鞍のような物が取り付けられ、そこに——人間が乗っている。
信じがたい光景にブレードの刃先が僅かに鈍る。
ガキィン!!
火花と、そして金属がぶつかり合う音が雪原に響いた。
ブレードを受け止めたのは、見慣れぬ竜騎。
そしてその騎体は、レグナのそれと同じく、尾と、逆関節の脚を持っていた。




