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39.ムラザメは重ねる

村雨の前世は、ありきたりな普通のニートでした。

(朝川 縁視点)


ハァ……ハァ……ハァ……


うおぉ……


さっき坊っちゃんとヤった時の余韻が……


痛いけど気持ち良さの余韻が……


……って、そんな事を考えてる場合じゃありません!


「坊っちゃんが……私とヤったら何故か覚醒しちゃいマッシた……どうか……今後の……さ……く……を……」


私はスマートウォッチを通じて陽吉様へとメールを送りますが、返事がありません。


……さては、寝てるかゲームしてるかのどちらかですね?


「坊っちゃんが……ヤバいデッス……あれを野放しにしては……危険デッス……」


私は色々あって動けません。


……坊っちゃん、頼みますから変な事だけはしないでくださいよ……



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

(源徳 村雨視点)


影奇の目……


覚醒前は逃げるので精一杯だったから気付かなかったが、俺はあの全てを諦め投げやりになった様な虚無染みた目を見た事があった……


……あんな記憶、思い出したくもなかったがな……


「なるほど……あいつは、前世の俺(・・・・)と同じなんだな……」


俺は誰にも聞こえねぇ様な小さな声で、そう呟いていた。


……前世の俺……


何1つ上手く出来ず、ニートになって親の金で生きていた恥でしかねぇ人生……


最期は日頃の不摂生が原因で呆気なく病死した、救い様がねぇ人間……


……そいつを鏡で見た時にしてた目と、影奇の目が何故か同じに感じた。


「影奇……お前が何を諦めて投げやりになってるのかなんて、俺には分からねぇ……けどなぁ、その目を見ちまったら、俺は……」


……俺は、前世なんて思い出したくもなかった。


あんな奴が俺だなんて、認めたくなかった。


……俺が無能で、現在進行形で飼い殺しにされてるから尚更だ……


前世が、俺の将来と重なる気がして……嫌だった。


「シュゥゥゥゥ……」


駆け抜ける俺を見て、影奇は静かに腕を伸ばそうとしていた。


そうするのは分かっていた。


どうも、前へ動くのすらマトモに出来なくなっちまってるらしい。


「ははは!……影奇、俺の言葉が通じるかは分からんが、これだけは言わせてくれ!……お前は、何を諦めた?」


「シュッ!?」


「お、ちゃんと通じたらしいな!……俺には、お前の諦めちまったものは分からねぇ……でも、何かを諦めて投げやりになってる奴の気持ちは分かる!」


「シュ……」


惨めだよなぁ……


虚しいよなぁ……


死にたく、なるよなぁ……


なのに、いざ死のうとすると怖いんだよなぁ……


「窮奇の影として生まれたお前が、どんな悩みを抱えて絶望したかなんて想像もつかねぇ。……それでも死ねずに生き続けるなら、思いっきり楽しまねぇとやってられねぇだろ?」


「シュゥゥ……」


「ああ、死ぬのは怖いよなぁ……うんうん、俺もその気持ちはよく分かる……そうだ、どうせ生きるなら俺と一緒にこのクソったれな世界を楽しんでみるとかどうだ?」


「シュッ!?」


分かってる。


これはゲームだ。


ただ、このゲームは色々とリアルだ。


……NPCやモンスターの感情すらもリアルなものだったとしてもおかしくねぇ。


そんで、そんな奴が相手ならやり様はある。


「ははははははは!……影奇、お前はこの先の竜生をどう生きてぇ!……この先も死んだ様な目で窮奇に仕えるか、俺の相棒としてクソったれな世界を楽しむか!」


こうして、甘い言葉で勧誘してやりゃ良い。


勿論、普通ならこんな初歩的な手にかかる阿呆は居ねぇだろうよ。


……だが、今回の相手は死んだ様な虚無染みた目をしている奴だ。


案外行けるかもしれねぇ。


「シュゥゥ……シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」


「お、鎌を向けるか……ははは!……まだ決断は出来ねぇみてぇだな!」


影奇は俺へ鎌を向けたが、その手は震えていた。


……先程までの無感情を保てなくなってやがる。


「シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ~!」


ーぐにょ~ん……ブンブンブンッ!


「腕を伸ばしたって、遅いもんは遅い!……今の俺を狩るにはまだ足りねぇぞ!」


ーひょいっ!ひょいっ!ひょいっ!


「シュッ……ガフッ!ガフッ!」


ーベシャッ!……ポタ……ポタ……


影奇は俺を狩るのに執着し過ぎて、自分の今の状態を客観視出来なくなってやがる。


少なくとも今の影奇は俺を狩ろうにも遅くて話にならねぇし、何より激しく吐血するレベルで体に毒が回っている程には劣勢だ。


「おいおい、まだ窮奇へ義理立てすんのか?……それともゲームの(エネミー)としての意地か?」


「……ガフッ!ガフッ!……シュゥゥゥゥ!」


「何言ってんのか分からねぇが、やる気満々なのは分かった。……俺だって、そろそろ逃げじゃなくて攻勢に出ねぇと駄目だしな……」


「シュゥ……」


……恐らく、影奇はもうそう長くねぇ。


だったら、やる事は1つだけ。


「……介錯はつけてやるよ」


「シュゥゥゥゥゥゥ……」


俺はダガーナイフを構え、影奇も両手の鎌を構えた。


そして、直後に……


ーダンッ!


……俺達は同時に踏み出した。


「はははははははは!」


「シュゥゥゥゥゥゥ!」


ーぐにょ~ん……ブンッ!ブンブンッ!


最初に仕掛けて来たのは影奇だった。


……奴は腕を伸ばし、鎌を振るって来たのだ。


だがなぁ……


「ははははははは!……遅い遅い遅ぉぉぉぉぉぉい!」


……今の俺には、その攻撃は遅く見える。


「ガフッ!……シュゥゥゥゥ!」


「……つっても、その覚悟までは嘲笑わねぇ!」


ーひょいっ!ひょいっ!ひょいっ!


俺は振られる腕を踏み台にして跳躍し、影奇の顔面スレスレまで近付いた。


「シュッ……」


「よう、影奇……ったく、最初に比べれば良い目になったじゃねぇか!」


……ここまで近付いて見えた影奇の目は、さっきまでの虚無染みた目じゃなくなっていた。


まだ見ぬ希望に目を輝かせ、心の中で燃え盛る"何か"を見つけた……そんな目をしていたのだ。


「シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」


ーガバッ!


「……噛もうとしたって無駄だ。……俺はもう、お前の上に居る!」


「シュァッ!?」


影奇は最後の足掻きか噛み付こうとしたが、この角度じゃ無理がある。


仮に首を伸ばしても、俺の方が速い。


「影奇……もし運が良ければ、俺と一緒に行けるかもなぁ……ま、精々祈ってろ!」


ーブスッ!


「シュガッ……」


……そうして俺は影奇の眉間へと狙いを定め、ダガーナイフを勢い良く突き立てた。


すると脳まで届いたのか、影奇は断末魔らしき鳴き声を上げて動きを止めた。


「影奇……これで終わりだ」


「シュッ……ガッ……アッ……」


ードシィィィィィン!


「………え、まさか今の1発でトドメ刺せちゃったんでござるか!?」


動きを止めた影奇は本当の断末魔を上げた後、ゆっくりと倒れた。


ヘビイチゴは驚いているが、流石に武器で脳天をぶっ刺されたら残りHPなんて関係なく死ぬのはリアルだな……


と、そんな事を考えていると……


ードロッ……


「は?……影奇の死骸が溶けて、影みてぇになってるだと?」


「あ、影奇から溶けた影が窮奇の方にすごい速さで向かってるでござるよ!」


はぁ!?


おい、報酬寄越せやこの野郎!


ってか、これマズくねぇか?


「あれ?……これ窮奇完全体化ルートか?……もしかして俺、何かやっちゃいましたか?」


「……どうでござろうか……案外、弱体化ルートかもしれないでござるよ?」


基本的にラスボスから分かれていた分身体が合体する事例として、ラスボス完全体化ルートか、弱体化ルートの2つがある。


……俺としちゃ、後者であって欲しいが……


「……よし、追いかけるぞ!」


「あ、待つでござるよ~!」


「「「「「「どうしよう……」」」」」」


途方に暮れるプレイヤー達を放置し、俺とヘビイチゴは影を追った。


……この覚醒がいつまで保つか分からねぇ以上、早めに勝負を決してぇんだがな……

ご読了ありがとうございます。


影奇が諦めたものについてはだいぶ先の開示になります。


気が向いたらいいね、ブックマーク登録してくれるとありがたいですが、あくまでも気が向いたらで大丈夫です。


後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。

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