29.ムラザメは逃げる
今日の更新はここまで!
(源徳 村雨視点)
レイドイベントが開始してから、どれだけの時間が経っただろうか。
少なくとも、まだ1日すら経ってない……否、真夜中すら訪れていない筈だ。
だってのに……
ーピロリン♪
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
[猛攻の将軍竜 底岩が討伐されました]
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「チッ、もう2匹目かよ……」
……ああ、俺は何をしてるんだろうな……
レイドボスがもう2匹も討伐されたってのに、俺は……
「シュゥゥゥゥゥ……」
ーブンッ!スパッ!
「あっ……」
……また、だ。
また死んでリスポーンしちまった……
どうしてだ?
どうして、俺は……
「……お、またムラザメはんはこっぴどく殺られたっぽいな~……で、大丈夫そうかいな?」
「あっ……ちょっと、休ませてくれ……」
そうして舞い戻ったリスポーン先の安全地帯で、賽子丁子さんから話しかけられた俺は……ふと休みたいと口にしていた。
「さいか……ウチとしては、すぐ戻って来てくれるとエエんやけどな~……ま、降りたって構へんよ」
「ああ、悪いな……」
もう無理だ。
何時間、暗殺竜とやらから逃げては殺されてリスポーンして、また逃げては殺されてリスポーンしてを繰り返したか……
俺自身、どれだけ繰り返したか分からなくなっちまってる。
それこそ廃ゲーマーなら喜んでこのループを繰り返えすんだろうが……俺は心が折れた。
「……あ、せやせや……もう通知見たから知っとる筈やけど、道化竜に続いて将軍竜も落ちたさかい、そこまで急ぐ必要もあらへんで?」
「そ、そうか……」
……急ぐ必要もない。
その言葉は、俺に暗殺竜の討伐は無理だって言われてるも同じだった。
「ほな、ウチがこれからする【丁半勝負】は1人分でエエんやな?」
「そうなるか……んじゃ、取り敢えず1時間後ぐらいに戻るわ……」
「……何や、こんなんに巻き込んでごめんやで?」
「別に、気にしてねぇよ……」
そんな会話を最後に、俺は逃げる様にゲームからログアウトした。
「あれ?……坊っちゃん、もうログアウトして来たんデッスね……ってまさか、道化竜や将軍竜に続いて暗殺竜まで落ちたとか!?」
「……いいや、俺が逃げて来ただけだ……」
当然ながら、ログアウトした先の現実ではエンムスビこと縁が居た。
大方、将軍竜を倒してすぐにログアウトしたってところだろう。
「逃げて……まあ、気持ちは分かりマッスよ」
「……いやほんと、あんなん嫌になるに決まってんだろ……」
「薦めた手前、申し訳なさすら感じマッスね……」
「反省しろよ、マジで……」
……何故だろうな。
縁も、何処かぎこちない。
けれど、俺にそれを指摘する余裕もなかった。
「あ~……このまま夕食、食べちゃいマッスか?……とか言いつつ、今から作るんデッスけど……」
「……そうだな……戻るのは1時間後って言って来たから食べて行くか……」
「そうデッスか!……じゃあ気合い入れてカレーを作っちゃいマッス!」
「……頼む……」
……カレーか……
良いな、美味そうだ……
「そういや、坊っちゃんが割り振られた暗殺竜の戦場はどんな感じデッシたか?……私達の所は、権座右衛門さんっていうプレイヤーが大活躍してて~」
「ふ~ん、そうか……こっちはひたすら俺が逃げ続けては殺されてリスポーンしてを繰り返しつつ、肝心の暗殺竜は他プレイヤーの攻撃を避け続けるとかいう地獄絵図だが?……何なら俺、無駄死にしかしてねぇぞ?」
「あ、すぅ~……でもでも、そのまま続けてたらチリツモでダメージも蓄積されていく筈デッスよ?」
「当たってねぇのにどうやって積むんだよ!」
「それはそうデッスね……」
暗殺竜は素早いが故に攻撃が当たらねぇ。
他プレイヤー達が集中砲火を食らわせても、攻撃の隙間を針で縫うが如く避けやがる。
……あの素早さと縦横無尽な動きが可能な肉体をどうにかしねぇ限り、攻略は絶望的だな。
「そう考えると、同じレイドボスの道化竜と将軍竜はよく勝てたな……」
「道化竜はこれから調べマッスけど、将軍竜は腰辺りの外皮が他より脆くなってたんで、そこを攻撃特化のプレイヤーに何時間も削って貰って外皮を割りマッシた!」
「……壮絶だな……」
何時間も削り続けるとか、あまりにも正気の沙汰じゃねぇな……
やっぱ、あんなクソゲーの上澄みは正気ではやってられねぇんだろうか……
「んで、無防備になったところをプレイヤーの皆さんで集団リンチにしマッシて……」
「ストップ!……どうやって倒したかは分かったからこの話は終わりにしよう……どうせ暗殺竜じゃ使えねぇ方法だ」
「そこなんデッスよね~」
外皮を割って集団リンチ……
暗殺竜の強みはそこじゃねぇし、集団リンチも意味を成してねぇ。
足止めをしようと罠を試みたプレイヤーも居たものの、そもそも暗殺竜は罠を巧妙に避けやがる。
逆に場所を聞かされてた筈の俺が、暗殺竜によって罠の方へと誘導された事すらあった。
……どうして気付きやがる?
「ハァ……こうしてる間に誰か倒しててくれねぇもんかな……」
「だと良いんデッスけどね~……」
俺達はそんな事を駄弁りながら、夕食の準備に取りかかった。
……ゲーム内の情報から、目を逸らす様に……
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(俯瞰視点)
ムラザメがログアウトした直後……
「でゅふふふふ……戻って来ないところを見るに、あのプレイヤーも心が折れたんでござるかね~?」
突然、暗殺竜が支配する戦場に1人のプレイヤーが降り立った。
そのプレイヤーは白無垢と角隠しを着用し、腰には太刀を装備していた。
そして、そのプレイヤーを見た者達が声を上げ始める。
「あ、あいつは……」
「ヘビイチゴ!?」
「どうして、このゲームにおける"三強"の1人がこんな所に……」
降り立ったプレイヤーことヘビイチゴは、〘厄災のアルケニカ〙において"三強"と呼ばれるプレイヤーの1人であった。
「マジかよ……アーサードやヴァルメリドと並んで最強に最も近いとか言われてるヘビイチゴが来てくれるとか……これ勝ち確だろ!」
「ヌルゲー来たぁぁぁぁぁぁぁ!」
「待て、それじゃあ素材が手に入らねぇぞ!」
「どうせ暗殺竜に攻撃当てるのなんか無理な話なんだから、きっぱり諦めて良いだろうが!」
このゲームで最も最強に近いと言われたプレイヤーの1人であるヘビイチゴの登場に、他のプレイヤー達は色めき立つ。
「では……すぐに終わらせてあげるでござる♪」
ースッ……チャキン……
「シュゥゥゥゥゥ……」
そうして太刀を抜くヘビイチゴと、両腕の鎌を構える影鰐。
この時、彼女自身を含め誰もがヘビイチゴの勝利を確信していた。
……そうして皆が固唾を呑んで見守る中、勝負は一瞬で片付く事となる。
「ふっ……では、いざ尋常に参るでござる!」
「シュゥッ……」
ーブンッ!……スパッ!
たった一撃。
それで、片方の首は胴体と泣き別れになったのだ。
「……ほへ?」
ードサッ……
「「「「「「「「「「は?」」」」」」」」」」
もっとも、泣き別れになった片方とはヘビイチゴの事だったが。
というのも、ヘビイチゴの太刀は空を斬り、逆に影鰐の鎌がヘビイチゴの首を斬ったからだ。
これには、その場のプレイヤー全員が驚きのあまり固まった。
しかし、ヘビイチゴも斬られて終わりではなかった。
「あ~、はいはい負けは負け……けど、せめて置き土産は遺しておくでござるよ……【偽装開示】でござる!」
ーピキ~ン!
生首状態で消えかかっているヘビイチゴの目が光り、隠密の暗殺竜 影鰐を照らす。
すると……
ーピロリン♪
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
[隠密の暗殺竜 影鰐の偽装が開示されました]
[ワールドエンド・ユニークモンスターと遭遇]
個体名:隻影の分霊竜 影奇
種族名:エンシェントドラゴン変異個体の影
個体数:1匹
レベル:不明
備考:窮奇に仕える4重臣の一角であり、窮奇が魂を分けた自身の影そのもの。
静かに影を泳ぐ、北の厄災の片割れ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「「「「「「「………ハァ!?」」」」」」」
ヘビイチゴが遺した置き土産によって看破されたのは、"隠密の暗殺竜 影鰐"の驚くべき正体……
……それは"悪逆の暴君竜 窮奇"の影そのものであり、北の厄災の片割れという最悪な真実であった。
「シュゥゥゥゥゥ……」
「え、あんなの勝てるのか?」
「窮奇の片割れ!?」
「……む、無理だ……」
……この時点で、戦線は決壊した。
「シュゥゥゥゥゥ……」
「「「「「「「「「ひぃっ!?」」」」」」」」」
後に残ったのは、一方的な蹂躙のみだった……
ご読了ありがとうございます。
ヘビイチゴが発動したユニークスキルである【偽装開示】の効果は、看破した偽装の下の真実を全プレイヤー&全NPCに開示するという破格のものです。
気が向いたらいいね、ブックマーク登録してくれるとありがたいですが、あくまでも気が向いたらで大丈夫です。
後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。




