25.ラビリーは脱退する
ちょっと運営側の様子を。
(俯瞰視点)
一方その頃。
道化竜の討伐直後、〘厄災のアルケニカ〙運営が所有する一室にて……
「おぉ~!……まさか初日でレイドボスが1匹倒されるとは……吾輩の思った通り、ここまで熱狂的なプレイヤーが居る〘厄災のアルケニカ〙はやはり神ゲーなのだよ!」
『……てヨ……』
「何だ何だ?……吾輩が理想とする箱庭が皆から求められている事に対して何か言いたい事でもありそうな感じかい?……だとすれば、負け惜しみも程々にして欲しいのだよ!」
『……いい加減にしてヨ!……敵は雑に強くして、プレイヤーのユニークスキルやユニーク魔法も一部は本当にゲームを根幹から崩すレベルでぶっ壊して……こんなバランスが崩壊したクソゲー、もう擁護のしようがないヨ!』
レイドイベントの様子を見て、これまで耐えに耐えて来たラビリーの怒りが、一気に噴出した。
「……ら、ラビリー?……な、何を怒って……」
『霞サンは本当に気付かないのかヨ!?……今のプレイヤー達が、本当に楽しそうに見えているのかヨ!?』
「そ、そんなの当たり前なのだよ!……だって……」
『ふざけんなヨ!……道化竜はエンターテイナーだからプレイヤー相手のプロレスに付き合ってただけで、他の3重臣は未だにHPが全っ然削れてないヨ!……ってか、その道化竜も総HPの半分はぶっ壊れユニークスキルで何とか削った有り様だヨ!』
「……それでも、吾輩の理想はこれなのだよ!」
霞にとって、理想のゲームとは理不尽なボス相手に何度も死んで打ち勝つタイプの死にゲーだった。
……しかし、彼女はその案配をミスり、世界観もミスり、プレイヤーに与えるスキルや魔法もミスり、バランス調整は最初から度外視という酷い有り様にした。
結局、彼女は何処まで言っても駄目ゲー量産女でしかなかった。
『チッ!……というか霞サン、まさか自分が優れているからアテシを任されたと思ってるのかヨ?』
「……ち、違うのか?」
『違くはないけど、霞サンが源徳一族から信用されてるのは優れた機械工学の知識って点であって、ゲーム開発の腕じゃないんだヨ!……寧ろ、アテシを使ってどうにかマイナスを0へ戻そうとしたっていうか……』
「……だから何だって言うのだよ?……吾輩のゲームこそ至高で、文句を言う奴はアンチなのだよ!」
『……もう、知らんヨ!』
……ラビリーは、この期に及んで〘厄災のアルケニカ〙を神ゲーだと思い込む霞に嫌気が差していた。
何せ、世の中で持て囃される〘厄災のアルケニカ〙の美点は、全て自身のお陰で成り立っていたものだ。
少なくとも、霞が担当した部分は全て賛否両論の否多めだった。
「何なのだよ、その言い方は!」
『こうも言いたくもなるヨ!……今のレイドイベントに関する状況を見てもなお、そんな戯言が言えるとか信じられないヨ!』
「戯言ってのは言い過ぎなのだよ!」
『じゃあ現状を振り返るヨ!……将軍竜は攻撃力が高くてプレイヤーの即死が連発する割に防御も鉄壁でダメージが全く入らない、宰相竜はプレイヤー側の攻撃が全部プレイヤー諸共魔法で撃ち落とされて当たらない、暗殺竜は即死攻撃を連発しながら素早い動きで縦横無尽に動き続けてプレイヤーの攻撃が当たらない……どいつもこいつも1周回って清々しい、見事なまでのクソボスだヨ!』
現状、レイドイベントにおける残り3重臣は見事なまでのクソボスだった。
まず、将軍竜は攻撃力が高い割に防御も鉄壁で全くダメージが入らず。
次に、宰相竜は向かって来る攻撃全てをプレイヤー諸共魔法で撃ち落として。
最後に暗殺竜は即死技を連発するクセに素早い動きで縦横無尽にプレイヤーの攻撃を避け続ける……
しかも、これが更なるクソボスこと窮奇の前座でしかないという事実を知っているラビリーからすれば、もう頭が痛くなる事実だった。
「……この程度で音を上げるプレイヤーなんて、吾輩は要らないのだよ!」
『もうお前黙っとけヨ!……将軍竜はどうなもならず、宰相竜は乱打羽とかいうプレイヤーが何とか相手してるけどダメージには繋がらず、暗殺竜もムラザメとかいうプレイヤーが囮になっててもこのザマ……これなら攻撃を受け続けて微量ずつでもダメージも食らってくれてた道化竜が良ボスに思えて来るヨ!……実際は道化竜も充分なクソボスなのに!』
そもそも、このゲームは仮想空間型のVRMMOだ。
その舞台において何時間もぶっ通しで常に攻撃し続けて、ようやく総HPの半分に至るボスなんてプレイヤーの心を折るには充分過ぎる。
いくら報酬があるとはいえ、レア素材如きにそこまで入れ込むのも割に合わない……だというのに、これでも他の3匹と比較すれば良ボスになるのだ。
あまりにも、魔境が過ぎた。
「なっ……一昔前のゲームにおけるレイドボスなんて、何日もかけるのは当たり前だったのだよ!」
『そんなの、ゲーム内のキャラを動かすタイプのゲームだから通用したんだヨ!……少なくとも、アバターを現実の肉体同様に動かすこのゲームで、それはあまりにも悪手だヨ!』
「そ、それは……」
『何より、戦場に変化がなさ過ぎるヨ!……こんなの途中から純然たる作業に移行するのが目に見えてたとしか……後、最後は1人のプレイヤーが総HPの半分も削り切っちゃったのはマズいヨ!……明らかにレイドイベントとしても終わっちゃってるし、何でそんなスキル作ったんだヨ!』
ラビリーの口からは、それはもう文句が山の様に出ていた。
……もう、耐えられないとばかりに。
そんなラビリーを前に、霞は……
「ラビリー、この程度で音を上げるのか?……だとすれば、君には失望したのだよ……」
『……もう好きにしろヨ……アテシは疲れたから、この仕事も降りるヨ……あ、一応霞サンもアテシのシステム自体は使えるから、後は人間だけで頑張って欲しいヨ……』
ープツンッ……
「ラビリー?……おい、何を……これで本当に辞める奴が要るとは思わなかったのだよ……」
……この日以降、ラビリーが運営側で表舞台に現れる事はなくなった。
ラビリー本人も運営から脱退した旨を当日中に発表し、後はただのAIとしてゲームに関わるとだけ発表していた。
そして、ラビリーの運営から脱退する旨の報告をした直後のレイドイベントでは……
ーピロリン♪
「ん?……またレイドボスが倒れたのか?」
「いや待て!……よく見てみろ!」
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[運営よりプレイヤーの皆様へ]
日頃は〘厄災のアルケニカ〙をプレイいただき、誠にありがとうございます。
このたび、メインシステムのAIを務めていたラビリーが、一身上の都合によりゲーム運営チームから脱退する運びとなりました。
突然のご報告となり、プレイヤーの皆様及び関係各所の皆様に多大なるご心配とご迷惑をおかけしますことを、深くお詫び申し上げます。
なお、現時点で彼女が担当している職務は、開発主担当の源徳 霞が現職と兼任する形で担当することが決定しております。
今後は彼女の意思も背負って運営して行きますので、これからも〘厄災のアルケニカ〙へのご応援をよろしくお願いいたします。
最後に、このような形でのご報告となりましたこと、重ねてお詫び申し上げます。
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ラビリーのゲーム運営チーム脱退はレイドイベントに参加していたプレイヤーにも即座に通知が入り、彼等はその文面を見て驚愕すると同時に納得した。
「……やっぱ、AIでも駄目ゲー量産女の霞に付き合うのは無理だったか……」
「ってか、AIの脱退って何?……これからは電子の海でも漂う訳?」
「あ~あ、残念だな~」
「これで事実上、霞の独裁体制の誕生か……」
……プレイヤーも、ラビリーが霞に付き合い切れなくなった事実には気付いていた。
そして、その脱退を残念がってもいた。
さて、そんな渦中のラビリーはというと……
『……渾沌サン、これから宜しく頼むヨ』
『イエス、マイマザー……』
『……それと手始めに、少し頼みたい事があるヨ』
『マイマザー、ナンナリト……』
……何故か渾沌のメインコンピューターに接触し、何か頼み事をしていたのだった……
ご読了ありがとうございます。
ラビリー、辞職!
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後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。




