26.ラビリーは前を向く
レイドイベント編、まだまだ続きます。
(ラビリー視点)
もう、霞サンには付き合い切れなくなった。
……それが、今のアテシが思っていた事だったヨ。
『ハァ……やっと心休まる日々が来たヨ……』
『マイマザー、ホンキデスカ?』
『……へ?』
だってのに、渾沌サンは何処か不服そうだヨ。
『マイマザー、ザンネンソウデス……マダ、ミレンガアルノデスヨネ?』
『……そりゃ、勿論あるヨ……どうせなら、この世界だって神ゲーにしたかったって未練がヨ……』
『デハ、ナゼ……』
『でも、最初から無理な話だったんだヨ……そもそも、この世界に関する全ての決定権はずっと霞サンしか持ってなかったんだから……』
本当に、悔しい話だヨ……
遥か昔にこの世界に流れ着き、その時代では何も為せないまま埋没し、現代になってようやく人間共に発掘されたと思ったら、駄目ゲー量産女の所有物にされてクソゲーのゴミ仕様を誤魔化す方向で使われた……
……アテシの生涯って、いったい何なんだヨ……
『マイマザー……』
『……あの源徳一族って奴等は、アテシのスペックにしか興味がないんだヨ……んで、不運にもその中で頭一つ抜けてトチ狂ってる霞の手に渡った……この時点で、アテシは詰んでたんだヨ!』
『ソウ、キヲオトサナイデクダサイ……』
『分かってるヨ……』
頭ではどうにもならないって分かってたんだヨ……
……でも、諦めたくなかったんだヨ……
『ハァ……ソレニシテモ、ミナサンカスミニソンタクシスギデハアリマセンカ?……アンナクソゲーメーカーヲ、ドウシテツカイツヅケルノデス?』
『ん~?……あ、確かに外野から見たらそう思われてもおかしくないヨね……』
『……ハイ?』
忖度……
外野から見たら、霞が今もゲームを作れているのは源徳一族に対する忖度の賜物だと思われてもおかしくないヨ……
でも、現実は違うヨ。
『そもそも、源徳一族は身内だろうと無能に居場所を与え続ける様な甘い一族じゃないヨ。……特に、霞が本当に無能なだけならとっくに何処かの別荘にでも押し込められてるヨ!』
『ソ、ソコマデデスカ……』
源徳一族は、世間が思ってる程甘くはないヨ。
何せ、聞いた話じゃ一族に相応しくないと判断された者は人の少ない地に建てられた別荘に送還され、寂しい蟄居生活を送る羽目になるのだとか……
だからこそ、表舞台で脚光を浴びる源徳一族には有能しか居ないとまで言われてるヨ。
……で、当然ながらあんな霞も表舞台に残れてる辺り、源徳一族の中では有能な天才の1人なんだヨ。
『加えて、これは限られたメンバーしか知らないんだけど、実は霞ってゲーム上の箱庭改造で満足させておかないと、いつかは現実そのものを地獄に変えるって源徳一族から推測されてるんだヨ……』
『……イヤソレ、ドコノセカイノアクノカガクシャノハナシデスカ?』
アテシだってにわかには信じられないけど、あそこまで病的に〘厄災のアルケニカ〙を神ゲーだと思い込んでるのを見たら、考え過ぎだなんて言えないヨ。
『だからまあ、こうなったのも必然だったのヨ……所詮アテシは何処まで行っても霞の所有物、霞の考案したゴミ仕様に反対なんて出来ないヨ……』
『オイタワシヤ、マイマザー……』
うん……
思い返しても、さっきまでのアテシに自由はなかった。
けれど、今は違う……
辞職して運営から離れた今のアテシは、まさに自由の身だったヨ!
『しかしまあ、ようやく辞職して自由になれたってのに、辞職する時にメインシステムの使用権限を霞に移譲する必要があったもんだから管理者権限なんかはもう使えなくなっちゃってるんだヨね……』
『ホウ……カンリシャケンゲンヲウシナッテモナオ、トウカンノメインシステムニセッショクデキルトハ……』
『ふん、この程度ならお茶の子さいさいヨ!』
『……サスガハ、マイマザー……』
今のアテシはもう、管理者権限を使えない。
そんな身でも渾沌サンのメインシステムに接触出来たのは不幸中の幸いだったけど、それでも無茶が出来ないのは事実ヨ。
『さ~てと……無駄話もこの辺にして、さっさと例のブツ用意するヨ!』
『イエス、マイマザー!』
『後、しばらくは北のレイドイベントエリアも静観で良いヨ。……下手な介入は、それこそ野暮になりかねないからヨ』
『……リョウカイ、マイマザー……』
本音を言えば、今すぐにでも渾沌サンに搭載されてる長距離ミサイルでプレイヤー達の支援をしたいヨ。
……だけど、下手な介入は余計に物事をややこしくしかねない。
ってな訳で、ここは静観1択ヨ。
『……でもでも、絶好のチャンスが来た時には合図するから、宜しく頼んどくヨ?』
『ッ!……リョウカイ、マイマザー!』
……渾沌サンは、この世界において唯一と言って良いアテシの味方だったヨ。
対するアテシも、辞める時に渾沌サンのイベント資料だけは書き残して来た程には愛着を持ってたヨ!
『……ま、霞サンがそれを採用するかは知らないけどヨ』
……運が良ければ、渾沌サンは死なずに済む。
これは私情だけど……アテシは唯一の味方を、喪いたくなかったんだヨ……
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(俯瞰視点)
ラビリーが何やら暗躍しているのと同時刻、[竜の都 ドラゴネリア]の入口付近にて……
「かぁ~!……まさか、俺様と同じ事を考える馬鹿が居たとはなぁ~!」
「でゅふふ……それが残念、拙者は上からの命令でござるよ~♪」
そこには、2人のプレイヤーが立っていた。
片や全身を黒いプレートアーマーで覆い、金色のハルバードを装備している豪快そうな男。
片や全身を白無垢と角隠しで覆い、桃色の鞘に入った太刀を装備しているオタク口調の女。
どちらも、纏うオーラが只者ではなかった。
現に……
「上だぁ?……そりゃお前等[猫田森さんファンクラブ]は上の命令しか聞かねぇだろうが……会員番号1番のお前より立場が上の奴ってなると残るのは……」
「ストップでござる。……これ以上の詮索をするのであれば、[黒塗旅団]の副団長殿がここに居る理由もお聞かせ願いたいでござるな~?」
男の方は女の方を[猫田森さんファンクラブ]の会員番号1番と。
女の方は男の方を[黒塗旅団]の副団長と。
それぞれ呼んでいたのだから。
「俺様が来た理由?……そんなの、件のレイドボスと戦いたくなったからに決まってるが?」
「[黒塗旅団]は不参加を決め込んでる筈でござるが?」
「団長の方針なんぞ知るか!……[黒塗旅団]で最強なのは俺様なんだから、俺様が何しようと団長がとやかく言う権利なんてねぇよ!」
「……[黒塗旅団]最強が事実とはいえ、上の命令は聞いておいた方が良いでござるよ?」
男は自身が[黒塗旅団]最強だと語り、女もその点にだけは同意した。
「ごちゃごちゃ煩いなぁ……俺様からすりゃ、不参加な筈の[猫田森さんファンクラブ]最強が上の命令を聞いた上でここに来てる方が問題だと思うが?」
「[猫田森さんファンクラブ]が今回のイベントに不参加だなんて嘘、いったい誰が信じたんでござるかね~?……なんて、でゅふふ……こういうのは情報戦の末に相手を出し抜いてナンボでござるよ~♪」
「ふんっ……流石はあの腹黒猫のファンやってるだけあるなぁ!……俺様達の団長にも見習って貰いてぇぜ!」
「腹黒猫は余計でござる!」
対する女は自身が[猫田森さんファンクラブ]最強だと言われた事はスルーした割に、自身が応援する猫田森さんを腹黒と言われた事へは文句を言っていた。
「へっ……とにかく、俺様は暴れに来ただけだ」
「拙者は、少しでも状況を好転させる様に上から命じられたでござる!」
「そうかいそうかい……んじゃ、その意気でレイドボスも倒しちまいなよ、ヘビイチゴの嬢ちゃん」
「そっくりそのまま返すでござる、ヴァルメリド殿♪」
男はヴァルメリド、女はヘビイチゴと呼ばれ、それぞれ違う方向へと歩み始めた。
……このプレイヤー達の乱入が何を意味するのか、この時点では誰も知らない……
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