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番外編:猫被りの君

2月22日、猫の日にちなんで……。

すごく短いです。



 それはまだ、ミカの両親の大和と小鳥が結婚する前。

 付き合いだして間もない頃の話である。




「ねぇ、君ん家って猫飼ってるー?」

「我が家では猫は被るものです」

「ブッフー、そうだよねー。君ん家って皆そうだったよねー」


 その日、歌の収録で訪れたスタジオで、スタッフがそんな話をしているのを聞いた大和は、頭をハンマーで殴られる様な衝撃を受けた。


 え? 猫って被り物なの?


 大和はこの時、諺の“猫を被る”を使った冗談を完全にはき違えていたのだ。

 その日彼は、そのまま悶々とした気持ちで家に帰った。


 次の日、大和と小鳥は互いにオフの為、デートする事になっていた。

 二人とも人気のある歌手、グラビアアイドルとして活躍していたので、勿論変装も完璧にして。

 小鳥に至っては、仕事以外だとオーラが無くなるので、変装してもしなくてもバレる事はない。


「ねぇ、コトちゃん。今日俺、どうしても行きたい所があるんだ」

「分かったわ、大和さん。連れていって」


 小鳥に許可を貰い嬉しそうな大和。

 小鳥はこの少年のような笑顔が好きだった。

 そうして連れてこられた場所。


「……猫カフェ?」


 そう、連れてこられた場所は猫カフェだった。

 あちらこちらに自由気ままにくつろぐ猫達。

 それらをぼんやりと眺めていると、大和が顔をのぞき込んでくる。


「もしかして、猫苦手だった?」

「え? いいえ、猫は大好きです」


 その言葉に「良かった」と胸を撫で下ろす大和は、数多くいる猫達を物色し始めた。


「一番安定感のある猫ってどれだろう?」

「え?」


 一体何の事を言っているのか分からなかった。


 安定感? 何が? 何の?


 疑問しか浮かばない。

 そんな小鳥の気持ちを余所に、大和は一匹を選び出した。

 それは、猫の中でも大きな種類と言われるメインクーン。割と長毛で上品な顔立ちをしていた。

 「なーん」と甘えた声を上げるその猫を、大和は徐に頭に乗せる。


「!?」

「うーん、安定感はあるけど重くて首が痛くなるなぁ」


 当たり前のように猫を頭に乗せる大和を、小鳥だけでなく周りの客達も唖然と見ている。

 注目される事は有名人である大和達にとって避けたい事だったが、呆然としている小鳥はそこまで気が回らなかった。

 驚いた事に、頭に乗せられているメインクーンは、まるでここが定位置であるように大人しくしていた。機嫌良さそうに喉まで鳴らして。

 何だか周りの猫達が羨ましそうに見えるのは気のせいだろうか。そして、大和の頭の上にいるメインクーンがドヤ顔をしているように見えるのも気のせいだろうか。

 暫し困惑していた小鳥に、大和はヒマラヤンを渡す。

 小鳥は無言で猫と向かい合った。

 どうしよう。めちゃ期待した目で見てる……。

 それは、大和と猫、どちらの事だったか。


「ごろにゃーん」

「うん、やっぱコトちゃんはヒマラヤンが似合うなぁ!」

「………」


 付き合ってまだ一年ほどとは言え、それなりに大和の奇行に慣れてきたと思っていたのだが……。

 その奇行の大半はエロに関する事。オープンな所があり、出会いも出会いだったので小鳥自身その事は受け入れている。別の女性にそれが向いたら、それは断然許せないが、自分であれば構わないのだ。

 けれど、これは一体どういう事なのだろう。どういうつもりで?

 猫プレイ? いやいやまさか。

 小鳥は今、無表情でヒマラヤンを頭に乗せている。

 足元では、他の猫達が羨まし気に頭の上を眺めている。きっと、先程のメインクーンの様にドヤ顔しているのだろう。

 因みに、猫はどのような恰好になっているのかというと、後ろから頭にしがみついている感じだ。最初はちょこんと乗っていたのが、やはり揺れて安定しないのか、最終的にはそのようになった。大和の場合は大きさの事もあり、頭全体に覆い被さる様にしているが……。

 以外に乗せ心地はよく、程よく暖かくて落ち着くのが何だか悔しい。

 これはあれだろうか。一種の帽子だと思えばよいのだろうか。

 無表情で悶々と考えている小鳥を大和はどう思ったのか、心配そうに今度はアビシニアンを抱き上げる。


「どったのコトちゃん? こっちの子がよかった?」

「い、いえ、この子で十分よ、大和さん」


 頭の上でヒマラヤンが機嫌悪そうに「フーッ」と威嚇しながら尻尾をぶんぶんと振っているのが分かる。

 降りたくないと言っているのだ。

 どれだけ頭の上が気に入ったというのだろう。

 曖昧に笑って断る小鳥を、大和はにっこりと頷いてアビシニアンを降ろす。


「いやー、それにしても驚いたぜ。猫って被りもんだったんだな」

「え?」

「昨日さ、スタジオで話してる奴等が居てさ。猫は被るものですってさ。

 オレ、この歳になるまで知らなかったわ。コトちゃん知ってた?」

「~っ、し、知らなかったわっ」

「何だ、コトちゃんもか!」


 パァッと花咲くように笑う大和。そんな彼に、小鳥は言葉を詰まらせる。

 この時、猫カフェ内は不思議な一体感を生んだ。

 生温かい空気が漂う中、皆が頭に猫を乗せ始めたのだ。

 それを不思議そうに眺めながら、大和は何の疑いも持たずあの小鳥の好きな少年のような笑顔を浮かべた。


「何だ、みんな知らなかったんだな! ね、これってオレのお陰?」

「……ええ、大和さんのお陰ね」


 何とも言えない、ほんわかとした空気が流れるカフェ内なのでした。





「そう、そして私はその時、この人と結婚するって確信したわ」

「へぇー、そんな事があったんですかー……」

「あのパパとは思えないメルヘンっぷりだわ!」

「もう、なんて言うか……おバカ可愛いと言うか……そんな大和さんが愛しくて仕方かなくなっちゃったのよ」


 ほぅっと当時を思い出し、頬を押さえる小鳥。

 今日は仕事がオフで家のリビングでのんびりしていた彼女に、娘であるミカとマリが話し掛けたのがきっかけだった。

 何処でそういう話になったのか、内容が結婚を決めた瞬間の話になったのだ。

 そうして話される当時の出来事。

 リビング内がほっこりした。

 大和の話でこんなにもほっこりした事はあっただろうか。いや無い。

 そんなものだから、ミカもマリも感心しきりだった。


「だから父、猫カフェ行くと猫を頭に乗せてたんですね」

「ただ猫が好きではしゃいでるだけかと思ってたわ」

「あの猫カフェ、その時から猫の日になると“猫被りフェア”というのをやるようになったのよ」

「父の行動が一つの店を動かしたっ」


 その後暫く、ミカとマリ姉妹の中で、猫被りがプチブームとなったのだった。




 ~猫被りの君・終~


猫好きは絶対考えるだろうネタ。

実際にやったら大惨事☆

うちの子は肩にだったら乗ってくれます。


諺って、言葉通りに捉えるとえらいことになると思います。

後、諺とは関係ないけれど、「手持ち無沙汰」を本気で「手持ちぶたさん」と覚えていた子供が「ねえ、何でぶたさんなのかなぁ」と聞いているのが可愛くて仕方がありません。


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