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魔王らしいのに物理特化って、おかしくね? 3

それから、ドラゴン肉で食事を済ませて、森でテキトーに引き千切った蔦で道中の非常食として、ドラゴン肉を纏めた。それを片方の肩に結び付けて、ラナンを反対の肩に乗せたら、出発準備完了。


ちなみに、水はラナンの魔法で出せるから心配ナシ。魔法って便利。落ち着いたら、ラナンに教えてもらおう。



そうでなくても、教えてもらうつもりだったけどな! だって、魔法だぞ、魔法!! 中二な俺が早く会得しろと騒ぎまくってんだよ!!



まぁ、それはさておき、ラナンを落とさないように気を付けないとな。どのくらいのスピードで走れるか分からんけど。



これで鈍足だったら笑うしかねー。



「ラナン。とりあえず、おもいっきり走るつもりだけど、加速はゆっくりしてくから、ヤバそうになったら教えてくれ。スピードに乗ったトコで落ちたら洒落にならん」

「ん。魔王にしっかりと掴まっておく」


ラナンはそう言うと、俺の頭に手を回してギュッと抱き締めてくる。



ちょっ!? 柔らかいものがガッツリ当たってんですけど!?



「ラ、ラナン? そこまでしがみつかなくても、普通に乗ってられるくらいまででもいーと思うんだよ、おにーさんは」

「でも、できるだけ本気で走らないと、魔王の体力を試すことができなくなる」



う゛っ!? 余計なこと言ってた!! 俺のアホ!!



「大丈夫。ちゃんと落ちそうになる前に言う。それまで本気で走って。ラナンは運んでもらうだけだから、それくらいは頑張って協力する」



真っ直ぐな好意が胸に痛い!! 煩悩まみれでごめんなさい!!



そして、そんなラナンに'もうちょい離れて'なんぞ言えるワケもなく、顔と頭の右側にふにゅふにゅした感触を感じながら、走り始めた。必死で煩悩を押し殺しながら。





それから、程なくして、この状態で出せるトップスピードに乗った。ラナンは問題なさそうに俺の頭にしがみついて肩に乗ってる。一応、俺も無駄に上下には揺れないように気を付けて走ってる。



小柄とはいえ、女の子1人乗せて全力疾走できるとか、この体パネェ~。前世の体だったら、ヨタヨタ歩くのが精一杯で10歩も歩かない内にギブアップしてるぞ。



「魔王、凄い。馬車よりもずっと速い」


耳元でラナンが言う。



風切り音が激しいから、こうでもしないと声が聞こえないってのは分かる。


分かるけど、なんか妙に照れくせぇ!! この子、実は分かっててやってんじゃないだろうな!? ラナン! 恐ろしい子!!



「でも、疲れてない? 体力を試すつもりなのは分かっているけど、無理は良くない」

「ぅわははははっ! 問題無い!! テンション上がりまくってるから、このままどこまで~も走れそうな気分だ!!」

「ん。全然無理してるように聞こえない。本当に凄い」



すまぁぁぁぁん!! 君の感触と耳元で喋られるのとで、テンション振り切れてるだけ!! 煩悩が抑え込まれたまんまで臨界突破したら、テンションおかしくなるのな!! 初めて知った!!


でも、これ!! 絶対に体力の限界試す意味ねぇっ!! ラナンをこうして乗せてるのと、1人で走ってんのとじゃ、ぜぇぇぇぇったいっにっ!! 結果が変わる!!






そんな壊れたテンションに任せて走りつつ、一息に城周辺の森を抜けると、空が一気に明るくなった。どうやら、城と城を囲む森の辺りだけが、暗雲と雷に包まれてるらしい。



ますます魔王城っぽいなぁっ!? 日の光に当たれないのって、限りなく不健康な気がするんですけど!?


・・あの城以外に住めるトコなんかなさそうなのに、マジでどうしよ? ラナンの健康にも、ラナン以外の子を保護した後の健康管理にも、絶対に問題有りだぞ。俺はあそこで生まれたんだから、多分大丈夫だろうけど。


っつーか、暖かい陽射しが不快。この体、根っからの引きこもり体質ぢゃねーか。


・・・アンデッドではないよな? 呼吸もしてるし、心拍も感じるし。そもそも、体が腐ってたりとか枯れてたりとかしねーし。俺を魔物とか魔獣に分類したら、どういうのになるのかも早めに知っとかないとなぁ。思わぬ弱点とかあるかもしんないし。









それから、2日後。ラナンが疲れ過ぎないように適度に休憩を挟みながら走り続けて、俺達はピタエの街を視界に捉えた。


と言っても、普通に歩けば、多分1時間は掛かりそうな距離。でも、このくらいの距離なら、1分も掛からずに俺はここに戻ってこれる。それに、ここは街道から逸れてはいるけど、平原のど真ん中。ラナンが1人で待ってても、奇襲を掛けられる心配はない。

つまりは、絶好の場所だ。俺があの街で解呪の鍵とベッドを奪う為に一暴れする間に、ラナンに待っててもらう場所として。



「さて、ラナン。俺はこれからあそこで一暴れしてくるワケだけど」

「ん。気を付けて。油断大敵」


至極真面目な顔で言うラナン。



いや、他に言うことないの? ほら、助けてほしい相手とか見逃してほしい相手とか。



「解呪の鍵は逃げない。少しでも危険だと思ったら、戻ってきて。魔王が強いのはもう十分に分かっているけど、純人族の最大の武器はその数。個人の身体能力としては圧倒してる獣人も、魔力容量が圧倒的な森人族も、純人族よりも立場が弱いのはそのせい。だから、絶対に無理はしないで。約束」



ふむぅ・・あくまでも俺の心配だけか。もっと自分の気持ちとかやりたいことを言ってくれてもいいのに。



「分かった。約束する。んで、それはそれとして、ラナンはあの街に助けてほしい奴とか見逃してほしい奴とか、できれば一緒にいたい奴とかいないか?」


俺の問いかけに、首を傾げるラナン。


「どうしてそんなことを聞く?」

「いや、ラナンの話を聞いて、虐げられてる亜人は纏めて保護しようかと思っててな。まぁ、今回の最優先は解呪の鍵とベッドだけど、ラナンにそういう相手がいるんなら、保護対象として優先しとこうかと思って」


俺がそう言うと、目を真ん丸にするラナン。


「・・どうして? 魔王に何も得がない」




おもいっきりありますよ? 視界がケモミミ美少女で埋め尽くされるとか、至福以外の何物でもないですよ?


まぁ、流石にそんなこと言えねーけど。ラナンに冷めた眼で見られたりしたら・・・あれ? 意外に興奮する?



待て待て待て待て。それは開いちゃいけない扉だ。踏み止まれ、俺。




「気に入らないものを潰すのに、理由が必要か?」


煩悩を隠す為に、できるだけ凶悪に見えるように笑みを浮かべてみる。と、サッと目を逸らすラナン。



・・そんなにおもいっきり目を逸らさんでも・・俺の顔はそんなに恐いですか? あ、何百人も殺してそうなんだっけか。そりゃ、恐いね。うん、泣きそう。



「・・ん。理由は必要ないと思う。でも、魔王。その顔をするのは反則。狡い」



反則技的なくらいに恐いってことですか!? 泣くよ!? 泣いていいよな!? これ!!


くそぅ・・鏡が欲しい・・ベッドに加えて、鏡も優先して強奪しちゃる。いや、持って帰んなくてもいいや。1回見たら、もう十分だろうし。凶悪面さ加減に対してだけは覚悟しとこう。



「ん、んん。自重するよ。んで、そういう奴はいるか?」

「・・・ラナンは魔王のもの。魔王が欲しいと思った相手だけでいい」



うん。なんとなく、そんな感じのこと言うと思ってた。また口先三寸で言いくるめてくれるわ。



「勘違いしてるな。ラナンのすべては俺のものだろ?」

「ん。その通り」

「なら、ラナンが欲しいって思う気持ちも俺のモンだ」


ラナンの頬に両手を当てて逃げられないようにした上で、反則と言われた笑みを浮かべてやる。



決して、恐いって思われたことへの腹いせとか八つ当たりじゃない。短時間で説得する為だ。勘違いしないよーに!



「間違うなよ、ラナン。お前の'すべて'が俺のものなんだ。喜びも悲しみも、怒りも恨みも、それに、欲も。何もかもだ。だから、それを自分の中だけに隠しとくのは許されない。全部を俺に差し出せ。ラナンに晴らせる恨みや怒りなのかとか、叶えられる望みなのかとかは一切関係ない。いいな?」

「・・・は・・い・・・ラナンの、すべて、は、魔王の、もの・・全部、差し出す・・残らず、何も、かも・・」


目を潤ませて、微かに声を震わせながら応えるラナン。



あ、いけね。恐がらせ過ぎたか? 涙目にさせちまった。


しかし、恐いんなら、なんで俺の手に自分の手を添えてらっしゃるんでしょうか? そうされると、恍惚としてるよーにも見えて、思わず勘違いしたくなるんですが。まぁ、んなコト有り得んけど。



「よし」


そう言って、ラナンの頬から手を離す。が、何故か添えられた手がギュッと握られたままで離れてない。



うむぅ。魔王っぽく言ってみただけなんだけど、恐がらせ過ぎて、茫然自失状態か? 街に行くのは、ラナンが落ち着いてからにしねーとなぁ。



・・ふふ。心に氷雨が降ることってあるんだなぁ・・・



「ゴホン。さて、ちゃんと理解したんなら、教えてくれるな? ラナンの希望を」


半ば呆然としたまま、コクンと頷くラナン。


「狐人族を、同族がいたら、連れてきてほしい。狐人族は獣人の中でも特殊な種族なせいで、特に虐げられる傾向が強い。ラナンが知っているだけでも、この街で酷い扱いを受けていた狐人族が3人いた・・・今も、生きているかどうかは、分からない、けど・・」

「どんな奴だ? 容姿に特徴はあるか?」

「ん。1人は、真っ赤な髪と尻尾をしてる。'ミリオラ'がこの街に来たときに、互いに励まし合った。後の2人は少し見かけただけ。でも、全身を包帯で巻かれていて、痛々しい姿だった」

「そいつらはどこら辺にいた?」

「真っ赤な髪と尻尾の子は宿で働いていた。後の2人は・・娼館」


ラナンの最後の一言で、俺は自分の頬が引き攣ったのを自覚した。



娼館でそんな状態になるって、どんな扱いされたらそうなるんだよ!? ・・・いかん。落ち着け。胸糞悪いからってブチ切れて暴れたら、助けられるモンも助けられなくなりかねん。


まずは、解呪の鍵。それから、回復用の薬。魔法があるんだ。魔法薬とかポーション的なモンがあってもおかしくない。それの最上級品をありったけ。んで、赤髪赤尻尾の子と娼館の2人。ベッドはこの際、後回しだな。途中で素通りした村から間に合わせを調達してもいいんだから。



「了解だ。他は?」

「特にいない。でも、兎人族がいたら、助けてあげてほしい。兎人族は気弱で温厚。そのせいで、狐人族並に扱いが酷い」

「兎人族・・兎耳?」

「ん。それが特徴」

「了解。他は?」

「もうない。あとは、魔王に任せる」

「よし。んじゃ、大人しくここで待ってろよ?」

「ん。約束する」

「よし。いい子だ」


ポンポンとラナンの頭を撫でてから、街の方へと視線を向ける。自然と、目付きが鋭くなるのが自覚できる。




さて、ラナンの話でここの純人族共はもう殲滅対象として確定した。ここからは、魔王っぽく・・




いや。本気で魔王として、理不尽と暴力の嵐を贈ってやろうじゃねぇか。

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