魔王らしいのに物理特化って、おかしくね? 2
それから、半日掛けて、ラナンの説得をした。
途中、腹が減ったから近くで何か狩ろうと思って、城の外に出たら、ばったりドラゴンと遭遇。尻尾の薙ぎ払いを片手で受け止めて、力任せに尻尾を引き千切ってやったら、ドラゴンくん、絶叫。動きが止まった隙に、爪を高速で伸ばして、頭を貫いてやったら、戦闘終了した。
魔王として転生したこの体、パネェって思ったよ? 一軒家サイズの巨大蜥蜴の一撃を片手で受け止めるわ、尻尾は引き千切るわ、爪はアッサリと頭を貫くわって、明らかにスペックおかしいもんよ。ラナンも目を真ん丸にしてたし。
ドラゴンの肉は高級品だってラナンが言うから、ラナンの魔法で火を着けてもらって、適当なサイズに千切って丸焼き。美味しくいただきました。
食い伐れなかった分も焼いて、とりあえずの食料も確保できたから、最初の獲物としては過剰なくらい。
でも、調味料が欲しい・・ドラゴン肉は確かに美味かったけど、塩胡椒するだけでもっと美味くなりそうだもんなぁ。街では解呪の鍵とベッド以外に、調味料の強奪も忘れないようにしよう。
とまぁ、そんな感じで、俺の戦闘力が異常だって証明ができたのが、ラナンを説得できた1番の理由だ。ってか、ドラゴン狩りがなかったら、ラナンは納得しなかった気がする。
初めての保護者がいなくなるかもしれないってのが不安なんだろうけど、心配性過ぎ。クソ野郎と茶髪ビッチとの件だけでも、俺が強いのは分かるだろうに。剣がほとんど刺さらん体とか、絶対に普通じゃねーし。
でも、別の問題が浮上。
俺の生まれた城はそれなりのサイズではあるけど、別に特別頑丈ってワケでもなさそうだし、城門も丈夫そうではあったけど、普通に木製。なのに、城を出たトコでドラゴンと遭遇とか、城周辺が物騒過ぎ。
流石にドラゴンが普通に通れるようなサイズの城門じゃないけど、それでも壊して中に入るのは簡単そうだ。人サイズの魔物とかだったら、城門を壊すまでもなく、侵入は簡単過ぎ。警備する奴がいないからな。
食い物はドラゴン肉だけで十分過ぎたから、それ以上の狩りはしないですぐに城に戻ったせいで他の魔物とかは見てないけど、いない筈ないし。何せ、城が森に囲まれてんだから。鬱蒼とした深ぁ~い森に。正に、魔物とか魔獣の巣窟って感じ。
それだけに、ラナンを1人で留守番させるワケにはいかなくなったんだよなぁ。気が気じゃなくなる。
かと言って、連れてくのも、それはそれで危ないしなぁ。俺1人なら、魔法の雨だろうが矢の雨だろうが問題なさそうだけど、ラナンはそうもいかねーし。
どうしたもんか・・
そんな感じで悩んでたら、前から寝息が聞こえてきた。心なしか、もたれられてる感じも強くなってる。
ありゃ。寝ちまったのか? よく凶悪面した人外の膝の上で抱き抱えられたままで眠れるもんだなぁ。よっぽど疲れてたのか? まぁ、クソ野郎と一緒じゃ気が休まらなかっただろうし、無理もないか。説得にかなり長い時間掛かっちまったし。
それに、'初めてこんなに美味しい物食べた'とか'お腹いっぱいになったのは初めて'とか言ってたもんなぁ・・
うん。純人族は殲滅対象に、改めて決定だな。ラナンを虐げてた奴ら、ラナンが虐げられてるのを黙認してた奴ら、ラナンを虐げるのを良しとする風潮を作った奴ら、纏めて全部地獄を見せてやる。
・・・俺、ラナンに思い入れし過ぎ? まぁ、仕方ないよな。狐耳超絶美少女だし。なんか懐いてくれて、可愛らしいし。
それに、俺を殺そうとしたってだけで敵対するには十分な理由なんだ。そこに追加の理由が入ってきても別に問題ないっしょ。結果は変わんないしな。
さて、それはそれとして、どうすんべ? まだ寝床の準備なんかできてないから、ラナンの寝るトコないんだけど。
石の床の上に寝かせるのは、いくらなんでも可哀想過ぎだしなぁ。かと言って、このまま抱っこしとくのは地味にしんどい。せめて、背もたれが欲しい。
俺が横になって、その上にラナンを乗せとくか? いや、それは理性がマッハでレッドゾーン突破してくる予感がする。危険過ぎる。
ってことは、やっぱりあの椅子に座るしかないかぁ。趣味悪過ぎなんだけどなぁ・・しかも、ビジュアル的にどうなのって感じがするし。
髑髏が目立つ玉座に、眠った美少女を抱いて座る、ゴツい身体した凶悪面の人外・・・
アウトォォォォッ!! 想像しただけで、絵面が最悪過ぎたわ!! 俺の面によっちゃ、〈補食のカウントダウン始まっちゃってます!?〉な感じにしかならねぇだろ!?
それから、ウダウダと悩んでみたものの、解決策なんぞ出てくる筈もなく、最終的には、渋々玉座に座ることにした。
ラナンを起こさないように、ソッとお姫様抱っこの姿勢に移行して、玉座の方へと移動。静かに腰掛けて、趣味の悪い絵柄の背もたれに体重を預けた。
「ん・・」
そしたら、ラナンがモゾモゾとし始めた。
ヤベ。起こしたか?
「魔・・行か・・で・・っと・・緒に・・」
途切れ途切れに口を動かしながら、何かを探すように手を動かすラナン。その手を握ってやると、両手で抱え込むようにして自分の体へと引き寄せてから、僅かに頬を緩ませて、再び寝息を立て始めるラナン。
寝言、か・・途切れ途切れだったけど、俺と一緒にいたい的なこと言ってたよな。
まだ1日も一緒にいないのに、寝言でそんなこと言うとか、今までどんだけ孤独だったんだよ。
こりゃ、留守番とかさせられねぇかなぁ。危険だってのもあるけど、こんなの聞かされたら、なぁ?
「ハァ・・実は起きてて、今のは'寝言の演技だった'とか言ってくんない?」
俺の呟きに、ラナンは寝息を立ててるだけで、当然ながら、何の反応もない。
・・・ハァ。仕方ねぇか。ラナンも連れていこう。んで、街からちょっと離れたトコで待っててもらおう。街の近くなら、街の安全性の為に魔物とか魔獣はある程度以上に狩られてるだろうし、ラナン自身も戦えないワケでもない。
街での目標達成は最短時間で終わらせるのを心掛けよ。徹底的に暴れてやろーかと思ってたけど、それはまたの機会にってことで。
◇
目が覚めると、超絶美少女が顔を覗き込んでた。
鼻先と鼻先が触れあうくらいの超至近距離から。
「おぉぅっ!?」
「ん。おはよう。魔王」
驚きで変な声が出た俺をスルーして、サラッと朝の挨拶をしてすこし離れるラナン。
「お、おはよう。ラナン。何故に至近距離でご挨拶?」
「・・なんとなく?」
「・・'なんとなく'で心臓に悪い寝覚めをプレゼントしてくれるのは勘弁してくれ・・」
目を逸らしながらのラナンの答えに、脱力しながら言う俺。
この子、マイペースな上に大概不思議ちゃんだよなぁ。悪意はないんだろーけど、25年童貞を貫いてきたおにーさんには寝起きに超絶美少女のドアップは刺激が強すぎなんですよ? そこんトコをご理解いただきたい。
「・・不快だった? それなら、もう2度としない。ごめんなさい」
「い、いや、謝る必要はないんだけどな? 全然不快とかじゃないし。でも、な? ラナンは本気で俺好みの超絶美少女なワケですよ。そんな子が寝起きで至近距離にいると、ドギマギして心拍数が寝起きからヤバイワケよ。分かる?」
「・・よく分からない。でも、不快というわけではない?」
「ないって。むしろ、嬉しいって」
俺の言葉に、何故かまた目を逸らすラナン。
「・・ん。なら、これからもこうする」
「ちょい待ち。何故にそういう結論になる?」
「魔王が嬉しいなら、ラナンも嬉しい。だから、魔王が起きるときは常にこうしたい。ダメ?」
「・・ハァ。分かった分かった。好きにしていい。だから、そんな目で見るな」
言いながら、ラナンの頭を撫でる。ラナンは気持ち良さそうに目を細める。
まぁ、寝るトコの準備ができるまでの間だけの話だしな。
あ、そういや、どの部屋がいいのか、結局聞けてねーな。まぁ、いいか。ベッドを運び込むときでも。
「んで、ラナン。街に行くにあたって、ラナンにも着いてきてもらおうと思ってるんだけど、流石に街で大暴れするときまで一緒にいるワケにもいかない。危ないし、この先、もし何か街での用事ができたときに潜り込んでもらう為には犯罪者として顔を知られるワケにもいかないからな」
「・・ん。そういうことなら、仕方ない。確かに、街を襲う魔王の傍にいたら、顔がいろんな街に知らされる。そうしたら、もう潜り込むのは不可能」
自分に言い聞かせるように、渋々といった感じで首肯するラナン。
グッジョブ、俺。やっぱり街に同行させない理由にそれっぽいモン考えといてよかった。1人で潜り込ませるようなこと、させるワケねーじゃん。情報収集ったって、そこまでして集めなきゃならんよーなモンがあるとも思えねーし。
あ~、でも、万が一の為に、そういうことができる部下とかは欲しいかなぁ。死んでも心が痛まんよーな奴で。どうやって調達するかとか、考えとこう。
「よしよし。聞き分けのいい子は好きだぞ~」
言いながら、またラナンの頭を撫でると、今度は俯いてしまうラナン。
「ん。ラナンは魔王のもの。当然」
いや、その割には昨日、かどうかは分からんけど、寝る前に説得するのに掛かった時間は長かったぞ? まぁ、言わんけど。
「んで、解呪の鍵を手に入れるまでの間は街の近くで待っててほしいんだけど、街の近くにラナンが手に負えないような魔物とかって出ることあるか?」
「・・行くのはここから1番近い街?」
「ああ。そのつもりだ。どこにあるのか分からんから、道案内は頼むことになるな」
「ん。それは任せて。1番近くの街なら、ピタエの街になる。そこなら、解呪の鍵もあると思う。ただ、ドラゴンのテリトリー範囲内だから、いつドラゴンが出てくるか分からない。それ以外なら、問題ない程度」
「ドラゴンか。瞬殺できたから、強さがいまいち分からんのだけど、ラナンは無理なんだよな?」
「逃げるだけなら、なんとかなる」
「・・それ、絶対にって言えるか?」
俺の問いかけに、ついっと目を逸らすラナン。
「オイコラ。目を逸らすな。こっち見て答えろ」
「アースドラゴンなら絶対」
「・・それ以外だと?」
「・・空を飛ぶのは人種族相手には反則。ましてや、街の近くの拓けた平原だと余計に」
「他のは全部飛ぶんじゃないのか? さっきのは空から降りてきたトコに鉢合わせしたっぽいし。逃げらんねーじゃねーか、オイ」
「アースドラゴンだったら、平気。嘘は言ってない」
「この強情娘め。それなら、こっち見て答えろっての」
「魔王の足手まといにはなりたくない」
「・・ハァ。まぁ、空から近付いてくるのがアウトだってんなら、空に注意してりゃいいか。瞬殺はされるなよ? すぐに行くから」
俺の言葉に、やっとこっちを向くラナン。
「ん。それなら絶対」
「よし。ちなみに、その街まで普通はどのくらい掛かる?」
「徒歩で10日くらい?」
「それなりに距離あんのな・・1日100km歩いたとして、1000km? うわ、それなりどころぢゃねぇ」
「途中にいくつか村がある。そこで休みながら進むのが普通」
「そりゃそうか。まぁ、いい。この体の体力がどんなモンか試すつもりだったし。んじゃ、ドラゴン肉の残り食って、出発といこーか。道中の飯はその辺の魔物か魔獣を狩るか、ラナンに村で買ってもらうかするってことでいいか?」
「ごめんなさい。お金持ってない」
「ドラコンの牙とか爪、売れないか? もしくは、テキトーに魔物とか狩ってもいいんだけど」
「ん。それなら、換金はできなくても、物々交換でなんとかなると思う。でも、ラナンは奴隷だから、多分、足下見られる」
「マジか。まぁ、いいよ。元手掛かってないし。ただ、足下見られたら教えてくれ。その村、潰すから」
「舐められるのが許せない?」
「まぁ、そういうことになるな」
'俺を'じゃなくて'ラナンを'だけどな。舐められて蔑ろにされるのが気に入らないのは。
「ん。分かった」
「・・一応、釘刺しとくけど、ラナンが暴れるのはナシだぞ? 顔割れたら、動いてもらいにくくなるんだから」
「む。そうだった。じゃあ、ラナンは報告だけ?」
不満そうに聞いてくるラナン。
「だけ」
「むぅ」
ますます不満を顔に出すラナン。
っても、微妙にしか変わってないけど。
無表情ではないんだけど、表情に感情が乏しいんだよなぁ。これも、虐げられてきたせいとかなんだろうか? だとしたら、表情に感情がしっかり乗るようになるまで、ゆっくり時間を掛けてくしかないよなぁ。早いトコ、満面の笑顔ってのを見たいモンだ。
「そう不満そうな顔すんなって。ラナンが自分で恨みを晴らしたいような奴は生かして連れてくるし、見逃してほしい奴とか助けてやってほしい奴は教えてくれれば、ちゃんと応えるから」
「そうじゃない。ラナンは魔王のもの。だから、役に立ちたい」
「俺は俺のものを大事にするタチなんでな。危ないことはさせません。俺のものだってのなら、持ち主の意向に従いたまえ」
そう言うと、ラナンはバッと立ち上がって背中を向け、そのまま俺に突進してくる。
って、オイ!?
慌てて、中腰になってラナンを受け止める。不安定な姿勢のせいで勢いに負けて尻餅をついてしまい、ラナンを抱き締めるような形で膝に乗せることになってしまう。
「急に何をしやがるかな、この子は。危ないっての」
ラナンの前で交差した俺の腕を上半身で抱えるように丸くなるラナン。
ぬぉぉぉぉぉっ!? 柔らかいものが押し潰される感触がぁぁぁぁぁっ!?
「・・魔王は狡い。不意打ちは卑怯」
「はぃ?」
沸騰しかけた頭が、意味の分からんことを言うラナンのせいで、'?'で埋められてしまう。
「大事にしてくれるなら、常にこうしておいて。そうしたら、危険なことはできない」
ぬ、ぬぅ・・反対し辛い言い方を・・でも、この姿勢は、俺の理性がガリガリ削れてくんだよ!! 別の意味で、ラナンが危険になるっての!!
っても、そんなこと言っても、ラナンは引きそうにないしなぁ。元から交渉材料に自分の体を差し出してきたくらいだ。こいつは絶対に引かねーと、短い付き合いだけど断言できちまう。
ったく・・ちゃんと自分を大切にできるようになるまでは、俺が耐えるしかねーんだよなぁ、結局。
でも、耳と尻尾くらいは愛でてやる。これくらいの役得は許されてもいいだろ。
「はいはい。んじゃ、基本スタイルはこの格好な。鬱陶しくなるまで可愛がってやるから、覚悟しとけ」
そう言うと、俺の腕を握る手にギュッと力が入る。
「・・ん」
短く返事をするラナンの尻尾が、俺とラナンの体に半分挟まれて動きにくそうに揺れてる。
かっわいいなぁっ!! もぉっ!!
俺の理性仕事サボんなよ!? 人外で鬼畜に野獣とか、最悪だからな!?




