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魔王らしいのに物理特化って、おかしくね? 1

それから、しばらく城の中を歩き回って、俺達以外には誰も、そして、何もいないのを確認できた。これで、留守番させる予定のラナンの身の安全はとりあえず確保、と。


俺達は、趣味の悪い豪華な椅子のある最初の部屋に戻り、今後の行動について話すことにした。


「さて、ラナン。これで城の中の安全は確認できたんだけど、どこで寝たい? 何故か、どの部屋も埃が被ってたりはしなかったけど、寝具も何もなかったから、あんまり大差ないとは思うけど、好きなトコを選んでいい。どうせ、当分は俺とラナンしかいないんだからな」


そう言うと、何故か首を傾げるラナン。


「どうしてそんなことを聞く?」

「どうしてって。あぁ、そっか。言ってなかったな。これから、解呪の鍵を強奪しにいくついでに、適当にベッドとかも持ってくるつもりなんだよ。だから、寝るトコを決めといてくれないと、寝床の準備ができない」

「・・・今の魔王の言葉で、聞きたいことができた」

「そうなのか? んじゃ、テキトーに座って話すか。ずっと立ちっぱなしの歩きっぱなしだったしな」


ラナンが首肯したのを確認してから、そのままドカッと床に座る俺。


「魔王。あそこに玉座があるのに、どうして床に座る?」

「・・アレ、玉座だったのか。確かに、言われてみると、そんな風に見えるけど・・・趣味悪ぃよ、アレ。誰が残したモンが知らないけど、肘掛けの飾りが髑髏で、背もたれの模様が肋骨っぽい骨とか、悪趣味過ぎ。座りたくない」

「納得した。魔王の趣味かと思っていたけど、意外と魔王の感性は人種族に近い?」


ラナンの問いに、苦笑が洩れてしまう俺。



近いっつーか、似た感じではあると思うよ? 前世、人間だし。言ってもいいけど、理解できんのかなぁ? 異世界とかって観念が無いって設定のラノベもあったしなぁ。



「そりゃそうだろうな。俺はここで目を覚ます前は人間だったんだから」

「ニンゲン? 何? それ」

「あ~、ここでは人種族って言うのかね。一括りにすんのもイヤだけど、パッと見は、あのクソ野郎とかクソビッチとかと同じだった」

「・・純人族、ということ?」

「多分、そんな感じ。ただ、こことはまったく違う世界のな」

「違う、世界?」

「そ。そこには、ラナンみたいな動物の特徴を持った人種族はいなかったし、魔王なんてのもいなかった。それに、魔法なんてのは、ただの空想の産物。実際に使える奴なんか見たこともなかったな」

「・・森人族は?」

「それって、どんな種族?」

「純人族や、獣の特徴を持った人種族である獣人よりもずっと長い寿命を持つ種族。外見的には、男女問わずに美形ばかりなことと、少し長くて尖った耳が特徴。あと、種族として魔力が多いから、魔法にも長けている」

「エルフもいるのかよ、ここは。会ってみてぇ・・」


にへらっと頬が緩むのを自覚しつつ、そんなことを呟くと、ラナンが傍に寄ってきた。


「ん、あぁ。その、森人族だっけか? そういうのもいないな。純人族、だっけか? それだけだ。人種族は、な」


ラナンの質問に答えると、ラナンは胡座をかいた俺の膝の上に座ってきた。



ラナンさんっ!? いきなり何をしてらっしゃるんでしょうかね!? 膝に柔らかい感触がっっっっ!!



「ラ、ラララララ、ラナンさん? 何故に膝の上に座ってらっしゃるのかな?」

「魔王が言った。幸せになる為に躊躇い無しで全力でいけって。だから、ラナンは躊躇わない」


そう言いながら、ズリズリと膝の上を移動して、俺の正面で背中を向けるようにして座り、ぽふっともたれてくる。


「え、えっとだな、それとこれとがどう関係してんのか、お兄さんには分からないんですが?」

「簡単。魔王にくっつきたいと思った。実行したら、幸せな気分になれた。そもそも、ラナンは魔王のもの。離れて座る方がおかしい」

「最後の部分に物申したいトコではあるんですけど!?」

「・・ダメ?」


弱々しい声を出すラナン。



ぐ・・そんな声で言われたら、ダメとか言えんだろ・・・あ、そうか。甘えたいのか。初めて撫でられたとか言ってたもんなぁ。凶悪面してるらしい俺の目が優しいとか言い出すレベルに、色々辛かったんだろうしなぁ・・・


ハァ。頑張れ、俺の理性。転生後の体以上の強靭さを期待するぞ。



「じゃあ、こうしたら、もっと幸せな気分になれるか?」


やたらと太くなった両腕で、もたれて座っているラナンを軽く抱き締めてやる。ビクッと体が震えたラナンだけど、その両手が俺の腕を力いっぱいに自分の方へと引き寄せている。



まるで、もっと強く抱き締めろと言うかのように。



「・・これは、危険。離れられなくなる。今日はもうずっとこのまま?」

「い、いや、とりあえず、最低でもベッドがないと寝れんだろ。多少遠くても、今の俺ならそんなに時間を掛けないで戻ってこれるだろうし」

「むぅ・・でも、ベッドがないと痛い?」

「痛いと思うぞ。床、石だし」

「・・・分かった。じゃあ、話の間はこのまま」

「ほいほい。んで、俺が元別の世界のにんげ・・純人族だってのは理解できた?」

「・・納得はいかないけど、魔王の言っていることは理解した。ラナンの名前の由来になったラナンキュラスという名前の花。結婚式で使われると、魔王は言っていたけど、そんな花の名前は聞いたことがない。それに、結婚式は王族か貴族、もしくは大金持ちしかやらないこと。なのに、魔王は普通に誰でもやっているかのような口振りだった。別の世界の知識だと言われると、否定する材料が見当たらない」

「それに、生まれたばっかりの俺が花の名前と花言葉なんぞを知ってるってのもな」

「ん。嬉し過ぎて、疑問にも思わなかったけど、改めて言われると納得できる。だから、感性が人種族と同じ?」

「まぁ、まったく同じかどうかは分からんけどな。この体に転生して、精神的な部分も多少変質してるっぽいし、そもそもの文化とか習慣は全然違うだろうしな」

「ん。理解した」

「・・自分から暴露しといてなんだけど、よくこんな話を信じたな? 俺が聞かされたら、与太話として聞き流してるぞ?」

「他の人から聞かされたら、そう。でも、ラナンは魔王の言葉なら信じられる。ラナンのすべては魔王のものだから」


ラナンの言葉に、思わず身震いしてしまう俺。



'全幅の信頼'



この言葉がこんなに当てはまるのは他にねぇだろ、これ。完全に俺が拠り所になってんのな・・


まぁ、別に問題ないか。わざわざ差別上等なトコに放り出す理由がないし、近い内にこの城にはラナンの仲間が増えてく予定だしな。



「そっか。嬉しいよ。ラナン」

「ん」


体を反転させて、俺の胸に頬擦りするラナン。



って、その動きはあかん!! ほっぺたの柔らかい感触もだけど、双丘の!! 未知と魅惑の双丘の感触がっっっっ!!


早く話を終わらせよう!! このまま堪能してたら、絶対に理性が消し飛ぶ!!



「で、で? 聞きたいことってなんだ?」

「ん。解呪の鍵を強奪するってどういう意味?」

「へ? 言葉のまんまだけど? 解呪の鍵が近くの街で保管・管理されててもおかしくないかと思ったから。奴隷って、一般的な制度なんだろ?」

「ん。主に、獣人が奴隷にされてる。それに、解呪の鍵を見せつけて、解放を匂わせるようなことを言って躾がされるから、解呪の鍵が近くの街にあるのも間違いないと思う」

「よし。推測大当たり」

「でも、解呪の鍵が保管されている街は大規模な街だけ」

「なるほど。人が集まるトコに奴隷も集めて、そこで売買されるワケか」

「ん。つまり、それだけ警備も厳重。危険。行かないで」


感情の起伏が乏しい表情のままで、どこか必死さを感じさせる声音で言うラナン。



警備が厳重で危険、かぁ。なんでこれを聞いてビビってねーんだ? 俺。そんなに肝っ玉座ってたっけ? これも人外に転生した影響かね?



「危険なのは分かった。でも、ラナン。いくつか質問」

「何?」

「あのクソ野郎は強い方なのか?」


俺の質問に首を傾げるラナン。


「ん。強い。魔王の城に来る前、ドラゴンを1人で倒してた」

「・・マジで?」

「ん。魔王に嘘は吐かない。本当」



ド、ドラゴンを単独撃破っすか・・


ん? でも、あのクソ野郎は俺を相手にするときには、'ミリオラ'に先行させてたよな? なのに、単独? それ、なんか話がおかしくね?



「それ、もしかしてだけど、'ミリオラ'が先行させられて、隙を作ったトコにあのクソ野郎が突っ込んでって倒したとかじゃないのか?」

「ん。でも、あのときの'ミリオラ'は何の役にも立ってない。ドラゴンの尻尾で薙ぎ払われて、吹き飛ばされただけ」

「・・んで、その直後にクソ野郎が突っ込んでって、ドラゴンに結構なダメージ与えた?」

「ん。薙ぎ払い終わった尻尾を斬り飛ばしてた」


ラナンの言葉を聞いて、眉間に皺が寄るのを自覚する俺。



完全にラナンを、いや、'ミリオラ'を囮にしての大打撃じゃねぇか。っつーか、あの野郎、'ミリオラ'を常にそんな風に扱ってやがったのか。マジで使い捨てかよ。クソが。



「・・怒った?」

「あのクソ野郎にな」


不安そうに見つめてくるラナンの頭を撫でてやる。


「まぁ、それは今はとりあえず置いとく。ラナンの首輪の解除の方が優先順位は上だからな。んで、あのクソ野郎が強いのは分かった。ドラゴンの尻尾を斬り飛ばすとか、並の腕でできるようなことでもないだろうしな」

「ん。ドラゴンは魔獣の中では最強クラス。普通は複数のパーティーで立ち向かうもの」

「なんとなく想像はできた。んじゃ、質問その2だ。大規模な街の警備してる奴で、クソ野郎クラスの奴はざらにいたりするか?」


俺の2つ目の問いには首を横に振るラナン。首を横に振った弾みで、肩まで伸ばしてるラナンの白に近い銀髪が鼻先を掠めた。



をぅ・・なんか、スゲェいい匂いしたんだけど。いや、ラナンからはいい匂いしてるんだけど、それがさらに濃いと言うかなんと言うか・・



ヤベェ。理性の耐久値がゴソッと削られた。



頑張れ! 俺の理性!! 弱みに付け込んで無理矢理とか、本気でド外道だぞ!? ラナンには笑っててほしいってのに、それを俺が泣き顔に変えてどうする!? 嬉し泣きはいいけど、超絶美少女に関しちゃそれ以外の涙は認めん!!



そんな俺の内面に置ける激しい戦いには気付いた様子もなく、口を開くラナン。


「それは有り得ない。もしそうなら、あいつが勇者なんて呼ばれたりしない」

「ん、んんっ。だよな。んじゃ、質問その3。茶髪クソビッチがこの国最高の魔法使いだとかクソ野郎が言ってたけど、街の警備に茶髪クソビッチ以上の魔法使いはいるか?」


俺の質問に、再び首を横に振るラナン。



んでもって、俺の理性の耐久値もゴッソリ削っていく!! マジで耐えろよ!? 俺の理性!!



「それも考えられない。あの女に並ぶ魔法使いはいないと聞いた」

「よ、よし。じゃあ、次の質問な。'ミリオラ'以上の使い手は?」

「それなら、居てもおかしくはない。'ミリオラ'は上の下か中の上程度の腕しかない」

「なるほど。じゃあ、最後の質問だ。最強クラスっぽいクソ野郎は俺の爪を躱すことも防ぐこともできやしなかった。国内最強の魔法使いの魔法は、俺の皮膚すら焼くこともできなかった。'ミリオラ'が俺にダメージを与えられたけど、ちょっと肉が斬れただけ。あの程度の傷じゃ、毒でも仕込んだ武器で斬りつけないとマトモなダメージにはならない。さて、そんな魔王様が危険な状況に陥ることは考えられるでしょうか?」


俺の問いに、ラナンは俯いてしまう。


「・・・考え、にくい・・でも、可能性は否定できない」


物凄く言いたくなさそうに答えるラナン。



頑固なやっちゃなぁ・・まぁ、心配してくれてるんだってのは分かるから、嬉しいのは嬉しいんだけどな。


ただ、部下も配下もいない魔王様は自分で動かなきゃなんないワケなんですよ。そこんトコは納得させないと、何にもできないからなぁ。今からは必死の説得タイムだ。

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