生まれた日に名付け親になるって、おかしくね?
理不尽を撒き散らしてやると決めたもんの、時間が掛かるだろうから、先に俺の生まれた場所の確認をすることにした。狐耳ちゃんが'城'って言ってたから部屋数はあるだろうと予想して、とりあえずは狐耳ちゃんの寛げる場所を見つけるのが目的。
まぁ、雰囲気的に寛げるかどうかはともかくとしてな。俺はなんか落ち着くけど、不気味なもんは不気味。
ノリは廃墟探索&肝試しって感じで、隅々まで歩き回るつもり。万が一、他に何かがいて、それが狐耳ちゃんを傷付けでもしたら笑うに笑えん。確認しとかないと、落ち着かねーんだよ。
最初に俺がいた部屋から出て、城(仮定)の探索を始める。適当に歩き始めてすぐ、まだ狐耳ちゃんの名前を聞いてなかったことを思い出した。
「そーいや、君の名前は?」
俺の問いに、何故か考えるような素振りを見せる狐耳ちゃん。
何故に自分の名前を答えるのに考えてる? 俺が前世の名前を思い出せないみたいな感じ? いやいや。それだと、記憶喪失ってことんなるだろ。全然そんな風には見えないって。
「ん。魔王が付けて」
「はぃ?」
「私の全部は魔王のものになった。魔王のものじゃない私はもういない。だから、前の名前はもう要らない。私の持ち主に付けてほしい」
乏しい表情のままで淡々と言う狐耳ちゃん。
いや、名前を付けろって。それどんなムチャ振り。女の子の名前、ましてや、異世界の名前なんかどんな風なのがいいのか分からんっての。
よし。ここは前世の派遣販売員として鍛えた舌先三寸で丸め込んでくれよう。
「バカ言うな。君の'全部'が俺のものなんだ。今の名前も、当然、俺のもんだろ? 勝手に捨てるんじゃない」
「・・確かに。言われてみれば、その通り」
よぉっしっ! 流石、俺!
「ミリオラ。それが私の名前」
「ミリオラね」
「・・・でも、この名前は嫌い。魔王以外のものになったことのある名前で、魔王に呼ばれたくない」
おふぅ・・思わぬ切り返しがきたよ、オイ。
「新しい名前が欲しい。ダメ?」
隣を歩きながら、俺を見上げてくるミリオラ。
って、俺にこう呼ばれるのは嫌だから、新しい名前が欲しいんだよな。しかし、なんか、妙に懐かれてない? 俺以外のものになったことのある名前で呼ばれるのが嫌とか。好意が重いくらいじゃね?
いや、どっちかってーと、辛い過去を捨てちまいたいって感じかね。まぁ、寝床の話だけで不遇な環境で生きてきたってのは想像できるもんなぁ。
ハァ。仕方ねーか。
「分かった。でも、生まれたばっかりの俺にネーミングセンスを求めるのは酷な話だと思っといてくれよ?」
生まれて25年経っても、センスなんか何にも芽生えませんでしたけどね!!
「ん。魔王が付けてくれたら、何でもいい」
俺の言葉に、アッサリと首肯する狐耳ちゃん。
やっぱり好意が重い!? さっきの台詞で落ちちゃいましたか!? 大したこと言ってませんよ!? 要約すると、駄々甘やかしてやるってだけですよ!?
うぬぬ~・・・変な名前は可哀想だし、かと言って、どんな名前がいいのやら・・・
尻尾の先が白いから、シロ、ホワイト・・ワイト? アンデッドモンスターぢゃねぇか。却下!
金色の綺麗な目してるから、キン、ゴールド、シャンパンゴールド、シャン? なんかイマイチ。没!
狐、フォックス、コ~ン(鳴き声)・・何も浮かばねぇ・・
狐、妖狐、九尾の狐、金毛白面九尾、玉藻、稲荷、天狐、空狐・・・にょわぁぁぁぁぁっ!? マジで何も出てこねぇっ!?
狐って、なんか和風テイストな感じの言葉とばっかり結び付くんだよ!! 日本人と白人のハーフっぽい顔立ちの狐耳ちゃんに全ッ然合わねぇのっ!!
「魔王。私は本当に魔王が付けてくれれば、何でもいい。適当に決めて」
「んなワケにいくかっ! せっかく可愛い顔してんだから、最低でもそれなりの名前じゃないと俺がイヤだっ!!」
「・・ん。分かった。魔王に従う」
そう言いながら、俺の小指の先をちょんと摘まむ狐耳ちゃん。尻尾がゆらゆら揺れてる。
・・狐も嬉しかったら尻尾振るんだっけ? 猫だと怒ってるとか興奮してるとかだった気がするけど・・まぁ、狐も性質はともかくとして、分類としては犬科の動物だった筈だしな。喜んでると思っとこう。じゃないと、俺の心が折れる。
っつーか、指先を摘ままれて歩くのって、なんかこそばゆい。手を握りたいのを遠慮してる、とかだと思いたくなるんですが。
・・・握ってみる? 握っちゃう? よし! 握ってみよう!! 嫌がってそうだったら、即座に離して2度としねぇ!!・・・嫌がられたら、硝子のハートか粉々になるよなぁ。やっぱりやめとこっか。いやでも、'全部俺のもの'とか言っても受け入れてくれてるし、自分からそう言ったりしてるし・・・
いーやいーや! やっちゃえやっちゃえ!! 思うがまま我儘にいくって決めただろ!! 俺!
覚悟を決めて(大袈裟とか言うなよ)、俺の指先を摘まむ狐耳ちゃんの小さな手を握ってみる。
握ってみた!!
目だけで狐耳ちゃんの様子を確認してみると、握った瞬間には驚いた感じだったけど、すぐに無表情気味の平常モードに戻った。尻尾の揺れが、ちょっと激しくなってる。握った手が握り返された。
よしよしよぉっしっ!! 少なくとも、嫌がってはないよな!! な!?
「い、痛くないか?」
「ん。全然。このまま、握ってていい?」
「ん、お、おう。俺が握ったんだから、当然だろ」
「ん。嬉しい」
「そ、そそ、そうか。な、ななな、なら、い、いいいい、いい」
'嬉しい'イタダキマシタァァァァァッ!! 何この子何この子何この子何この子!! メチャクチャ可愛いんですけどぉっ!? メッチャ嬉しいんですけどぉぉぉぉぉぉっ!?
あぁ!? 手を繋いだくらいでハシャギ過ぎだとぉっ!?
ほっといてくださいぃぃぃっ!! こんな超絶美少女の手を握って、'嬉しい'とか言われた経験皆無なんですぅぅぅぅっ!! 女の子と手を繋いだとか、十何年ぶりの快挙なんですぅぅぅぅっ!!
・・うぅ。我ながら、童貞拗らせまくってんなぁ。
あ、いかんいかん。狐耳ちゃんの名前だ、名前。思考が脱線しまくってた。狐耳ちゃんのせいにしとこう。人の指先なんぞを摘まむからだ。
さて、名前、名前・・何かと関連付ける感じで・・・
あ、そういや、結婚式で使われてる花の花言葉って、確か、『幸福』だったよな。花の名前がラナンキュラスだったっけ?
友達の結婚式で意気投合したおっちゃんが教えてくれたんだよな。奥さんが花好きで、花言葉付きの花束を結婚記念日に毎年贈ってるとか言ってたっけか。
ラナンキュラスだと長過ぎるし、まんま過ぎだから・・ラナン。
うん。いいんじゃね? 響きも悪くないし、花言葉を由来に考えたら、これからのこの子の未来も明るくなるかもだし。
「よし。決めた」
狐耳ちゃんの方に顔を向けると、狐耳ちゃんも俺の方に顔を向けてくる。
「ラナン。君の新しい名前はラナンだ」
「ラナン・・」
呟くように復唱しながら視線を前に向ける狐耳ちゃん。
「ラナンキュラスって名前の花があってな。花言葉が[幸福]なんだよ」
俺の解説に、狐耳ちゃんはバッと俺の方に振り返って、足を止める。俺も足を止めると、狐耳ちゃんは俺を見つめてくる。
「これからやってくる未来が、明るく幸せに満ちたものであることを願って、な。どうだ?」
そう言うと、狐耳ちゃんはまた目から涙を溢し始めた。そして、涙を拭おうともせずに、何度も頷く。
「よし。んじゃ、君はこれからラナンだ」
膝を着いて、ラナンと目線の高さを合わせてやる。
「ラナン。何回も言うけど、君のすべては俺のもんだ。ラナンの感じる幸福も不幸も、何もかもだ。だから、できるだけ幸せになってくれよ? そうすりゃ、俺はその幸せを自分のモンにできるんだ。遠慮なんかしないで、躊躇い無しの全力で、名前に負けないくらいに幸せになれ。それが俺の為だ。いいな?」
そう言うと、ラナンは溢れる涙の量を増やしながら、何度も何度も頷いた。僅かに頬を緩ませながら。
ラナンが泣き止んでから、再び歩き始める俺達。ラナンの手はガッチリと俺の手を握ってる。
うん。喜んでもらえて何より。でも・・・
超ハズイんですけどぉぉぉぉっ!?
ラナンには幸せになってほしいよ!? 死ぬのを前提にするような物の考え方は、即行で駆逐したいですよ!?
でも、だからって、さっきのはダメだろぉぉぉぉっ!! ぬぁぁぁにが'それが俺の為だ'だよ!? 凶悪面した人外に許される台詞ぢゃないだろぉぉぉぉっ!!
あぁ、もう・・勢いでカッコつけ過ぎた・・・暴れ回って羞恥心を誤魔化したい。それか、地中深くに沈めてほしい・・・




