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超絶美少女がこんな境遇って、おかしくね?

それから少しして、狐耳ちゃんは泣き止むと俺の腕から降りて、俺の背後に視線を向けた。


「ん。もういない。多分、不利を悟って逃げた」



どうしたのかと思ったら、さっき言ったお願いを聞いてくれたのね。何かいるのかと思った。



「物影に隠れて隙を窺ってるとかは? なさそ?」

「ん。いない。この城の中にもう臭いが残ってない」

「臭いときたか。嗅覚鋭いのな」

「ん。でも、狼人族や犬人族には負ける」

「ほぉ。そういう種族もいるのか。まぁ、それはそれとして、君はこれからどーすんの?」

「・・・喋り方、主達に対するときと全然違う。どうして?」


こっちの質問をガン無視した返しに、思わず、肩をコケさせてしまう。



なかなかにマイペースな子なのな。まぁ、狐ってどっちかってーと、性質が犬じゃなくて猫よりだって話聞いたことあるし、狐人族もそーなのかね?



「こっちが素だよ。実感ないけど、魔王らしいから魔王っぽくしてみただけ」

「ん。納得した」

「んで、君はこれから「魔王の名前、教えてほしい」・・」


俺の言葉を遮るようにして狐耳ちゃんが重ねてきた質問に、俺は首を傾げる。



なんだ? なんか、必死? 表情変わらんから、よく分からんけど。まぁ、いいか。



「俺の名前か。名前・・・あれ?」



俺の名前、なんだっけ? ここで目覚めてからは名付け親とかもないからともかくとして、前世の方では名前があった筈・・ゲームとかアニメとかラノベのタイトルは出てくんのに、自分の名前が出てこねぇ。記憶に残る基準、おかしくね? まぁ、俺らしくはあるけど。



「我輩は魔王である。まだ名前はない」

「ん。それもそうだった。魔王はまだ生まれたばかり」


納得したように首肯する狐耳ちゃん。



うむぅ。正統派文学作品からパク・・もとい、インスパイアしたネタをスルーされると泣きたくなるな。なんか、無理して知的に振る舞って、モロ滑りしました~的な感じがして。異世界で通じるワケねーんだけど、硝子のハートが砕けそう。



そんなことを考えてると、狐耳ちゃんが俺の小指の先を摘まむように握ってきた。



な、なんでせう? 女の子と手を繋ぐとか、小学生以来だからなんか妙に動揺するんですが。あと、女の子からとか人生初。小指の先だけとか、遠慮がちな感じがしてべりーぷりちー。



「名前がまだないなら、とりあえずは魔王と呼んでいい?」

「ん、あ、ああ。他に呼び方も思い付かないしな」


動揺が表に出てきて、吃り気味な俺。



落ち着け? 手を握られた、っつーか、指を摘ままれただけで、この心拍数の上昇率はヤヴァイ。童貞臭すぎる。


あ、童貞だったわ。って、喧しいわ!! ほっとけ!!



俺の動揺も、当然ながら、内心の落ち着く為のセルフ三文芝居も完全にスルーされて、狐耳ちゃんが口を開く。


「魔王は、さっき、私に'超絶美少女'と言ってくれた。アレは、私が魔王好みの外見をしていると解釈してもいい?」


狐耳ちゃんの言葉に、思わず、目を逸らしてしまう。ついでに、顔が赤くなるのも自覚する。


「いや、あの、確認しないでくれる? スッゲェ照れ臭い上に恥ずかしいんだけど」

「そんなこと、私は言われたことがない。だから、どういう意味なのか知りたい。これは重要なこと」


やたらと真剣な顔をして言う狐耳ちゃん。



う、うむぅ・・これは、ちゃんと答えなきゃならん感じだな・・なんか、スッゲェ真剣だし。



「分かった。真剣みたいだし、ちゃんと答えようか。ただ、非常に恥ずかしい上に照れ臭いので、君の目を見ながら答えるとかはマジで勘弁してください。照れ隠しに何するか分からんのですよ」

「・・何をしてもいい。だから、きちんと答えてほしい。これから私がする交渉の為に必要なことだから」

「・・交渉? それなら、別に聞く必要ないんでない?」

「どうして?」

「君のお願いなら、何でもオッケーだから。まぁ、俺にできることならって注釈付きにはなるけど」

「・・どうしてそうなる? 私が本当に魔王好みの外見をしているなら、私の体を好きにしてもいいという条件で交渉するつもりだったのに」

「ブフゥッ!? 何を突然仰りやがりますかね!? この狐耳超絶美少女様は!?」

「やっぱりいらない?」

「いや物凄く欲しいけどね!? って何を口走ってんの俺ぇぇぇぇぇっ!? 今の無し!! 忘れろください!!」

慌てまくる俺を見て、狐耳ちゃんは俯いてしまう。

「いやだから本気で何も見返りとか求めないから!! 何でも言って!? 全力で対応するから!!」

「・・でも、私には他に交渉材料にできるものがない。私は魔王を殺す為にここに連れてこられた。実際に、魔王を後ろから刺した。あまり刺さらなかったけど、絶対に痛かった筈」


俯いたままで言葉を紡ぐ狐耳ちゃん。



いやまぁ、確かに痛かったけど。傷口グリグリは、傷が浅かろうか深かろうが、物凄く痛い。知りたくなかったトリビアが追加されちったなぁ。



「なのに、魔王はそんなことを言う。信じられない」

「つ、都合が良すぎるから?」


俺の問い掛けに、コクッと首肯する狐耳ちゃん。



ん、ん゛~・・言ってることは分かるんだけど、だからって'じゃあ、体を好きにさせてもらう'ってのは余りにも外道過ぎるし・・・


あ、そっか。別に、エロイことしなくちゃいけないワケでもねーじゃん。耳と尻尾触らせてもらって、対価はもらったことにすりゃ狐耳ちゃんも納得するだろ。


・・・あとで、紳士ぶったことを死ぬほど後悔しそうな気はするけどな!! 布団の上で悶々とする自信がある!!


でもまぁ、それが1番丸く納まるか。俺の欲望的な後悔を除いて。



「なるほど。分かった。じゃあ、ちゃんと答える。モロに俺の好みドストライクです。お持ち帰りして、そのまま嫁にしたいくらい。好きにしてもいいってんなら、メチャクチャ張り切って何でもするぞ?」


俺の言葉に、狐耳ちゃんは顔を上げて真っ直ぐに見つめてくる。尻尾がゆらゆら揺れてるのが、これまた超絶可愛い。



ぅおのれぇ・・メチャクチャハズイじゃねーか。その尻尾、耳と一緒に思う存分愛でて愛でて愛で倒してやる。



「本当に?」

「大マジでだ」

「ん。じゃあ、私からの頼み。魔王の力で隷属の首輪を引き千切ってほしい」

「・・はぃ? えと、その首輪って、外そうとしたら首が締まるんじゃなかったっけか?」


俺の問いに、コクンと頷く狐耳ちゃん。


「それ、死ぬだろ」

「ん。失敗すればそうなる。だから、実行前に私の体を好きにしていい。前払い」

「いやいやいやいや。無理。君を死なせるようなことはしたくない。言ったろ? 何が悲しくて殺さなくちゃいけないんだって。絶対に嫌。無理」

「でも、それだとまたアイツが戻ってきたら、私は魔王を攻撃しないといけなくなる」

「いいよ、それで。君に刺されても死ぬことはなさそーだし」

「良くない。それだと、私は魔王の傍に居られない」

「・・・ここに残りたいのか?」

コクンと頷く狐耳ちゃん。

「マジで? こんな不気味なトコに? 薄暗いし、他に誰もいないし、何故か稲光と雷の音のオプション付きだぞ? 寝るトコあるかどうかもまだ分からんし」

「平気。いつも寝る所は宿の軒先か馬小屋。外で寝てると、たまに欲情した純人族が襲ってくるから、誰もいない方が安心」

「ちょい待ち。君、あの自称勇者と一緒にいたんだろ? それがなんで外で寝てたらって話が出てくる?」

「夜伽の相手を拒んだら、メチャクチャに殴られて無理矢理にされそうになった。でも、全然入らなかった。それ以来、私だけ外で寝ることになった」


狐耳ちゃんの話に、俺は自分の耳を疑った。



自称でも'勇者'だろ!? あのクソ野郎!!



「・・分かった。でも、やっぱり君を死なせたくない。だから、試せることを試せるだけ試してからでいいか?」

「ん。でも、優しくしてほしい。アイツにされそうになったときは痛くて堪らなかった」

「試すってそっちじゃないからな!? 首輪を引き千切るのを確実に上手くいかせる為に、色々試したいって意味だからな!?」


狐耳ちゃんの言葉を慌てて全力否定する俺に、何故か首を傾げる狐耳ちゃん。


「そうなの?」

「そうです!」

「でも、死んだら何もできない。魔王は死体の相手の方が「死なせないって言ってんの!!」え?」


自分の言葉を遮って叫ばれた俺の言葉に、キョトンとした顔をする狐耳ちゃん。



そこで不思議そうな顔すんなよ!? もう、死ぬの前提じゃねぇか!! 巫山戯んな!!



「・・君の体を好きにしていいって言ったよな?」


コクッと首肯する狐耳ちゃん。


「掛かる手間に対して、報酬が体だけじゃ足りん。全部を貰う」

「え?」

「君の心も体も、生も死も、全部俺の物だ。だから、勝手に死ぬのは許さん。俺が死ねって言うまで、何が何でも生きろ。泥を啜ってでも、他の何を犠牲にしてもだ! ついでに、淡々と死ぬのを前提にするようなその性根も叩き直してやる!! アホみたいに笑わせて! 美味い物死ぬほど食わせて! ふかふかのベッドでグッスリ寝て! 簡単に死ぬことが受け入れられなくしてやる!! それが、君の首輪を外してやる為の条件だ!! この条件が受け入れられんっつーなら、手足拘束して無理矢理従わせてやる!! 魔王相手にマトモな交渉が通じると思うな!!」


怒りの余りに、全力で吼えた後、ゼェゼェと肩で息をする俺。狐耳ちゃんは、目を真ん丸に見開いて、口を半開きにしてる。


薄暗い中にあってもハッキリ分かる綺麗な金色の瞳から、大粒の涙を溢しながら。



「・・どうする? 条件飲んで大人しく従うか、手足拘束されて無理矢理に従わせられるか、好きな方選べ」


そう言うと、いきなり狐耳ちゃんが抱きついてきた。


「ん・・従う。私の全部は魔王のもの」

「よし。いい子だ」


涙を溢しながら抱きついている狐耳ちゃんの頭を、できるだけ優しく撫でてやる。


「・・魔王は言うことが無茶苦茶。こんなの、交渉じゃない」

「言ったろ? '魔王相手にマトモな交渉が通じると思うな'ってな」


コクコクと何度も頷く狐耳ちゃん。



ん~・・確かに、我ながらメチャクチャ言ったなぁ。交渉じゃなくて脅しだし。腹立ち紛れとはいえ、こんな横暴が自然と口から出てくるって、俺ってば、実は魔王の素質あり? それとも、人外に体に転生した影響?


まぁ、どっちでもいーか。




さぁて、この強靭な肉体で、今度は理不尽を撒き散らしてやるとしますか! 狐耳ちゃんを虐げた純人族とやらに、虐げられる側の気持ちってヤツを教えてやろうじゃねぇか!!

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