生まれたばかりなのに、これっておかしくね? 2
「「「なっ!?」」」
自称勇者達の驚きに満ちた声が響いた。
煙が薄れて見えてきた俺が、平然と立ってるのに驚いたんだろーな。さっきから余裕綽々で、狐耳ちゃんの悪口と魔王にトドメ刺した後の話しかしてなかったし。
さて、せっかくだから、魔王っぽい感じにイってみますかね? 中盤の中ボスとかヤだし。
「この我を前にして、あのような児戯を見せた後に歓談とは、随分と余裕ではないか。矮小なる人風情が」
「な、なんだと!?」
激昂する自称勇者の膝を、高速で伸ばした爪で貫いてやる。
「グアァァァァッ!?」
「頭が高いぞ。跪け」
爪を抜くと同時に、自称勇者が痛みに膝を着く。
「「ラガル様!?」」
「おのれ! 魔おオ゛ォ゛ォ゛ォ゛ッ!?」
俺を睨み付けてきたクレルとかいう巨乳茶髪の膝も同様に貫いてやって、強制的に膝を着かせる。それから、最後に残ったラターシャに視線を向ける。ビクッと体を震わせるラターシャ。
「聞こえぬか? 跪け。頭が高い」
「グッ。何をしてやがる!! 狐人族!! 魔王の注意を逸らせ!!」
脂汗が光の玉に照らされてる自称勇者が叫ぶと、後ろで狐耳ちゃんが立ち上がる音がする。
えぇ~・・体張って守ったのに、あんな好き勝手言ってた自称勇者の言うことに従うのかぁ? そーですかそーですか。そんなにイケメンがいーんですか。ケッ。あのクソイケメン、全身穴だらけにしたろーか。
「ごめん、なさい・・殺して」
やさぐれたことを考えてた俺に、震えた掠れ声が届いた。
「やれぇぇぇぇっ!!」
自称勇者の追加の叫びが上がって、俺の背中に硬い物が突き立てられた。
「・・・どう、して・・・?」
背中に僅かに刺さった剣先が震える。
ちょびっと痛い。
嘘!! メッチャ痛い!! 傷口グリグリしないで!? あんまり刺さってないっぽいけど、痛いから!! 震えてたら傷口グリグリで超痛いから!!
[ガランガランッ]
俺の背中から剣先が抜かれて、そんな音がした。
「アグゥッ!?」
「へ?」
突然上がった呻き声と何かが倒れる音に、我ながら間の抜けた声を洩らしながら振り返る。
そこには、首輪に両手の指を掛けて苦悶の表情を浮かべながら、床に倒れた狐耳ちゃんがいた。
「オイ!?」
慌てて狐耳ちゃんを抱き起こすと、荒い息を立てつつも、苦しそうだった表情を緩める狐耳ちゃん。
なんだってんだ? とてもじゃねぇけど、演技には見えねぇんだけど。これが演技だってんなら、アカデミー賞主演女優賞も真っ青だぞ。
「ハァハァ・・どうして、殺さなかった?」
「いや、殺すとか有り得んし。何が悲しゅうて、君みたいな狐耳超絶美少女を殺さにゃならんのだ。ってか、大丈夫か?」
俺の言葉に、何故か戸惑った顔になる狐耳ちゃん。
あ、勢いで本人前にして'超絶美少女'とか言っちった。ハズイ。
「・・私、狐人族」
「らしいな。そう呼ばれてたし。そういう種族名なんだろ? 名前とは思えんし」
「・・使い捨ての奴隷」
「はぃ? 誰が?」
「私」
俺の腕の中で大人しくしつつも、困惑顔した狐耳ちゃんから目を逸らして、高い天井を見上げる俺。
使い捨て? こんな超絶美少女が? 奴隷?
ダレノ? アノ ジショウユウシャノ?
感情が闇よりも暗い深淵に飲み込まれてくのを感じる。こめかみが勝手にピクピク動く。眉が吊り上がってくのを抑えられねぇ。
美少女2人も侍らしといて、さらにはこんな狐耳超絶美少女を奴隷にしてるだぁ? ファンタジー世界の奴隷って、アレだろ? 主人の命令には絶対逆らえなくて、夜のお世話まで好き勝手にできちゃうアレだろ?
羨まけしからぁぁぁぁぁんっ!! こちとら'魔法使い'まであと5年ってトコまで童貞街道突き進んで、明るい未来の欠片も見えてないってのに、こんな超絶美少女相手に毎夜毎夜のフィーバー祭りですか!?
マジデ コロス!!!
「アグッ!?」
自称勇者達の方に振り返ろうとすると、腕の中の狐耳ちゃんから呻き声が上がり、慌てて視線を戻すと、狐耳ちゃんは首輪に両手の指を掛けていた。
もしかして・・さっきの自称勇者の命令のせいか?
〈注意を逸らせ〉
確かにさっきそう言ってた。だから、俺があの野郎の方に意識を向けようとしたら、'命令に従ってない'、もしくは、'従おうとしてない'って扱いになって、この首輪が締まる?
胸糞悪ぃ。奴隷を縛る魔法の首輪ってのはラノベじゃ定番だけど、実際に見ると、とんでもなく胸糞悪いぞ。
「大丈夫か? 状況はなんとなく理解した。この首輪って、無理矢理取ったらマズかったりするか?」
俺の問い掛けに、今度はキョトンとした顔をする狐耳ちゃん。
ちょっ! そんな可愛い顔しないで!? このままギュッてしたくなるから!! お兄さん、結構我慢してるんだよ!?
「・・隷属の首輪は解呪の鍵がないと、絶対に外れない。無理矢理外そうとしたら、首が完全に締まる」
狐耳ちゃんの答えに、思わず眉間に皺が寄ってしまう。
「むぅ・・首にピッチリハマってるから、切るのも無理だしな・・・タチの悪い・・ん? それにしても、さっきから自称勇者とその連れのクソビッチ共が静かだな? 悪い。俺が見ようとしたら、多分また首輪が締まるだろうし、ちょっとどうなってんのか見てくれないか?」
「・・どうして、庇ってくれる? 私は貴方を殺す為にここに連れてこられた。命を狙った敵。それに、貴方は魔王の筈・・優しい魔王なんて、聞いたこと、ない・・」
「そう言われてもな・・あのクソ野郎が言ってた通り、俺はホントについさっき生まれた?ばっかりなんだよ。だから、本気で何も知らないんだ。しかも、目が覚めたら、もうこのサイズ。赤ん坊の時期がない上に、親らしき奴もいないのに'生まれた'って言われても違和感バリバリだし。これ、'生まれた'ってよりは'発生した'って感じじゃね? やだ、それじゃ俺ってば虫みたい。やっぱり'生まれた'でよろしく」
いいながら、無意識に狐耳ちゃんの頭を撫でてしまってた。ふわふわの狐耳ごと。
あぅ・・やっちまった・・片腕で抱き抱えられるせいで、空いた方の手が勝手に動いたんたんです!! わざとじゃない! わざとじゃないんだ!!
心の内で言い訳しつつ、撫でる手を離そうとして気付いた。
狐耳ちゃんが撫でられて気持ち良さそうに目を細めてる!! 尻尾がゆらゆら揺れてる!!
これは、撫でててもオッケーってことではないでしょうか!? どう見ても嫌そうに見えないし!! 逃げようともしないし!! 俺の顔、意外と実は怖くない系!? もしくは、まさかまさかのイケメン!?
「・・変な魔王。もう何百人も殺してそうな凶悪な顔付きなのに・・・」
はいっ! 違いましたぁぁぁぁっ!! 連続殺人犯も真っ青なレベルの凶悪面確定!! 〈何百人も殺してそう〉ってどんだけだよ!? お兄さん、泣いちゃうよ!?
「なのに・・目がとても優しい。暖かい目・・そんな目で見てくれた人、いない。こんなに、優しく、撫で・・られ・・・」
言葉を途切れさせた狐耳ちゃんの金色の瞳から、透明な滴が溢れ出してきた。
・・えっと・・・これは嬉し泣き、ってことでいいんだよな? っつーか、凶悪面した人外に撫でられて泣く程喜ぶって、どんな過酷な環境で生きてきたんだ? この子は。
「ん。よしよし」
そう声を掛けると、狐耳ちゃんは自分を支える俺の手を恐る恐る指先で触れてきた。凶悪な笑みになってないことを祈りつつ、笑いかけてやると、その手を上からギュッと握ってきた。
ん~・・見た目は16か17歳くらいなのに、こういう反応されると、ちっさい子を誑かしてるアブナイ人な気分になってくなぁ。可愛らしくていいんだけど、こうチョロい反応されると、この子の将来が非常に心配です。
しっかし、自称勇者とクソビッチの2人は本気で静かだな? 背中から斬りかかってくるくらいしてきてもおかしかない勢いだったのに。
まさか、逃げたか? この子を見捨てて? あぁ、それで'使い捨ての奴隷'ってことか・・・
あ゛ぁ゛~っ! 胸糞悪ぃっ!!
よし。決めた。
あんなのが勇者だとか持て囃されるような国だってんなら、魔王らしく蹂躙してやろうじゃんか。こんな超絶美少女を蔑ろにするような輩に生存権は必要無し。
それに、生まれたばっかりの俺をいきなり殺そうとしやがったしな。借りはキッチリ倍返ししてやる。いまいち実感ないけど、俺は魔王らしいし、思うがまま我儘に生きてやる!!
あ、じゃあ、亜人って呼ばれてる子達も、いい子は軒並み俺の保護下に置いてやろ。狐耳ちゃんだけが奴隷だなんて有り得る筈ないからな。クレルとかいうのが狐耳ちゃんを指して、〈これだから亜人は〉とかって吐かしてやがったしな。
いずれはケモミミ美少女が視界を埋め尽くして・・でゅふふ。それどんな天国? 煩悩まみれでサーセン。




