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生まれたばかりなのに、これっておかしくね? 1

自称勇者とやらの余りにも一方的な宣言と、3人もの美少女を引き連れているという目の前の現実に、一瞬で俺の心がドス黒い感情で埋め尽くされる。


「素敵・・ラガル様・・」

「生まれたばかりの魔王なんて、ラガル様の敵ではありませんわ・・」


自称勇者の両隣に立つ美少女2人がうっとりとしたような表情でそんなことを言った。



ナニ? コイツ・・・コロシテイイヨネ?



心を埋めたドス黒い感情が、闇よりもさらに暗く黒く染まっていくのを感じる。




女性に縁無し、年齢=独り身の25歳だった俺。高校、大学と好きな人ができてデートに誘ったり告白したりと頑張ってみても、フラレ続けて、大学を卒業する頃にはもう諦めてた。


楽しみは、仕事後の1人居酒屋と、ラノベ・アニメ・ゲームの俺的三種の神器のみ。


そんな人生のオチは、冬のホームのベンチで爆睡したせいで凍死(推測)。



んでもって、気が付きゃ、不気味なトコで人外の体。


混乱してたら、美少女3人も引き連れたイケメンの自称勇者がいきなり、'倒す'ときたもんだ。



しかも、3人の美少女の内、何も言ってない最後の1人は、女優とかトップアイドルが裸足で逃げ出すレベルの超絶美少女。


しかも!! 狐耳っぽいケモミミとふさふさの尻尾まで生えてんだぞ!? オタク心擽りまくりじゃねぇか!!




こんなの、殺意とか敵意とか妬みとか、そういう諸々が濃縮された感情で心が真っ黒になるのは当然!! 異論は認めん!!




「ふっ。どうやら、俺を恐れて言葉もないようだな! 安心しろ! いたぶる趣味はない!! 即座にあの世に送ってやる!! 狐人族!! まずは隙を作り出せ!!」


自称勇者は、淡い光を放つ大剣を鞘から抜き放ちつつ、そんなことをはざきやがった。自称勇者が言い切ると同時に、狐耳超絶美少女が小剣を抜きつつ、単身で俺に向かってくる。


「はぁぁぁぁぁっ!? こんな超絶美少女に1人で突っ込ませて、隙を作れとか、テメッ、マジで巫山戯んなよ!?」


怒りの余りに、十指すべての爪を自称勇者に向かって全力で伸ばしてやる。無論、狐耳超絶美少女は怪我をさせないようにきちんと避けて。

狐耳ちゃんは何故かポカンとした顔して立ち止まってくれたから、間違って怪我させる心配はなさそうで一安心。


「なっ!?」


自称勇者が驚きの声を上げた直後に、何かを貫く感触と何か硬い物に突き刺さる感触とがそれぞれの爪先に伝わってくる。


「ガッ!?」


その感触と同時に、自称勇者の口から何とも言えない声が洩れる。それでも伸び続ける爪が光の玉が照らす範囲から自称勇者を押し飛ばして、金属が硬い物に当たる鈍い音が響いてきた。



うげぇ・・これ、腕だか脚だかを刺しちまったんじゃねーの? 感触が最高に気持ち悪ぃ・・



・・・ん? モロに人を刺したってのに、'気持ち悪い'だけ? おかしくね? 普通、もっとこう、罪悪感やら何やらがあるような気がするんだけど・・俺ってば、まさかサイコパスだった?


いやいやいやいや。仕事とは言え、おもいっきり殴りたくなるような客が来ても、精々がスタッフ同士で愚痴を溢すくらいしかできなかった俺がサイコパスってのはないだろ。酒と煙草はちょっと法律違反な年齢からやってたけど、精々がその程度の悪いことしかできねー小心者がサイコパスだったら、世の中もっと乱れとるわ。


ってことは、これ、人外に転生したせいで、精神的なモノが変質してる?



うそん。見た目は人外でも、中身はフツーの人間なつもりだったのに。



・・・ま、いーか。元の法律やら倫理観やらがファンタジーに通用するワケねーんだし。デッカイ剣持って、いきなり人(もう'人'じゃなさそうだけど)を殺しにかかってくるよーな自称勇者が、あんな美少女達にうっとりした顔されてんだもんな。狐耳ちゃんも躊躇いなくこっちに向かってきてたし。


いや、でも、最低限の倫理観は維持しよう。甘いこと言って、むざむざ殺されるつもりなんかねーけど、〈俺は人間をやめるぞぉっ〉なノリでいたら、最後はオラオラされて日光で灰にされそーだし。いや、この体が日光で灰になるのか知らんけど。


「ラッ、ラガル様!?」

「くっ!? 生まれたばかりの魔王じゃなかったの!? ラターシャ! ラガル様の治療を! あたしが足止めする!!」

「りょ、了解ですわ!」


ラターシャと呼ばれた金髪爆乳美少女が、自称勇者(名前でなんて呼んでやらん)が飛んでいった方へと足を向け、もう1人の茶髪ロングヘアーな巨乳美少女が、手に持っていた杖を掲げる。


をぅ? もしかして、魔法? 魔法ですか!? ここは剣と魔法のファンタジー世界ですか!?


「《猛き炎よ。我が魔力によって現出せよ。不浄なる我が敵を焼き尽くせ》」


おぉっ!? 詠唱だ!! 魔法の詠唱だぞ!! スッゲェ!! マジだよ!!


って、喜んでる場合じゃねぇっ!! 俺の頭くらいのサイズの火の玉が出てきてんじゃねぇか!! あんなモン喰らったら死ぬ!!


「【火炎弾】!!」


茶髪巨乳美少女が吼えると同時に、頭サイズの火の玉からいくつもの拳サイズの火の玉が、椅子から腰を上げて逃げようとしてた俺に向かって飛んでくる。


途中にいる狐耳ちゃんを巻き込む軌道で。


それに気付いた俺の体は、突き動かされるようにして駆け出し、一瞬で無数の火の玉と狐耳ちゃんとの間に割り込んでいた。


「え?」


呆けたような可愛い声が聞こえた気がした瞬間、何発もの火の玉が俺の体に着弾してくのを感じた。



うぁ・・〈ピッ○ロさぁぁぁんっ!〉とか叫ばれそうなシチュだな、これ。狙ってたワケじゃねーんだけど。

ハゲの口から発射された怪光線じゃなくて火の玉だし、庇ってるのは弟子みたいなライバルの息子じゃなくて敵側の狐耳超絶美少女だけど。



ってか、こんなアホなこと考える余裕があるんですけど? この火の玉、あんまり痛くないな? 中学の頃に会った親戚の3歳くらいの子どもがじゃれて叩いてきてたときくらいの威力だぞ、これ。熱めの風呂の湯くらいの温度しか感じないし。



これ、完全に見かけ倒し?




やーだー! そんなのを必死になって庇いに出てきたの!? 俺ってば!! ハーズーイィィィィッ!!!! どっかのトラックに轢かれたって勘違いして心臓麻痺で死んで転生した最弱職な人より恥ずかしいんですけどぉっ!?




少しして、火の玉の連射が止んで、爆煙に包まれる俺と狐耳ちゃん。


「あ、あぁ・・」


背中の方から、戸惑ったような声が聞こえた。けど、恥ずかしくてとてもじゃねーけど、そっちが見れねぇ。



くそぅ。〈なに必死になっちゃって庇ったりしちゃってんの? 仲間を巻き添えにするような攻撃する筈ないじゃん。バッカじゃないの?〉とか思われてんだろぉなぁ。


そーだよ。いくら何でも、仲間を巻き添えにするよーな足止めがあって堪るかっての。少し考えりゃ分かりそーなモンを・・



そんなことを考えて、煙の中で羞恥に悶えてたら、ガチャガチャと金属同士が擦れて当たるような音が部屋の中に入ってくるのが聞こえた。


「すまない。クレル。油断した」

「ううん。仕方ないわよ。あの狐人族、ボケッと足を止めたりして、何考えてたのかしら。まったく。これだから亜人は使えないのよ」

「まったくです。ラガル様からの命令ですのに。それで、魔王は?」

「最上級の火炎魔法を叩き込んでやったから、ダメージは確実よ。手応えもバッチリ。なんでか、あの狐人族のメスを庇うみたいに前に出てきたから、余計なのを挟まないで済んだしね」



ふぁっと? 何ですと?



「そうか。なら、あとはトドメを刺すだけかな。クレルはこの国最高の魔法使いなんだ。その魔法をモロに喰らったなら、如何に魔王とは言え、生まれたばかりなら致命傷は確実だ」

「まったく動きもないし、もしかして、倒しちゃったかしら?」

「ははは。だとしたら、今回、俺はいいトコ無しだな。まったく。生まれたばかりの魔王だからって油断はしちゃいけないな」

「いいえ。今回はすべてあの狐人族のメスが悪いのですわ。ラガル様の作戦を無駄にするなんて、許されざる暴挙、いえ、この上ない愚行ですわ」

「ま、魔王と一緒に焼け焦げてるでしょーけどね~」



いやいやいやいや。全然平気なんですけど? え? 最上級の火炎魔法っつった? しかも、あの巨乳茶髪が国最高の魔法使い?


ってーことは、さっきの豆鉄砲みたいな魔法は、実はスゲェ威力で、この体が物凄い丈夫なだけ、とか?


って、ことは狐耳ちゃんは!?



慌てて振り返ると、床にヘタり込んでる狐耳ちゃんの姿が見えた。煙は収まってないけど、間近にいたから何とか視界に入ってくれたみたい。


「大丈夫か?」


狐耳ちゃんの傍で膝を着いて、自称勇者達に聞こえないように小声で問い掛けてみる。狐耳ちゃんはビクンッと体を震わせて、恐る恐る俺を見上げてくる。



かぁぁぁぁわいいなぁぁぁぁっ!! 間近で見ると、マジでメチャクチャ可愛すぎなんですけどぉっ!? あぁ~っ!! その耳と尻尾、モフらせてくんないかなぁっ!?



「・・ど、どう、して?」

「ん? 何が?」

「・・どうして、私を庇って、くれた?」


目を潤ませて問い掛けてくる狐耳ちゃんに、辛抱堪らんくなる。そ~っと手を伸ばして、頭に手を置く。すると、ビクッとなって体を強張らせるものの、その手を払い除けようとはしない狐耳ちゃん。



これは撫でていいってことですよね!? 撫でるよ!? もう辛抱堪らぁぁぁぁぁんっ!!



今の俺の力がどんなもんか分からないから、痛くしないように細心の注意を払って、そのまま頭を撫でてみる。何気無く、狐耳も一緒に。



にゅはぁぁぁぁっ!! 堪らん感触!! ふわふわしてんだけど!! 撫でられて、目を丸くしてるのがまたとんでも可愛いんだけど!! こんな子巻き添えにしようとするとか、あの巨乳茶髪め!! いくら顔が良くても、性格悪けりゃ何の意味もねぇっ!!


あ、'ブスでも性格が良かったらいい'なんて綺麗事は言いませんよ? 綺麗・可愛い方が嬉しいに決まってんじゃん。相手の容姿をどうこう言えるようなルックスじゃございませんがね!!


あ、でも、それは前の話か。今の俺がどんな顔してんのか、鏡ないから分かんねぇし。

あ゛・・・ってぇことは、だ。もしかしたら、'THE 化物'な感じの顔な可能性もあるワケだよな? そんな顔してる奴が、狐耳超絶美少女の傍で膝着いて、頭を撫でてニヤケてるとか・・・


あかん!! 捕食者と披捕食者にしか見えん!! ここは安心させてやらねば!!



「体が勝手に動いたんでな。安心していい。君には手を出したりしないから」


言いながら、撫でていた手を頭から離す。



あぁ、至高の感触が・・・ぐっばい、狐耳。



「怪我はないか?」

「え、あ・・」


若干混乱してるみたいだけど、コクンと頷く狐耳ちゃん。



そんな仕草も超絶可愛いなぁ!! オイ!!


ハッ! いかん! このまま眺めてたら、また衝動的に頭を撫でちまいそうだ!?



狐耳ちゃんに見惚れてたい欲望をなんとか自制して立ち上がり、再び自称勇者達の方に向き直る。


煙も薄まってきた。あの自称勇者と巨乳茶髪と爆乳金髪、3人まとめてお仕置きしちゃる。


こんな可愛い狐耳ちゃんに1人で敵に突っ込ませたり、まとめて焼こうとしたり、その上、蔑むようなことを好き勝手に言いやがって。


幸い、この体はかなり丈夫みたいだし、動きもビックリするくらいに速い。そうなりゃ、この太い腕と脚が見かけ倒しってのは考えにくい。爪も金属の鎧にブチ当たってたっぽいのに、欠けたり折れたりもしなかったし。っつーか、手応え的には、鎧を貫通したっぽいし。



全員、ブチのめしてやる。




・・・なんか、俺、魔王らしいのに、勇者(自称)に物理で攻撃ってどうなの? 全然魔王っぽくないよ? 中盤の中ボスっぽくね?

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