魔王らしいのに物理特化って、おかしくね? 4
ラナンの待つ場所から、全力で駆け出して、ほんの十数秒で街の入口に到着。豪速に引き連れられた風が、入口に並ぶ奴らをよろめかして、視線を一気に俺へと集めさせた。
「な・・なんだぁ?」
「亜人、じゃないのか? こんな亜人、見たことないが」
「どこから出てきやがったんだ?」
「チッ。砂埃で服が汚れちまったじゃねぇか。オイ!! そこの亜人!! この大商人、アズカペッ!?」
怒鳴り声を上げながら俺に詰め寄ってきた大商人とやらの頭の上半分が吹き飛んで、周囲に鉄臭い液体と赤黒く柔らかな物体とを撒き散らした。
俺が額にデコピンを喰らわせたせいで。
その状況が理解できないのか、一瞬、その場が静まり返った。そして、次の瞬間には、その場に居合わせた全員から恐怖の悲鳴が上がる。そして、我先にと街の門へと殺到していく。
・・大商人、脆過ぎだろ。デコピンで頭が汚い花火になるとは思わんかった。
それにしても、純人族ってのはコイツらのコトだよな? 前世の人間と同じよーな感じで、変わった特徴がねーし。
それを結構無惨な殺し方したってのに、な~んも感じないのな。指が汚れたってくらいだ。完全に精神が変質しとるなぁ。殺しを楽しんだりしないようにだけは本気で気を付けよう。気付いたら快楽殺人者になってたとか、ゾッとする。
ラナンに言われてたのとは違う方向で気合いを入れ直してから、その場でグッと膝を折り、全力で地面を蹴って大きく跳び上がる。空中で大きく息を吸い込み、街の外壁の上に着地。
それから、吸い込んだ息をすべて大声に変えて空気を震わせる。
「聞け!! 愚鈍なる人種族共!! 目覚めたばかりの我に、勇者などという暗愚な輩を差し向けた罪!! まずは、我に歯向かう愚か者共の地肉を持って贖ってもらう!! その結末を焼き付けて、己の愚かさを悔やむがよい!!」
をぅ。思ったよりもスゲェ声が出た。その辺の家の窓とか割れてたぞ。肺活量も声量も異常なのな、この体。
「ゆ、勇者様がって、まさか!? アレ、魔王なんじゃ!?」
「馬鹿言うな!! 勇者様達が向かわれたんだったら、いくら魔王とはいえ、発生したばかりで勇者様達に敵うもんかよ!!」
「動揺するな!! アウトリア教会の神託を悪用する不敬者に決まっているだろうが!! 警護兵隊!! あの高い所で進んで的になっている不敬な愚か者を撃ち落とせ!!」
「「「「はっ!!」」」」
ふぅん。魔王が生まれる(断固として'発生'という表現は認めねぇ)って話は、アウトリア教会とやらの神託から出てきたワケね。思わぬ形で情報ゲット。
礼代わりに、苦しませずに、恐怖を感じる暇もない内に殺してやろう。
それから、ほんの数分後。向かってきた兵士や冒険者は皆殺しにして、逃げようとする純人族は手足のいずれかを吹き飛ばしてやった。
まぁ、おかげで街の出入口である門は阿鼻叫喚の地獄絵図状態。簡単に言うと、スプラッタ。それに、何の感慨も湧かない自分の精神がちょい怖い。
まぁ、それは置いといて、目的を達成するとしようかね。
「貴様らの愚かさと脆弱さは身に染みたか? 人種族共」
眼前にて怯えて固まっている連中に声を掛けると、壊れた人形のように首を縦に振りながら震えている生き残り達。
兵士の一部を生かしておいて、権力者と金持ち、商人を集めさせた結果が、コイツら。身分やら財力やらを笠に着て喚き散らしてたけど、目の前で生き残りの兵士達を肉塊に変えてやったら、この様だ。
「では、解呪の鍵、この街にいる狐人族と兎人族全員、最高級の回復薬を持ってこい」
俺の言葉に、震えながらも怪訝な顔をする権力者達。
ふむ。まだそんな顔をして疑問に思う余裕があるか。なかなかに神経が太い。まぁ、長生きはできねぇけどな。
すぐ近くにいたおっさんの頭を持って、よく見えるように掲げてやる。
「ヒィッ!? かっ、金ならいくらでもやる!! そっ、それともおんナ゛ッ゛ッ゛」
下衆にありがちな台詞の途中で、頭を握り潰されて永遠に口を閉じるおっさん。頭部を失った骸が地面に落ちて、その場にいる全員が喉を引き攣らせたような悲鳴を洩らす。
「どうやら、まだ己の立場が理解できておらぬようだ。2度は言わん。命が惜しければ、即座に動け。我の時間を無駄にした分だけ、己の残り時間が削れると知れ」
その言葉で、ようやく動きを見せる権力者達。ただ、完全に腰が抜けたのか、這いずるようにしてる奴らばっかりだ。
こりゃ、結構な時間が掛かりそうだなぁ。ラナンは大丈夫か? ・・なんか心配になってきた。
「我が戻るまでに用意しておけ。無駄な足掻きは骸を増やすだけの行為と知れ」
権力者達の背中に一方的に言い捨てて、ラナンが待つ場所へと走り出す。
そして、ラナンの待つ場所に到着すると、ラナンがキョトンとした顔をする。
「おかえり、魔王。凄く早かった。無事?」
「おう。ただ、返り血で気持ち悪い。水魔法で軽くだけでも落とせるか?」
「ん。《優しき流れ。揺蕩う水よ。我が意に従え》【落水】」
ラナンの魔法で生み出された水が緩い流れで俺の頭から落ちてきて、髪や体に着いた血を洗い流してくれる。流石にズボンに染み付いたのまではどうしようもないけど。
「うぃ~。スッキリした。ありがとな、ラナン」
「ん。撤退?」
「いや、それならこんなにのんびりしてられないぞ」
「・・まさか、もう終わった?」
「まぁ、大半は。あの街の兵士とか冒険者はほぼ全滅だな。今は俺の要求したものを準備させてるんだけど、街の有力者が軒並み腰を抜かしちまってな。時間が掛かりそうだから、ラナンの様子を見にきてみた」
「・・早い・・・ピタエの街には兵士も冒険者も大勢いた筈」
「っても、1000もいなかったからな。いいトコ、700か800ってトコだろ。半分も殺らん内に戦意喪失してたし」
「700人も? 魔王、怪我はない?」
「笑えることに、掠り傷1つないんだな、これが。この体、マジでスゲェわ。魔王だってことに実感湧いた。っつーか、こんなのが他にもポンポンいたら嫌過ぎる」
「ん。魔王は規格外・・そろそろ名前が必要。魔王個人を指したいときに困る」
「ん~。了解。城に戻るまでには考えとく」
そして、そのまましばらくラナンと雑談を交わしてから、再びピタエの街に戻った。
権力者達を集めてた場所には、引きずられてきたっぽいボロボロな狐耳や兎耳を持った人物や、なんとか自力で立ってはいるものの、今にも倒れそうなくらいにフラフラしてる包帯で全身を巻かれた女の子、比較的外傷は少ないけど、服の袖から覗く腕や足が痣だらけの少女達がいた。
それを視認した瞬間、何故か心のざわめきが綺麗になくなり、凪のように静かになった。
「こ、こちらがご所望の狐人族と兎人族でございます」
震えた声で言ってくる狸腹のおっさん。
「・・・魔法薬と解呪の鍵はどうした?」
「は、はひっ! こっ、こちゅらでごじゃいましゅっ!!」
小さな鍵を掌に乗せて、噛みまくりで涙混じりの声を上げる豚みたいに肥えたおっさん。そして、その隣でガタガタと震えながら、両手で大きな革袋を持つ体格のいいおっさん。顔色は蒼白だ。豚のおっさんも顔面蒼白で、狸腹のおっさんは顔にビッシリと汗を浮かべていて、他の連中も明らかに挙動不審だ。
ほぉ・・くだらねぇ小細工を考える余裕がまだあったのか。
「そこのゴミ。貴様が持っているのは魔法薬ではないのか?」
「あ、う・・」
体格のいいおっさんが俺と狸腹へと交互に視線を送る。
狸腹が主導か。どうせ、毒か何かなんだろう。その態度でバレバレだ。まぁ、素直に従わないことも考えてたから、どっちにしろ、毒見はさせるつもりだったけどな。
「わっ、儂じゃない!! りょっ、領主の命令だっ!!」
俺が薄く笑って口を開こうとすると、体格のいいおっさんが先に喚き始めた。
「な゛っ!? きっ、貴様!! これまで目を掛けてやったというのに、裏切る気か!?」
「やかましいわっ!! わっ、儂は反対したんだ!! こんな小細工でとうにかなる相手じゃないと!!」
手にした革袋を地面に叩きつける体格のいいおっさん。袋の中から硬い物が割れる音がして、それから革袋が煙を上げ始める。
結構強力な毒っぽいな。それにしても、勝手に割りやがって。首謀者と賛成した奴に無理矢理飲ませてやるつもりだったのに。
「儂は魔王様に忠誠を誓いますぞ!! ですから、何卒、命ばかりはお助けを!!」
怯えの色に染まった表情のまま、俺の足下で土下座する体格のいいおっさん。
途端に、狸腹やその周りにいる取り巻きらしき連中から、「恥を知れ」だの「人種族の裏切者め」だのと罵声が飛び始める。さらに、解呪の鍵を持った豚も、狸腹の傍に駆け寄り、影に隠れながら罵声を発し始める。
いいねぇ。お前ら、最高だよ。馬鹿ってより、愚かってのがピッタリくる。
「我に忠誠を誓うと言ったな? ならば、即座に最上級の魔法薬を出せ。猶予は十分にくれてやった筈だな?」
「は、はひっ!! わっ、儂に集められるだけがこっ、こちらで」
懐から、数本の鮮血のような紅の液体が入った瓶を取り出して差し出してきた。
「な゛っ!? よさんか!! それはダンジョンで発見された、製法も分かっておらん魔法薬ではないか!?」
「きっ、貴様!! 領主様にも譲らなかった物を、よりにもよって、正体も分からぬ無法者に渡すつもりか!?」
「黙れ」
怒鳴り散らす狸腹共に、低い声で言ってやると、一気に静まり返った。見て分かるくらいに膝を震えさせてやがる。
「どの程度の効果がある?」
「は、ははっ。じゅっ、重傷を負った冒険者で、たっ試しましたとこっろっ、取れかけており、ま、おりっました脚が繋がり、うし、うしっ、失った腕が、が、がは、生えたことをっ、か、確認しておっります」
跪いたままで差し出された紅の魔法薬を受け取る俺。
「ほぅ・・ならば、ちょうどいい。貴様の言う'忠誠'とやらとこの魔法薬の効力を試してみようではないか」
「・・は?」
無理解の声を上げた体格のいいおっさんの肩に手を置き、そのまま無造作に引き千切ってやった。おっさんから、言葉にできない絶叫が上がり、血が噴水のように噴き出す。
そこに、紅の魔法薬を振りかけてやると、その瞬間に血が止まり、何かの冗談のような速度で肩から肉が盛り上がって伸びていき、元通りの腕となった。
スッゲ。これ、エリクシールとかソーマとか、そういう類いの秘薬なんじゃねーの? もったいないことしたなぁ。裏切った演技で油断を誘ってる可能性を考慮してやったことだけど、これなら普通に使えばよかった。
まぁ、俺が使うワケじゃないから、そういうワケにもいかなかったんだけど。
「ゼヒィッゼヒィッ」
おっさんが治ったばかりの肩を押さえて、掠れた荒い息を吐いて踞っている。
「うむ? 礼の言葉が聞こえぬな」
俺の言葉に、狸腹達は顔色を真っ白にして全身を痙攣させてるかのように震え、おっさんは踞ったままの姿勢で、呆然と俺を見上げてくる。
「ゴミの為に、貴重な魔法薬を使用してやったのだぞ? 礼はどうした?」
そう言うと、おっさんはガタガタと震えながら再び平伏した。
「わ、儂ごときゴミへの、お、恩情、誠にか、感謝のこと、言葉もござ、ごさいません。こ、このご恩にむ、報いる為にも、ど、どのようなご、ご命令にもした、したが、従うしょ、所存でございます」
お~。スゲェスゲェ。ホントに礼を言って忠誠を誓いやがった。ちゃんと秘薬って言ってもいいレベルの魔法薬を用意してたのに腕を引き千切られて、それを治したから礼を言えとか、暴君も真っ青な理不尽さだと思うんだけどな~。
よし、このおっさんはここで殺すのはやめとくか。徹底的に使い潰してやろう。
「よかろう。貴様の命は我が使い潰してくれる。感謝しろ」
「は、ははぁっ」
顔色を真っ白からドス黒く変えながら、平伏するおっさん。
そこで、狸腹が1人でこっそりとその場から逃げ出そうとしているのが視界の端に入ったきた。
逃がすワケねーだろーに。ホントに愚かだねぇ。逃げるんなら、小細工しないでとっとと逃げ出しときゃよかったんだ。
「どこに行くつもりだ?」
「ひぃっ!?」
一瞬で前に回り込んで声を掛けてやると、情けない声を上げて、後ろに倒れる狸腹。
「言った筈だ。'無駄な足掻きは骸を増やすだけの行為と知れ'とな」
「ぐっ・・おっ、愚か者めが!! 私を誰だと思っている!? ピタエの街を中心にこの辺り一帯を治める領主、ゼニガ・イツメ・ピタエであるぞ!? 控えろ!! 下賤な亜人!!」
「ク・・ククク・・ははははははははっ!! 愚鈍、愚昧ってのもここまで極めると面白ぇっ!! 純人族の領主は自分を苦しませて殺す相手を笑い死にさせようとかって趣味でもあんのかぁっ!?」
腹を抱えて笑う俺と、完全に凍る空気。
あ~、笑った。予想外のアホさ加減に、せっかく作ってた〈魔王キャラ〉が崩れちまったぢゃねぇか。さっきまでとキャラが違い過ぎて、空気真っ白だよ。あ~、腹痛ぇ。
もういーや。俺は俺らしくで。無理してたら、こうやってボロが出るんだったのがよぉっく分かった。俺に演技は向いてねーわ。
そう結論付けて、空気を戻すことはあっさり諦め、何の前振りも無しで狸腹の両足を貫いてやった。再び上がる絶叫をBGMにして、次々とその場にいるゴミクズの腹や脚を貫いていく。。
その結果、痛みに転げ回り、赦しを乞う言葉や怨嗟、嘆きの言葉を喚き散らすゴミクズ達が出来上がった。周りは当然血に染まり、地獄絵図再びな状態。
それと、倒れたまま動けない同胞の近くで固まり、怯えきった表情で小さくなっている狐人族や兎人族達。
・・こいつらの仲間意識、凄いのな。ゴミクズ共なんか我先にと逃げ出してたってのに、動けない同胞を囲って庇うような形で固まってんだから。まぁ、怯えきっちまって、完全に腰は抜けてるっぽいけど。
仕方ないよなぁ。こんなこと平然とする奴が目の前にいたら、俺なら失禁して失神してる自信あるもんよ。仲間庇うとか、絶対に無理。確実にこのゴミクズと同じよーに、我先にと逃げてる。
こんな奴ら、虐げられてていい筈ねぇよな。
「そこの赤髪赤尻尾の狐耳ちゃん?」
固まった集団の中で、一際目立つ子に声を掛けると、可哀想なくらいにビクゥッと体を震わせて、ガッタガタ震えながら顔を上げた。泣きそうなのか笑い出しそうなのかも分からないくらいに顔が引き攣ってたりする、
・・ごめん。ラナンの話に出てた子っぽいし、目立つから声掛けたけど、恐いよね。でも、黙って傍に行ったら、心臓麻痺でも起こされそうでこっちも怖いんだよ。我慢してください。
「'ミリオラ'って狐人族の女の子を覚えてるか?」
俺の言葉に、目をカッと見開いて、涙をポロポロと溢し始める赤尻尾の狐耳ちゃん。
うぉぁっ!? なんか勘違いさせた!? うん!! ごめん!! 無理ないよね!! でも、話は最後まで聞いて!?
「待て待て待て待て。ホントに待って。あの子は元気だから。君らを助けてって言われたから、解呪の鍵を奪いにきたついでに来たんだよ。これ、マジで。あの子も近くまで来てるし、倒れてる子達とか今にも倒れそうな子達の治療したら、すぐに会わせてあげるから。な? だから、頼むから、泣かないで話聞いて? お願いぷりーず」
必死で言い募る俺に、赤尻尾の狐耳ちゃん達がキョトンとした顔になる。
「え、と・・ま、魔王、様?」
「ん、まぁ、あの子にもそう呼ばれてるし、まだ名前決めてないから、それでいーよ。ってか、話してても大丈夫? 正直、倒れてる子達が心配で堪らんのですが。先にこの薬かけてさせてくんない? ゆ~っくり近付くから。その子達に薬かけたら、すぐに離れるから。だから、とりあえず、泣いたり~は、仕方ないか。怖いよな。怖くても仕方ない。うん。俺がちょっと泣きそうな事実だけど、そこは認めよう。メチャクチャ怖いと思う。んで、何か命令とかされてて、俺に攻撃しなきゃなんない子もいるんじゃないかと思ってるんだけど」
俺の言葉に、ビクッと震える赤尻尾の狐耳ちゃんと、怪我の少なめな兎人族の女の子2人。
やっぱりかぁ。小細工するんなら、こういうトコにもしてるだろうと思ったら、見事に大当たり。
何か賞品か賞金でも出ねー? ケモミミちゃん達に怯えられて、硝子のハートがもうズタボロなの。仕方ないけど。




