プロローグ その7
私たちは、無言のまま顔を見合わせた。
どうしよう、三人で三千ベルツ。高いけど、命の値段だと思えばそんなものか。それにぶっちゃけ、ロデムのお父さんなら払えない金額じゃないだろう。くやしいけど、あの盗賊の言うとおり、魔術師もいれずにパーティを組んだ私たちがバカだったのか。
……ちょっと待って、たしかに私たちに魔術師はいないけど。
大声で叫んだ。
「ヒュプノ・コード!」
ハーディとロデムも、顔を見合わせる。
「そうだ、ヒュプノ・コードだ」
「おう、すっかり忘れてたぜ」
その声のトーンは、明らかに一段階あがっている。
盛り上がる私たちを見て、三人の冒険者たちはあてが外れたといわんばかりに舌打ちをし、くるりと後ろを向いて行ってしまった。
へへん。でももう助けてなんかもらわなくったって、全然平気ですからね。
ヒュプノ・コードっていうのは、いってみれば「眠りの唄」だ。吟遊詩人スキルの基本中の基本だから、いくらハーディが肉体派吟遊詩人だといってもそのくらいは歌えるだろう。
ハーディは、さっそく振り回していたリュートを手繰り寄せた。
彼の性格と同じくらいひね曲がったネックを器用に握ると、力強くかき鳴らす。それは、思ったよりいい音色だった。
「デボちゃん、耳」
ロデムが声を掛けてくれる。
そうだった、調子に乗って聞いてたら、私まで眠りに落ちてしまうんだ。私は慌てて耳を塞いだ。ハーディのリュートが聞けないのは残念だけど、暁亭についたら何か眠くならないやつを弾いてもらってもいい。
リュートを弾きながら声を限りに歌うハーディ。耳を塞いだ音のない世界でみる吟遊詩人の姿はちょっと間抜けな感じがするけれど、彼の奏でるヒュプノ・コードは確実に効果を挙げているようだった。
私たちを取り囲んでいたキラー・ビーの攻撃がとまり、飛び方がゆらゆらとおかしくなってくる。
吟遊詩人って、本当にすごい。
キラー・ビーが、一匹、また一匹と落下しはじめた。それを見ながら、ホッとする半面、内心にムラムラとうらやましい気持ちがわき上がってきた。
やっぱり、私も吟遊詩人になりたかった。楽器を弾いて、歌を歌って、おまけにこんなに役に立つなんて。
いかん、いかん、まだ完全に危機が去ったというわけではないのだ。私は頭を振ってあたりを見回した。
そこに広がっていたのは、今まで目にしたことのない光景だった。
我らが吟遊詩人のヒュプノ・コードは、はじまっていくらも経っていないというのに、殺人蜂の群れをすっかり夢の世界へ連れ去ってしまったようだ。
その数は、何百匹。
春の花の咲き誇る原っぱ一面が眠れる蜂の群れで埋め尽くされていた。それはまるで、アラ・フォーナ神殿の床に描かれた巨大魔方陣のようだ。




