プロローグ その8
おそるおそる演奏を止めるハーディ。それでも、キラー・ビーが目を覚ます様子はなかった。
「静かにしろよ、なんつっても寝てるだけだからな」
ハーディの合図で、私とロデムも耳から手を離し、ゆっくりと動き始める。蜂たちに気づかれず魔方陣を抜け出すため、よろしく抜き足、差し足を繰り返す。
草原の向こうに、メギド火山が顔を出していた。このまま、火山をめざしてまっすぐ進めば、暁亭まではいくらもかからないはずだ。
私は、なんだかウキウキした気分になっていた。今の三人の様子は、まるで小さい頃にやった泥棒ゴッコみたいだ。泥棒ゴッコは、私たちが十歳の頃に流行った遊びだった。ロデムのお父さんの教会には、大きい倉庫がある。そこに一人ずつ忍び込んで、ちょっとしたものを取ってくるというのが、この遊びだった。もちろん、取ってきたものは翌日ちゃんと元に戻しておく。
泥棒ゴッコが一番上手なのは、意外なことにロデムだった。
「デボラおまえ、この非常時に何にやにやしてんだよ、気持ち悪いな」
私がまたいつのまにか自分の世界に入り込んでいたらしい。ハーディに容赦なく突っ込まれた。相変わらず、彼は口が悪い。気持ち悪いだなんて、そんな言い方ってないだろう。そりゃあ、キラー・ビーはいつ目を覚ますかわからない。でも、目を覚ましたら、またハーディが歌えばいいんだから。
「ニヤニヤするくらいいいじゃない。今回命が助かったのは、誰のおかげだと思ってるの?」
得意そうに言うと、ロデムとハーディは不思議そうな顔になった。
「えっと、ハーディが、ヒュプノ・コードでキラー・ビーを眠らせてくれたからだと思うけど」
「まあ、自分で言うのもなんだけど、今日の晩飯はおまえらのおごりだよな。なんせ、あやうく一人千ベルツ払うトコだったんだから」
この男たちは全然わかっちゃいない。
私は、腰に手を当てて仁王立ちになった。
「あのね、ヒュプノ・コードを使うことを最初に思いついたのは誰だったけ」
そうそう、私のおかげなんだ。私も、こうやってみんなの役に立つことができる。旅の記録のタイトルはこうしよう、「デボラ、二十歳のひらめき」。うーん、なんかちょっといやらしい響きだな。
――その時だった。突然、背後で大きな羽音がした。
もう、キラー・ビーが目覚めたの? 私はあわてて振り返った。
「なあんだ。ミルバードか」
そこにいたのは、数羽のミルバードだった。
ミルバードというのは小型の海鳥で、本来はシャロン湾近辺に生息している。でも、環魂祭の間だけわざわざ海を渡ってこの火山地帯に大挙してくる。この時期にキラー・ビーが大量発生するのを知っていて、それを食べに来るのだ。
ミルバードの肉は柔らかく、から揚げにすると最高に美味しい。
「ねえ、このミルバード、何羽か捕まえられないかな」
私は、二人に提案してみた。エア・カッターとか、ハーディ・ハリケーンとか使えば、簡単に捕まえられそうだ。そうしたら、暁亭へのお土産にもちょうどいい。
「そういえば、デボちゃん、ミルバード好きだよね」
「うん、大好物」
「バカなこと言ってるんじゃない! 急ぐぞ!」
「なんでよ、いいじゃない、ちょっとくらい」




