プロローグ その6
一匹・二匹。
うん、いける。こういう細々した仕事は、案外私向きかもしれない。でも、蜂を潰す仕事なんて村に帰ったらあるわけじゃないしなぁ。私向きの仕事って、どんなものだろう。
いつまでも、祖父の家で家事手伝いってワケにはいかない。仕事を探さなきゃ、とは思っているんだけど、なかなかこれというものがないのよね。
ぱっと考えて、お裁縫みたいなものだろうか。でも、それなら村に私より上手な人は何人もいる。王都ではウェイトレスとかもやって結構重宝がられたっけ。でもリーザスの村に一軒ずつある酒場や食堂は、こじんまりしていて人を雇うようには見えなかった。
「痛いっ」
つい考え事をして、キラー・ビーを潰し損ねてしまった。右のすねを刺されたみたいだ。いくら殺人蜂といっても、一回刺されただけで命を取られるわけじゃない。でも、刺されたすねには焼けるような痛みが襲ってきた。
「大丈夫か、デボちゃん」
「痛い。でも、平気」
よくみると、ロデムもハーディも何箇所かは刺されているみたいだ。私だけ泣き言を言うわけにはいかない。
なんとか隙間をくぐって、黒い群れからの脱出に成功する。
でも、まだキラー・ビーたちを退治できたわけじゃないんだよね。蜂たちはあいかわらず羽音をうならせて、私たちが動かなくなるまで攻撃の手を休める気はなさそうだった。
ハーディが、ボソッとつぶやいた。
「俺が、ここでこいつらを食い止めてるから、ロデムはデボラを連れて逃げろ」
「ハーディ、何言ってるんだ。それはさっき僕が提案して却下されたばかりだろ」
ロデムが言う。私も大きくうなずいてロデムに賛成した。ハーディはうっすらと笑った。
「ロデムが、もっと修行してリザレクションを使えるようになるまでここで待っててやるよ。こんな虫ども相手に命三つじゃ割りに会わねえからな。値切れる時は値切っとかないと」
「そんなの、吟遊詩人の台詞じゃないわよ。大丈夫、暁亭まで、もう少しだから」
ハーディが変なことを言うせいで、戦闘中だって言うのに、涙で目の前が曇ってきた。ハーディとロデムはしばらく視線を合わせて、互いにうなずきあった。
「デボラ、旅の記録のタイトルな、こういうので頼むわ。『無敵の吟遊詩人ハーディ、草原に死す』」
「センスない。だいたい無敵だったら死なないし」
ロデムが私の腕をつかむ。
「いくよ、デボちゃん」
「ヤダ、ハーディも一緒じゃなきゃ、ヤダ」
私は、子供のように泣き叫んだ。
その時だった。
「お困りのようだね!」
草原の外れの小高い丘になっているところから、野太い叫び声がした。
みると冒険者風の人影が三つ、こっちを向いて立っている。
彼らは、それぞれ戦士・魔術師・盗賊のようだ。私たちのパーティに比べて格段にバランスがいい。特に、魔術師! 炎系の魔法があれば、今のピンチもあっさり形勢逆転だ。
いったいどこから来たのかわからないけど、こんなに頼もしい助っ人はいない。神様の使いじゃないかしら。心なしか後光が差して見える。
「みての通りだ、助けてくれ」
ロデムが答えた。
私もほっと息をついた。
「崩れる城から飛竜にのる」っていうのは、まさにこんな時のためにあることわざだわ。
すると、冒険者のリーダーらしい戦士風の男が言った。
「それでは、お助けしようじゃないか。一人頭、千ベルツでどうだ」
えぇっ、お金を取るの!
……そりゃあ、こっちは命の瀬戸際だから多少のお礼はしたってかまわないけど、冒険者ってのは困った時は助け合うもんじゃないのかな。それに千ベルツっていうのは法外だ。私だって、王都で働いていた時はそれなりに景気のいいときもあったけど、それでも月のお給金が千ベルツ越えたことはなかった。
私たちが渋った顔を見せたからだろうか。盗賊らしい男が金切り声をあげる。
「魔法ってのは、それなりに元手もかかるんだ。払いたくなきゃ、それでいいさ。恨むんなら、魔術師もいれずにパーティを組んだ愚かな自分を恨むんだな」
「さあ、、どうするね」
戦士風の男が答えを迫ってきた。




