プロローグ その5
実はこの作品、私には珍しく、まだ完結していません。つまり、推理モノなのに完全な行き当たりばったりです。さて、本当に殺人事件までこぎつけられるかどうか・・・
降って湧いたプチハーレム状態に有頂天になっていると、草原の向こうにまたキラー・ビーの群れが出現した。
「やっべぇ、回り込まれた」ハーディが唇を噛む。
三人の行く手に、黒い塊が羽音をぶんぶんいわせて立ちふさがる。よく見ると、群れをなす蜂の小さな赤い目が全部こっちを向いていた。無機質で無感情な分、余計に気持ちが悪い。
一体、何を怒って私たちを付け回すんだろう? 今死んだって全然後悔しない、なんて思ったせいだろうか?
だとしたら、風の神様、それは全面的に撤回です。撤回しますから、もうほんとうに勘弁して下さい。
ロデムとハーディは、急に現れた敵を前にして、すばやく身構えた。私はというと、前の二人が急に立ち止まったので、勢い込んで倒れこみそうになり、ロデムの胸に支えられる。
今がそんな場合じゃないのはわかってはいるけれど、さっき森の中でロデムが言ったことや彼の手の温かさを思い出して自然と顔が赤くなった。
私とロデムとでは、彼の方が頭一つ背が高い。
顔が赤くなったことを悟られないように下を向くと、頭の上からロデムの声がした。
「僕がエア・カッターで道を作るから、ハーディはデボちゃんを連れて逃げろ」
ロデムの表情は真剣だった。
いつの間にか、前に現れた群れと後から追ってきた群れがつながって、私たちは怒れるキラー・ビーの大群にぐるりと取り囲まれている。
彼は、私を逃がすために自分が囮になるつもりらしかった。
私は大バカだ。こんな時に浮かれているなんて。
「ダメだよ、ロデム。私だって戦えるもの」
「……デボちゃん」
「ロデム言ったでしょ、私も変わったって。私だって、昔の私じゃないんだから」
私はロデムの胸から離れると剣を抜いた。久しぶりの感触だ。キラー・ビーの群れ相手に効果的な武器とはいえないけれど、戦って勝てない相手じゃない。
「デボラまでやる気になったんじゃ、俺一人逃げるわけにも行かないな」
ハーディも、リュートを構えた。
「ハーディ、お前まで」
「デボラの前でかっこつけたい気持ちはわかるけどさ。お前が先にやられたら、一体誰がキュアポイズンをかけてくれるんだよ」
「そういうこと。ハーディ、お願い」
「オッケー、禁断の必殺技、ハーディ・ハリケーン、ついに復活!」
ハーディは大見得を切ってから、リュートに結びつけた鉄の鎖を思いっきり振り回しはじめた。
ついに復活、って封印してからまだ半日も経ってないけど、ここはつっこむトコじゃないよね。ハーディ・ハリケーンは、キラー・ビーの群れにはけっこう効果がありそうだし。
迫りくるキラー・ビーの群れに銀色のリュートが飛び込んでいった。ブチブチというビルベリーのつぶれるような音がして、蜂のつぶれた破片が飛び散った。やっつけた蜂の数は少数だけれど、キラー・ビーはひるんだ様子で少し後退して包囲の輪を広げてくれた。
「善神ゼオンの名において命じる、聖なる風の刃よ、我が敵を切り裂け」
その隙をついて、ロデムは「エア・カッター」の呪文を唱える。
エア・カッターは、僧侶が使える唯一の攻撃呪文だ。真空の刃があらわれて敵を切り裂くことができる。空を飛ぶ敵には有効なんだけれど、キラー・ビーの群れ相手には、残念ながら効率が悪そうだ。同じ魔法でも、魔術師の使うファイアー・ブレスの呪文があれば、あっというまに虫の群れを退治できるんだけど。
ロデムの杖の先から、ブーメランのような透明の刃があらわれて、キラー・ビーの黒い群れに飛び込んでいった。エア・カッターは蜂たちを切り裂き、その通り道には、黒い包囲網にぽっかりと隙間ができる。
「よし、ここを突破口にするぞ!」
開いた隙間めがけて、私たちは突っ込んでいった。
なんとか、殺人蜂の群れを突破して暁亭まで逃げるんだ。
走りながらハーディはリュートを回し続ける。禁断の必殺技は私たちを守る盾になってくれた。私の仕事は回転する銀のリュートをかいくぐって襲ってくる蜂からハーディを守ることだ。話し合ったわけじゃないのに、いつのまにか役割分担ができている。さすが、幼馴染って感じで、なんか嬉しかった。
エアカッターってのは、イメージとしてはバギですね。僧侶唯一の攻撃呪文と本文中にありますが、デボラが知らないだけでおそらくザキにあたる呪文も存在はするでしょう。




