↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
94/216

第94話 銀の鎖

 廊下の端まで走ると、足音は、頭の上で散らばっていった。追っ手は、フェイがどこへ逃げたのか、見失ったらしい。


 突き当たりに、小さな扉があった。フェイは、肩で押して中に滑りこみ、後ろ手に閉めた。


 倉庫だった。古い机や椅子が、天井近くまで積み上げてある。窓は、高いところに1つだけ。埃と、古い木の匂いがした。


 フェイは、王妃を下ろした。王妃は、自分の足で立とうとして、ふらついた。


 廊下を、足音が近づいてきた。


 フェイは、王妃を、積んだ机の陰の壁ぎわへ寄せた。右手を、王妃の顔の横の壁についた。自分の体で、扉のほうから王妃を隠す。


 足音が、扉の前で止まった。


 王妃が、息をのんだ。肩が、小さく震えている。


 フェイは、王妃の耳元に、顔を寄せた。


「動かないでください」


 囁き声しか、出せなかった。


「王妃様には、指一本触らせません。おれが全部やりますから」


 扉の向こうで、誰かが舌打ちをした。足音が、遠ざかっていく。


 フェイは、壁から手を離した。


「行きました。もう、だいじょうぶ……王妃様?」


 王妃が、壁に背中をつけたまま、ずるずると床に座りこんでいた。両手で、頬を押さえている。守り石のせいで青かったはずの顔が、耳の先まで、真っ赤だった。


「王妃様!? どこか、痛いんですか!?」

「……ちがうの」


 王妃は、指の隙間から、フェイを見上げた。


「……ずるいわ。そんなこと、そんな声で、耳元で言うなんて」

「え?」

「なんでもないわ……少し、腰が抜けただけよ……」


 フェイは、首をかしげた。それから、左の手首に目を落とした。


 細い銀の鎖に、小さな石が3つ、並んでいる。緑の丸い石。金の、雫の形の石。紫の、角ばった石。


 学園祭の、3日前のことだった。


「あなた、それ、ずっとポケットに入れてるの?」


 昼休み、ギュンターさんの石を出して眺めていたら、リアに見つかった。


「執事には持たせて、私たちには無いの?」


 次の日、リアは紫の石を持ってきた。その次の日の朝には、ソフィアが金の石を持ってきた。2人とも、対になったもう片方を、自分で持っているという。


「3つもあったら、失くすでしょ」


 リアが、細い銀の鎖を出してきて、3つの石をつないだ。


「……手、出して」


 鎖をフェイの手首に巻いて、留め金を留めたのは、ソフィアだった。留めたあとも、しばらく、フェイの手首を離さなかった。


 フェイは、金の石を指でつまんで、口もとに寄せた。冷たくて、澄んだ石だった。


「ソフィ。聞こえる?」


 少しの間があって、石の中から、かすれた声がした。


『……フェイ!? お母様は!?』

「だいじょうぶ。一緒にいる。倉庫に隠れてる」

『よかった……。こっちは、会長が生徒とお客さんを外へ出してる。ノエル先生は、敵の居場所を探してくれてるわ。シエルとブリジット先輩も、こっちに向かってる』


 フェイは、紫の石もつまんだ。


「リア」

『聞こえてるわ。門の屋台は押さえた。……でも、守り石はもう配り終わったあとだったの』

「敵は、まだ校舎の中にいる。王妃様が狙いだと思う」

『分かってる。それで、どうするの?』


 フェイは、床に座りこんだままの王妃を見た。


「学園のことは、みんなに任せていい?」

『最初から、そのつもりよ』

『任せて』


 2つの石から、同時に声がした。


「おれは、王妃様を連れて、外に出る」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。