第87話 ナースって何?
夏休みが明けて、最初の朝の授業は、学園祭の話し合いだった。
「1年生は、クラスごとに出し物をひとつ。何をやるか、今日のうちに決めておくように」
担任のノエル先生が、黒板に大きく「出し物」と書いて、教室を出ていった。とたんに、あちこちで手が挙がった。
「劇がいい!」
「劇は、準備が大変だって」
「じゃあ、占いの館」
「誰が占うんだよ」
黒板に、案が次々と並んでいく。消されては書かれ、最後に残ったのは、喫茶店だった。
「喫茶店なら、お茶とお菓子を出すだけでいいし」
「でも、お菓子は、誰が作るの?」
教室が、しんとした。貴族の子ばかりのクラスだった。台所に立ったことのある者は、ほとんどいない。
フェイは、手を挙げた。
「おれ、作れるよ。おばあちゃんに教わったから」
教室じゅうの目が、フェイに集まった。
「……パンケーキとか?」
「うん。焼き菓子も。あと、木の実のパイ」
おおっ、と声が上がった。喫茶店に、決まった。
給仕の衣装の話になったのは、その後だった。
「ただの給仕服じゃ、つまらないわよね」
前の席の女子が、目を輝かせた。
「ナース服はどう? 白い服に、白い帽子。施療院で看護の人たちが着てるやつ」
女子たちが、きゃあっと声を上げた。男子たちは、なぜか急に黙った。
「ナースって、何?」
フェイが訊くと、ソフィアが、そっと身を乗り出して教えてくれた。
「病気やけがをした人のお世話をする人のことよ。施療院で、お医者様を手伝うの」
「へえ。じゃあ、ソフィとメイが着たら、似合いそうだね」
ソフィアの顔が、ぼっと赤くなった。
「わ、私!?」
「だって、ソフィ、優しいし。メイも、いつも、おれの世話を焼いてくれるし」
メイベルが、手に持っていた筆を、ぽとりと落とした。
「……そういうことを、真顔でおっしゃらないでください」
前の席の女子が、ぱんと手を叩いた。
「決まりね! 王女様とメイベルさんは、ナース服!」
「ちょっと待って、私はまだ何も……!」
「似合うと思うよ?」
「フェイ、もう言わないで……!」
ソフィアは、両手で顔を覆ってしまった。指のあいだから見える耳が、真っ赤だった。
メイベルは、落とした筆を拾いながら、ちらりとソフィアを見た。
それから、ソフィアの耳もとに口を寄せて、何か囁いた。
顔を覆っていたソフィアの指の隙間が、少しだけ開いた。




