第84話 学園祭の届け
王都へ帰る朝、門の前に、街じゅうの人が集まった。
鍛冶屋の親父が、フェイの背中をばしばし叩いた。粉屋の通りの子どもが、焼きたてのパンを抱えて走ってきた。修道女たちは、シエルの手を取って、何度も頭を下げていた。
「フェイ殿」
辺境伯が、フェイの前に立った。
「次に来るときは、ゆっくり泊まっていけ。中庭の植えこみも、植えなおしておく」
「すみません、あれ」
「いい。久しぶりに、空がよく見えた」
辺境伯は、がっはっはと笑った。それから、声を落とした。
「娘を、頼む」
「お父様!」
馬の上から、ブリジット先輩が叫んだ。辺境伯は、聞こえないふりをしていた。
帰りの馬車の中は、行きよりも静かだった。
シエルは、窓に頭をもたせかけて、すうすうと眠っていた。膝の上には、行きと同じ小さな本。今度は、上下が正しかった。
ノエル先生は、眼鏡をかけたまま、窓の外を見ていた。ときどき、ガラスに映ったフェイと目が合いそうになると、すっとそらす。
「先生」
「なんだ」
「先生がいてくれて、助かりました」
先生は、窓の外を見たまま、すぐには答えなかった。
「……付き添いだからな」
それだけ言って、また窓の外を見た。ガラスに映った先生の口もとが、少しだけゆるんでいた。
4日目の昼、馬車は王都に着いた。
寮の前で馬車を降りると、門の柱に、リアが寄りかかっていた。日傘を差して、手に紙の束を持っている。
「おかえり。ずいぶん活躍したそうじゃない」
「なんで知ってるの!?」
「王家の目よ。何回言わせるの」
リアは、日傘を傾けて、フェイの顔を覗きこんだ。それから、ふっと真面目な顔になった。
「お守りの魔石を売っていた行商人がいたでしょう。あの男の足取りを追わせたの」
リアは、紙の束をめくった。
「国境の街を出たあと、いくつかの村を回って、王都に入ってる。名前は、毎回違う。でも、背負い箱の形と、売っている品は同じ」
「王都に?」
「ええ。それで、商人の出入りの届けを、片っ端から調べさせたの」
リアは、1枚の紙を抜き出して、フェイに見せた。
細かい字で、店の名前と、品物と、日付がずらりと並んでいる。その中の1行に、赤い線が引いてあった。
――学園祭、出店の届け。品、守り石。
「学園祭に、同じ品を売る店が、届けを出してるのよ」
リアは、紙を畳んだ。
「名前は違うけど、売っている品も、届けの字の癖も同じなの」
夏の終わりの風が、日傘の縁を揺らした。
フェイは、国境の街の、北の丘を思い出していた。
フードの影と、紙のこすれる音。




