第8話 剣は持ってないです
革の筒から出てきたのは、くるりと巻かれた厚い紙だった。端に赤い封蝋が垂らしてある。
イザベラはそれをメイベルに渡した。メイベルが一歩前に出て、紙を広げる。
鎧の男たちが、いっせいに背筋をのばした。
「アルセリア王国国王、オスヴァルト・アルセリオの名において」
メイベルの声は、さっき名乗ったときよりも少しだけ高かった。
「先の狩猟会にて、王女ソフィアの命を救いし者、フェイ。その功、大なるものと認め、ここに騎士爵を授ける」
山の上を、風が通り抜けた。
干した洗濯物が、縄の上でぱたぱたと鳴る。
フェイは、メイベルの持つ紙を見て、それからイザベラを見て、最後にバルタザールを見た。
「きし、しゃく?」
「騎士の位よ」
イザベラが、やさしく言った。
「あなたはもう、ただの山の子じゃないの。この国の貴族の一員。下から数えたほうが早い位だけれど、剣を帯びることも許されるし、王都のどこへ行っても、誰もあなたを追い返せない」
「剣」
フェイは自分の腰を見下ろした。縄で結んだズボンがあるだけだ。
「おれ、剣持ってないです」
ソフィアが、また吹き出しそうになって唇を噛んだ。メイベルは紙を持ったまま、肩を小さく震わせている。
「剣は、あとで用意させるわ」
イザベラは、笑いをこらえた顔のまま続けた。
「本当はね、王都の城で式をするものなの。でも陛下が、あなたは呼んでも来ないだろうって」
「来ないって、どうして?」
「狩猟会で、陛下の前から帰ってしまったでしょう」
フェイは、あ、という顔をした。
「あのとき、王様もいたんですか?」
「いたわよ。あなたのすぐそばに」
フェイは頭を抱えた。全然、気づいていなかった。おじいちゃんたちが待っていることで、頭がいっぱいだったのだ。
「ご、ごめんなさい!」
「いいのよ。陛下は、面白がっていらしたから」
ハンナが、フェイの背中をぽんと叩いた。
「ほら、ちゃんとお礼を言いな」
「あっ、はい! ありがとうございます!」
フェイが勢いよく頭を下げると、メイベルが巻き直した紙を両手で差し出した。受け取った紙は、思っていたよりずっと軽かった。
バルタザールは、ずっと黙っていた。
フェイの手の中の紙を見つめ、それから、坂を下ったずっと先の空を見やる。王都のある方角だった。
やがて、バルタザールはイザベラに向きなおった。
「イザベラ殿」
低い声だった。
「ひとつ、頼みがある」




