第7話 おうじょ、おうひ
3日後の朝、フェイが家の前で腕立て伏せをしていると、山道の下から蹄の音が近づいてきた。
「197、198、199……200!」
最後の1回を終えて顔を上げると、馬が何頭も、家の前の坂を上ってくるところだった。鎧を着た男たちに囲まれて、屋根のついた小さな馬車が1台。
馬車の扉が開いた。
降りてきたのは、あの青いドレスの女の人だった。続いて、白い服の女の子。それから黒い服の女の子。
「あ」
フェイは立ち上がって、手についた土を払った。
「熊のときの!」
白い服の女の子が、ぱっと顔を輝かせた。何か言いかけて、慌てて口を押さえる。その隣で、黒い服の女の子も同じ顔をしていた。
鎧の男たちは、馬から降りてもフェイから目を離さなかった。何人かが顔を寄せて、ひそひそと何か言い合っている。
青いドレスの女の人が、ちらりとそちらを見た。それだけで、ひそひそ声がぴたりと止んだ。
「騒がしいのう」
家の戸が開いて、バルタザールが出てきた。後ろにハンナもいる。
女の人は、ドレスの裾をつまんで、深く頭を下げた。
「ご無沙汰しております、バルタザール様」
「イザベラ殿か。わざわざ山の上まで、ご苦労なことじゃ」
フェイは、おじいちゃんと女の人を交互に見た。知り合いだったらしい。
イザベラと呼ばれた人は、顔を上げると、フェイとバルタザールを見比べた。
「失礼ですが、バルタザール様。この子は?」
「うちの子じゃ。15年前に拾うた」
イザベラが、目を見開いた。白い服の子も、黒い服の子も、鎧の男たちまでもが、同じ顔をした。
「バルタザール様が、子どもを……?」
「知らせる理由も無かったでな」
バルタザールは、それきり何も言わなかった。
黒い服の女の子が、一歩前に出た。背筋をのばして、フェイに向かって丁寧に頭を下げる。
「先日は、ありがとうございました。わたくし、メイベルと申します。こちらはアルセリア王国の王女、ソフィア様。そしてこちらが、王妃イザベラ様でございます」
「おうじょ」
フェイは、白い服の子を見た。
「おうひ」
それから、青いドレスの人を見た。
隣で、ハンナが小さく耳打ちした。
「王様のお嫁さんと、お姫様だよ」
フェイは、たっぷり3つ数えるあいだ固まっていた。
「……えええっ!?」
山じゅうの鳥が、いっせいに飛び立った。
ソフィアが、こらえきれずに吹き出した。イザベラも口もとを手で隠して、肩を震わせている。
ひとしきり笑ってから、イザベラは侍女から細長い革の筒を受け取った。
「今日はね、フェイ。陛下からのお言葉を預かってきたの」




