↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
78/216

第78話 魔力0だから

 最初の家は、鍛冶屋だった。


 戸を開けると、むっとした熱気が顔に当たった。炉は火が落ちて冷えているのに、部屋の中が妙に蒸し暑い。奥の寝台に、大柄な男が横たわっていた。


「誰だ……」

「教会まで運びます。聖女様が待ってます」


 フェイは、男を背中に担いだ。それから、隣の寝台で寝ていた男の息子を、片腕で抱えた。


 外に出ると、通りに集まっていた人たちが、どよめいた。


「おい、あの子、病人の家に入ったぞ」

「出てきた……。なんともないのか?」


 なんともなかった。熱も出ないし、体もだるくない。いつもどおり、腹が減っているだけだ。


 フェイは、教会と家々のあいだを、何度も往復した。1度に2人、ときには3人。足の悪い老婆を背負い、泣く赤ん坊を抱いた母親を、そのまま抱え上げて走った。


 教会の前では、ノエル先生が、運びこまれた人の名前を帳面に書きつけていた。先生は、病人の家には入れない。そのかわり、水を汲み、布団を干し、修道女たちに指示を出していた。


「次は、粉屋の通りだ。3軒目と5軒目に、子どもがいる」

「はい!」


 フェイが駆け出そうとすると、先生が、その腕をつかんだ。


「フェイ。本当に、なんともないんだな」

「なんともないです」


 先生は、フェイの顔をじっと見た。それから、額に手を当てた。ひんやりした、細い指だった。


「……熱は、無いな」


 先生は、手を離した。フェイが走り出してからも、その背中を目で追っていた。


 日が暮れるまでに、フェイは42人を運んだ。


 教会の中は、藁布団で埋まっていた。シエルが、その間を縫うように歩き、1人ずつ手をかざしていく。昨日より、ずっと手の光が細かった。


「シエル、顔、白いよ」

「だいじょうぶです。フェイさんこそ……」


 シエルは、フェイを見上げた。運んでいるうちに上着を脱いで、シャツの袖をまくり上げていた。汗で、シャツが背中に貼りついている。


 シエルの顔が、ぽっと赤くなった。


「……だ、だいじょうぶそうですね」


 教会の入口で、腕を組んで立っている大きな影があった。


 辺境伯だった。病人の家には入れないかわりに、日に何度も、教会の前まで様子を見に来ているらしい。


「小僧」


 辺境伯は、フェイの前まで歩いてきた。


「今日、大の男を3人まとめて担いで、坂を駆け上がっていたな」

「はい。鍛冶屋さんの通りの坂です」

「息も切らさずに、だ」


 辺境伯の目が、ぎらりと光った。顔の刀傷が、笑みの形に引きつれた。


「明日の朝、館の中庭に来い。手合わせを願いたい」


 入口の陰で、ブリジット先輩が、小さく悲鳴を上げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。