↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
77/216

第77話 ひと晩で元どおり

 次の朝から、シエルは街の教会に詰めた。


 教会の床には、藁布団がずらりと敷かれていた。重い病人を、家から運んで寝かせてあるのだ。高い窓から差しこむ光の中に、細かい埃が舞っている。薬草を煮出した、苦い匂いがこもっていた。


 シエルは、いちばん手前の布団の横に膝をついた。寝ているのは、若い騎士だった。顔が赤いのに、唇は白い。


 シエルが、騎士の胸の上に手をかざした。


「光よ、癒やしを」


 手のひらから、淡い光がこぼれた。光は、蜂蜜みたいにとろりと、騎士の胸に染みこんでいく。


 騎士の荒い息が、少しずつ静かになっていった。赤かった顔から、熱が引いていく。


「……楽に、なった」


 騎士が、かすれた声で言った。まわりで見ていた修道女たちが、わっと声を上げた。


 シエルは、ほっと息をついて、次の布団へ移った。その次へ。また、その次へ。


 ふだんのシエルは、本を逆さまに持つような子だ。今は、違った。病人の顔を見て、手首に触れて、どこが悪いのかを修道女に訊く。迷わない。手が止まらない。


 フェイは、教会の入口で、その背中を見ていた。


 昼を過ぎて、日が傾いても、シエルは手を止めなかった。額に汗が浮かび、かざす手の光が、少しずつ細くなっていく。


「シエル、休もうよ」

「あと、少しだけ……」


 夕方、ようやく教会の中の全員に、光が行き渡った。


 シエルは、祭壇の段に腰を下ろして、肩で息をしていた。それでも、顔は笑っていた。


「みなさん、熱が下がりました。……よかった」


 ノエル先生が、水の入った木の椀を差し出した。


「よくやったな。今夜は、もう寝ろ」


 その夜、館の客間で、フェイは久しぶりにぐっすり眠った。


 次の朝。


 教会の扉を開けたシエルが、入口で立ちすくんだ。


 昨日、熱が下がったはずの騎士が、また真っ赤な顔をして、荒い息をついていた。その隣も。その隣も。


「そんな……」


 シエルは、騎士の横に駆け寄って、手をかざした。光が、騎士の胸に染みこむ。熱が、引いていく。


 けれど、修道女の1人が、青い顔で言った。


「聖女様。昨日の夜、家に帰した人たちも……今朝になって、また」


 シエルの手が、止まった。


 治しても、治しても、ひと晩たつと、元に戻ってしまう。


「どうして……」


 小さな声が、高い天井に吸いこまれていった。


 フェイは、教会の外に並ぶ家々の、布の下がった窓を見回した。


 まだ、あの窓の向こうに、教会まで来られない人たちがいる。


「シエル。おれ、家にいる人たちを運んでくるよ」

「え……でも、病人の家には、入ってはいけないって」

「魔力の多い人は、でしょ」


 フェイは、肩を回した。


「おれ、魔力0だから」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。