↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
71/216

第71話 初めてのゴルフ

 次の朝、王妃はとても機嫌がよかった。


「またいらっしゃいね、フェイさん。お風呂も、いつでも用意しておくわ」

「お母様!」


 ソフィアは、フェイと目を合わせようとしなかった。耳だけが、ずっと赤い。


 メイベルは、いつもと同じ顔で、深々と頭を下げた。


「いってらっしゃいませ、フェイ様」


 様が、戻っていた。


 顔を上げたメイベルが、ほんの少しだけ、唇の端を上げた。フェイは、手と足が同時に出そうになりながら、馬車に乗りこんだ。


 ノクターン公爵家の屋敷は、王都の西にある丘の上に建っていた。


 門をくぐると、黒い屋根の大きな館が見えた。その前に、リアと、2人の大人が立っていた。


 1人は、謁見の間で見た顔だった。ノクターン公爵。白いものの混じった髭を、きれいに整えている。


「よく来てくれた、フェイ君」


 公爵は、両手でフェイの手を握った。握手というより、しがみつくような握り方だった。


 その隣で、細身の婦人が、目を潤ませていた。


「あなたがフェイさん……。娘を、助けてくださって……」


 公爵夫人は、それ以上言えずに、ハンカチで目もとを押さえた。


「お母様、泣かないで。昨日から何回目よ」

「だって、リア……」


 リアが、困ったように笑った。家族の前のリアは、学園のリアより、少しだけ子どもっぽかった。


 昼食のあと、公爵が言った。


「フェイ君。ゴルフは、やったことがあるかね?」

「ごるふ?」

「リアが、君に見せたいと言っていたものだよ」


 館の裏には、見渡すかぎりの芝が広がっていた。ところどころに小さな旗が立っていて、刈りたての草の匂いがする。


「棒で球を打って、あの旗の下の穴に入れるの。少ない回数で入れた方が勝ち」


 リアが、細い棒をフェイに渡した。先が、平たく曲がっている。


「握り方は、こう。……違う、こうよ」


 リアが、フェイの後ろに回った。手の上から、フェイの手を包みこむ。背中に、リアの体温がくっついた。


「足は肩の幅。膝を少し曲げて。……力を抜いて、振るの」


 耳もとで、リアの声がした。フェイは、言われたとおりに棒を振った。


 かきん、と澄んだ音がした。


 球は、空に吸いこまれていった。旗を越え、芝を越え、屋敷の塀を越えて、見えなくなった。


 手の中で、棒の先が、ぽきりと折れていた。


「……力を抜いてって、言ったわよね」

「抜いたよ!?」


 公爵が、腹を抱えて笑い出した。夫人も、ハンカチを口に当てて肩を震わせている。


 リアは、両親の顔を、少しのあいだ黙って見ていた。


 それから、新しい棒を手に取って、フェイに渡した。


「もう1回。今度は、もっと抜くの」


 その声が、さっきより少しだけ柔らかかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。